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【実践!DX】ビジネスアーキテクチャの設計方法

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ビジネスアーキテクチャは、ビジネスの設計思想と、それを実現する仕組を表したものです。
ここでは、ビジネスアーキテクチャの設計方法について次の観点で説明します。

  • エンタープライズアーキテクチャとの関係
  • ビジネスアーキテクチャの設計方法

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エンタープライズアーキテクチャとの関係

ビジネスアーキテクチャは、エンタープライズアーキテクチャの一要素になります。

ビジネスアーキテクチャは、データアーキテクチャとアプリケーションアーキテクチャの設計思想になり、それらを規定します。
【関連動画】

ビジネスアーキテクチャの設計方法

ビジネスアーキテクチャは、次の手順で設計します。

  1. 事業ライフサイクル
  2. 事業構造の定義
  3. 事業パーパスの定義
  4. 資産の設計
  5. 事業成長モデルの設計
  6. バリューチェーンの設計
  7. ジョブの設計
  8. ビジネスプロセスの設計
  9. バリューストラクチャの設計

事業ライフサイクル

最初に事業ライフサイクルについて説明します。
事業ライフサイクルは、事業の生存期間で、マネジメントサイクルは、以下の期間から構成されます。

  • 戦略期間
    戦略期間は、事業戦略を設計、戦略、構築、運用するサイクルです。
  • 会計期間
    ビジネスシステムを運用するマネジメントサイクル(PDCA)で、経営成績や資産の状態を評価する1年、半期、四半期、月次など一定の期間から構成されます。

事業構造の定義

事業領域は、顧客(市場)×製品×機能によって分けることができます。
「誰に、何の価値を、どのように提供するか」で事業ドメイン(事業領域)が決まります。
顧客を定義するときは、顧客の求める価値を考えます。
製品を定義するときは、製品が顧客に提供する価値を考えます。
例えば、個人顧客に不動産の価値を賃貸することで提供するのか、販売することで提供するのかによって事業ドメインが異なります。
次の図は、4つの事業ドメインから構成され不動産開発事業者の例です。

事業パーパスの定義

まず、ビジネスアーキテクチャを設計する拠り所となる事業パーパスを
誰に何の価値を提供するか
という観点で定義します。
事業パーパスによって事業ドメイン(事業領域)が定まります。
価値とは、人間の心身の欲求(DesireあるいはNeed)を満たす性質なので、欲求を満たす(Desirableな)もの(価値のあるもの)を提供することで、それが持つ価値も提供されることになります。
例えば、高級フレンチが食べたい人に、高級フレンチを提供することで、それが持つ価値も提供されます。
この人間の欲求を階層化したものに、マズローの欲求5段階説があります。

マズローの欲求5段階説

マズローの欲求5段階説とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱したもので、
人間の欲求には、次の5段階(低い順)があり、絶えず、自己実現の欲求に向かって成長する
というものです。
聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

  1. 生理的欲求 (Physiological needs)
    食事・睡眠・排泄など、生命を維持するための本能的な欲求。
  2. 安全の欲求 (Safety needs)
    安全性、経済的安定性、良い健康状態の維持など、予測可能で秩序だった状態を得ようとする欲求。
  3. 社会的欲求 (Social needs)
    自分が社会に必要とされている、他者に受け入れられている、どこかに所属しているという感覚。
  4. 承認の欲求 (Esteem)
    自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求。
  5. 自己実現の欲求 (Self-actualization)
    自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して、具現化して自分がなりえるものにならなければならないという欲求。

これで考えると、先ほどの高級フレンチが食べたいという欲求は、1段階目の生理的欲求ではなく、SNSのように4段階目の承認の欲求になるのかもしれません。
また、スターバックスなどの第3の空間となるカフェは、どこかに所属しているという社会的欲求を満たすビジネスなのかもしれません。
その事業が満たす欲求が根源的であればあるほど、事業ドメインの空間的および時間的範囲が大きくなります。
資本主義の本質は欲求です。
それを満たすための競争によって成り立っているのです。

次に、価値を提供する相手ですが、これは、心身の欲求はあるが、それが満たされない顧客や、社員、パートナーなどの人的資産になります。
このように、事業パーパスは、そのビジネスが顧客から本当に必要とされるのか、その魅力性(Desirability)を表します。
なので、事業パーパスとともに、なぜ事業を始めようと想ったかという事業者の想いを語るとで、事業パーパスを深く理解してもらうことができます。

さて、企業が複数の事業をおこなっている場合、個々の事業ドメインの事業パーパスと、それらを総括する企業パーパスがあります。
企業パーパスは、企業がなぜ存在するのか、その存在意義を語るもので、個々の事業パーパスを抽象化したレベルの内容になります。
ビジョナリーカンパニーZEROでは、パーパスを
組織が存在する根本理由
とし、
組織の行方を照らす星のように、常に努力すべき目標ではあるが、完全に達成されることはない
(100年間に渡って会社の指針となる)
と明記しています。
それに対して、ミッション(ここではビジョン)は、
大胆で説得力のある野心的目標
とし、
明確なゴールと具体的期限がある、達成されると、新たなミッションが設定される
(理想的な時間軸は10年から25年)
と明記しています。
以下、ビジョナリーカンパニーZEROからの引用です。


