ここでは、俺のフレンチを題材にしたビジネスアーキテクチャの例を紹介します。
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事業パーパス
誰に何の価値を提供するか?
顧客
高級フレンチが食べたいけど高価格のためなかなか食べられないという人々に
安くて美味しい高級フレンチを提供する
一流シェフ
市場価格の制約のためそこそこのフレンチ料理しかつくれず、モチベーションが落ちている一流シェフに
好きなようにフレンチ料理を作る機会を提供する
なぜ、その事業を始めようと想ったのか?
俺のフレンチの場合、市場価格があるため、そこそこの食材で、そこそこのフレンチ料理しかつくれず、モチベーションが落ちている一流シェフに、思う存分、好きな食材をつかって、好きなようにフレンチ料理、つまり、
「俺のフレンチ」をつくらせてあげたい!
という想いが、ビジネスをつくるキッカケだったそうです。
しかし、市場価格の制約があるため高級食材でフレンチ料理をつくると利益が出ません(問題の原因)。
そうすると、店の回転率を上げて薄利でも事業が成り立つようにするしかありません(課題)。
そこで、考えたのが、
高級フレンチを立ち食いスタイルのお店で提供する(解決策)
というビジネスモデルだったのです。
しかし、立ち食いでもよいので高級フレンチを安く食べたいという顧客が本当にいるのか(価値仮説)?
おそらく、最初は仮説検証を繰り返して新しい市場を開拓していったのではないでしょうか(価値仮説の検証)。
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事業成長モデル
高級フレンチを立ち食いスタイルのお店で提供する
というビジネスをモデル化して事業が本当に成長し持続可能か検証してみましょう(成長仮説)。
上図は、事業がどのように成長するかを表した事業成長モデルです。
- これを見ると、まず、一流シェフがつくった美味しいフレンチ料理を立ち食いスタイルの店舗で顧客に安く提供する流れがあることがわかります。
- また、それと同時に、一流シェフにも「俺のフレンチ」をつくる機会を提供することができることもわかります。
- さらに、顧客から得た対価を、立ち食いスタイルの店舗と一流シェフの獲得に投下することで、さらに多くの人に美味しいフレンチ料理を安く提供することができるという好循環ができていることもわかります。
つまり、このビジネスモデルは、正のフィードバックループが回転する成長のスパイラルモデルになっているのです。
そして、このモデルを見ると、
- 有限のリソースである一流シェフをいち早く確保すること
- 有限の空間である地域にいち早く出店して地域ドミナントを確立すること
で競争優位性を確立できることもわかります。
一流シェフや地域は有限なので、いつか、それらの獲得が困難になることが予想されます。
そうなると、逆回転、つまり、負のフィードバックによる衰退のスパイラルが始まることになります。
例えば、
一流シェフを育成する、
海外市場へ展開する
などコアとなるリソースをどう確保するかが重要な課題になるのです。
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バリューチェーン
次に、顧客と一流シェフにどのように価値を提供するのか考えてみましょう。
次の二つの視点で考えることができます。
- 空間の拡張
より多くの顧客、および、シェフに価値を届けるためには、事業成長モデルでも見たように、一流シェフと店舗を増やしていく必要があります。
なので、バリューチェーンを構成する活動でいうと「シェフ獲得」と「店舗開発」が重要になります。 - 時間の拡張
美味しい料理を届け続けるためには、絶え間なく商品開発を行い、常に新しい商品を提示することで、顧客を飽きさせない必要があります。
なので、バリューチェーンを構成する活動でいうと「商品開発」が重要になります。
なお、「商品開発」をする際は、情報資産(ノウハウ)であるレシピを蓄積するようにします。
以上からバリューチェーンを設計すると次のようになります。
バリューチェーンの主要活動の中心は、顧客に直接価値を提供するオペレーション(食材を仕入れて販売するまでの活動)と、顧客を獲得し維持管理する活動になりますが、「シェフ獲得」「店舗開発」「商品開発」が企業の強みとなるコアコンピタンスになって競争優位性を確立する流れになっていることがわかります。
それから、有限の資源である一流シェフには限りがあるので、現在のシェフのモチベーションを維持、向上させるとともに、将来の一流シェフを育てるという意味で「シェフ活性化」もコアコンピタンスとして考えました。
なので、これらの活動を支援するデータやアプリケーションが資産価値を持つ(稼ぐ力を持つ)戦略的(投資すべき)データやアプリケーションということになります。
なお、支援活動としての「商品管理」、「社員管理」、「取引先管理」、「店舗管理」の内容は次のようになります。
- 商品管理
商品の内容や価格を変更するなど、現在の商品を活性化、維持する活動。 - 社員管理
店舗スタッフの採用や社員の福利厚生や給与計算などの人事労務管理活動。 - 取引先管理
仕入先や不動産業者、工事請負会社などの取引先を管理する活動。 - 店舗管理
店舗の改装や維持など、現在の店舗を活性化、維持する活動。
支援活動のうち薄い青の活動が事業支援活動、濃い青の活動が企業支援活動になります。
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ジョブ
次に、顧客と一流シェフに誰が価値を提供するのか考えてみましょう。
ここでは、バリューチェーンを実現する職務(ジョブ)を洗い出します。
この中で、企業の「核となる能力」となるコアコンピテンシーを持つジョブは、シェフの役割である「サービス」や「商品管理」は当然として、一流シェフを獲得する能力を持つ「社員管理」と、立地やデザインを考慮して顧客が入る店舗を開発する能力を持つ「店舗開発」だと考えます。
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ビジネススプロセス
最後に、顧客と一流シェフに誰がどのように価値を提供するのか(ジョブ×バリューチェーン)をビジネスプロセスとして設計することで、このビジネスモデルの実現可能性(Feasibility)を検証します。
ここでは、バリューチェーンを構成する以下の活動のビジネスプロセスを考えます。
- シェフ獲得
- 店舗開発
- 商品開発
- 顧客獲得
- オペレーション
なお、ビジネスプロセスは、UMLのユースケース図とアクティビティ図で表します。
シェフ獲得
ビジネスプロセス
「シェフの獲得」プロセスは、シェフ一人を獲得するサイクルで、「人的資源管理(HRM)プロセス」の一つです。
「シェフ獲得」はコアコンピタンスの一つです。
有限の資源である一流シェフをより早く、より多く獲得するためには、「シェフの獲得」プロセスの回転速度を上げる必要があります。
アクティビティフロー
このアクティビティフローの中で重要な活動(アクティビティ)は、一流のシェフを多く集めるための「シェフの募集」、シェフの能力を適切に評価する必要がある「面接」だと考えます。
採用活動はとかく属人的になりがちですが、DX(仮説検証の仕組化による持続可能性の向上)という観点でいうと、できるだけデータ(事実)を活用して科学的に実施するにはどうすればよいか考える必要があります。
なので、一流のシェフを多く集めるために必要なデータや、それを支援するアプリケーション、また、シェフの能力を適切に評価するために必要なデータや、それを支援するアプリケーションが戦略的データ、および、アプリケーションということになります。
店舗開発
ビジネスプロセス
「店舗開発」プロセスは、新しい店舗を開発するサイクルで、「設備管理(AM)プロセス」の一つです。
「店舗開発」はコアコンピタンスの一つです。
有限の資源である空間に、より早く出店し、先行利益を獲得するには「店舗開発」プロセスの回転速度を上げる必要があります。
しかし、確実に事業を拡大するためには、闇雲に出店するのではなく、人的資源やキャッシュフローの状態を考えながら成長速度を調整する必要があります。
アクティビティフロー
このアクティビティフローの中で重要な活動(アクティビティ)は、「売上の予測」と「店舗のデザイン」だと考えます。
店舗は流動性が低い固定資産です。
オープンしたら見込みちがいだったということがないよう売上予測の精度を上げる必要があります。
また、客席数や雰囲気など、その地域にあった店舗のデザインも人を呼び込む重要な要因になります。
店舗開発も、採用活動同様、とかく属人的になりがちですが、DX(仮説検証の仕組化による持続可能性の向上)という観点でいうと、できるだけデータ(事実)を活用して科学的に実施するにはどうすればよいか考える必要があります。
なので、売上予測の精度を上げるために必要なデータや、それを支援するアプリケーション、また、地域にあった適切な店舗のデザインに必要なデータや、それを支援するアプリケーションが戦略的データ、および、アプリケーションということになります。
商品開発
ビジネスプロセス
「商品開発」プロセスは、新しい商品を企画、開発するサイクルで、「製品ライフサイクル管理(PLM)プロセス」の一つです。
顧客のリピート率を上げるには、常に新しい商品メニューを提示して顧客を飽きさせない必要があります。
アクティビティフロー
このアクティビティフローの中で重要な活動(アクティビティ)は、「顧客のニーズ調査」と「コンセプトの作成」だと考えます。
商品をカテゴリに分けてポートフォリオを作成し、顧客ニーズの傾向を分析した上で、新しい商品を企画するなど、戦略的にデータやアプリケーションを活用してコンセプトを効率的、かつ、効果的に作るにはどうすればよいか考える必要があります。
また、インセンティブを設けて会員に試食モニターになってもらうことで顧客との関係を深めることができます。
なお、商品化する際、情報資産(ノウハウ)としてレシピを記録し共有することで、どのシェフでも同じ料理を同じ品質で提供することができるようになります。
顧客獲得
顧客獲得、オペレーション、顧客管理の活動は、コトラーのカスタージャーニーを構成する活動に該当します。
各顧客接点を考えて、潜在利用者から伝道者(ファン)にするための活動をビジネスプロセスとして定義します。
オペレーション
ビジネスプロセス
オペレーションプロセスは、次のプロセスより構成されます。
- 食材の仕入
シェフが、その日の食材を仕入れて、調理できる状態に加工するまでのサイクルです。 - 店舗オペレーション
顧客が来店して、代金を支払うまでのサイクルです。
アクティビティフロー
- 食材の仕入
- 店舗オペレーション
料理に対する顧客の評価は、シェフが成長するために最も効果的な動機づけになります。
来店した顧客に5段階評価でレビューしてもらい、それをシェフにフィードバックするなど、アプリケーションを効果的に利用することで、シェフの能力を維持、向上させることができます。
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バリューストラクチャ
俺のフレンチのジョブの相互作用を考えてバリューストラクチャを設計すると次のようになります。
ここでは、より機能を集約させるために、会計管理から固定資産管理を独立させ、社員管理から給与管理を独立させています。
固定資産管理は、固定資産台帳を管理する役割です。
給与管理は、主に給与計算を行う役割です。
バリューストラクチャの展開
バリューストラクチャは、データアーキテクチャの全体概念データモデル、アプリケーションアーキテクチャのコンテキストマップに展開することができます。
次の図は、俺のフレンチのバリューストラクチャをコンテキストマップに展開した例です。
コンテキストマップを構成する要素をアプリケーションタイプといい、ジョブと同じ単位で定義します。
その際、プリケーションタイプで管理するデータ(図中のストレージアイコン)も明確にします。
また、アプリケーションタイプのUはUpstream(上流)の略で、モデルの変更が相手に影響を与える側で、DはDownstream(下流)の略で相手のモデルの変更の影響を受ける側です。
アプリケーションアーキテクチャでは、このコンテキストマップを受けて、上流と下流をどう統合するのか設計します。
データアーキテクチャの場合、バリューストラクチャが全体概念データモデルになるので、それを構成する活動領域(ジョブの単位と同じ)ごとに概念データモデルを設計します。
次の図は、全体概念データモデル(バリューストラクチャ)の販売領域の概念データモデルの例です。
これは、コンテキストマップでいうと、販売アプリケーションタイプの販売データの概念データモデルになります。
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以上、ここでは「俺のフレンチ」のビジネスアーキテクチャについて紹介しました。
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[…] さて、記事「【実践!DX】ビジネスアーキテクチャの設計方法」で事業成長モデルについて紹介しました。 資産が価値を生み出すことで事業パーパス「誰に何の価値を提供するか」を実現し、それによる対価を資産に投資するという正のフィードバックループを創ることで、ビジネスの実行可能性(Viability)、つまり、ビジネスが成長し持続可能になる度合を上げるというモデルです。俺のフレンチの事業成長モ…を見ると、一流シェフというシーズと、立ち食いスタイルの店舗という方法をかけ合わせることで「安くて美味しい高級フレンチ」という顧客価値(顧客の欲求を満たす性質)を創り出していることがわかります。 なので、 […]
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