ビジョンが完遂されたら、再びパーパスに立ち返って新たなミッションを設定する。
山岳地帯で案内星を追いかけるたとえ話を思い出してほしい。
パーパスはこの案内星で、常に地平線上に浮かんでいる。
決して手の届かないものだが、常に前へ前へと導いてくれる。
一方、ミッションはあなたがその時々に登っている山だ。
頂上に着いたら、再び案内星に視線を戻し、次に登るべき山を選ぶ。

ビジョナリーカンパニーZEROでは、次のような企業パーパスの事例を紹介しています。

  • メルク
    私たちはみな、人々(価値を提供する対象)の暮らしを守り、改善すること(価値)を目的としている。
    私たちのあらゆる行動は、この目的の実現に資するかという観点から評価しなければならない。
  • シュラーゲ・ロック・カンパニー
    世界(価値を提供する対象)をもっと安全(価値)にする。
  • ジロスポーツ・デザイン
    ジロは革新的で高品質な製品を通じて、人々(価値を提供する対象)によりよい暮らし(価値)を届けるために存在している。

これは、ある一部上場企業の経営状況を表したイメージ図です。

日本全体で見ると、この会社のように成長しなくなった企業は多々あるのではないでしょうか。
これまでの延長上で胡坐をかき、環境の変化に気づいてはいるものの特段何の企業努力をせずいるとこのようになってしまいます。
そのようなときは往々にして内向きになり、顧客やステークホルダーに目が向かず、硬直した組織の中で魂が腐敗していくという状況に陥ります。
誰をどうやって幸せにするか?
事業本来の目的は何か。
もう一度、事業パーパスを真摯に考え、あるべきビジネスの仕組を組み立て直す必要があるのではないでしょうか。
そういった意味で、DXは、企業が本来の姿に立ち返るよい機会だと思います。
俺のフレンチの事業パーパスの例

【関連動画】


資産の設計

さて、ここでは、ビジネスを構成するする要素を次のように分けて考えます。

  • ステークホルダー
    価値を提供する相手。
    顧客やメンバーなどビジネスの利害関係者。
  • 資産
    価値を生み出す実体。
    経済的な表現でいうと資産とは「稼ぐ力を持つもの」「利益獲得能力」ということができます。
    資産には、価値を生み出す働きである機能があります。
    機能は、価値を生み出すために何をするのかを示す資産の仕様を表します。
    なお、顧客やメンバーも資産の一種と考えます。
  • 活動
    価値を提供する活動。
    資産の機能が働いて活動になります。
  • 場所
    資産が働く場所。


さらに、ここでは、資産を次のように分類します。

  • 顧客
    価値を提供する相手。
    顧客も価値を生み出すので資産になります。
  • 製品
    顧客に提供する価値を表す知的資産。
  • メンバー
    価値を生み出す主体としての人的資産。
    価値を提供する相手にもなります。
  • パートナー
    仕入業者など、価値を生み出す外部の協力者としての人的資産。
  • アプリケーション
    価値を生み出す主体としての情報資産。
  • データ
    メンバーやアプリケーションが価値を提供するために記録、あるいは、活用する事実。
    構造化されたデータだけでなく、動画や音声、文書など非構造化データも含みます。
    データは情報資産(ノウハウ)です。
    企業全体のデータの構造はデータアーキテクチャとして設計します。
  • 技術
    メンバーやアプリケーションが価値を提供するための技術。
    主に情報資産であるIT(情報技術)になります。
    ITは、ハードウェア、ネットワーク、OS、ミドルウェアなどアプリケーションを動かすための技術に分類することができます。
  • 設備
    メンバーやアプリケーションが価値を提供するための設備。
    機械や店舗、工場などの財務資産。

事業パーパスは、誰に何の価値を提供するかで定義できますが、
価値を提供する相手が、資産のうち、顧客やメンバー、パートナーになり、
提供する価値が、製品になります。
さて、資産には、それが生み出す価値を測る指標を、測定方法や評価基準とともに定義するようにします。
例えば、顧客が生み出す価値を測る指標にLTVがあります。
LTV(Life Time Value)は、顧客生涯価値のことで、顧客がサービスを利用している期間内(顧客ライフサイクル)に、どれだけの利益をもたらしてくれるかを測るマーケティング指標です。
LTVの測定方法は次のようになります。
LTV = 顧客の平均購入単価 × 平均購入頻度 × 平均継続期間 -(新規顧客獲得コスト + 既存顧客維持コスト)

事業成長モデルの設計

続いて、
なぜ、その事業は持続し成長するか
ビジネスの実行可能性(Viability)を事業成長モデルとして設計します。
事業成長モデルの基本型は次の図のようになります。

資産が価値を生み出すことで事業パーパス「誰に何の価値を提供するか」を実現し、それによる対価を資産に投資するという正のフィードバックループになっていることがわかります。
事業成長モデルをつくるときのポイントは、ビジネス(価値創出)の源泉となる資産と、それが価値を生み出す因果関係を明らかにすることです。
ビジネスの源泉となる資産に投資することによって、それがますます強化されるという正のスパイラルが強靭な競争力を生み出すわけです。
ビジネスの源泉となる資産の代表は製品である知的資産ですが、それに加えて顧客、メンバー、パートナーなどの人的資産、設備など財務資産、データやアプリケーションなど情報資産が考えられます。
それでは、ビジネスにとって何が価値を生み出す資産になるでしょうか?
次のように考えます。

  • 価値観(Value)の明確化
    まず、顧客の価値観を明らかにします。
    価値の源泉は欲求なので、マズローの欲求5段階説でいうと何の欲求に基づく価値観なのか考えます。
  • 課題(Issue)の明確化
    次に、現在、なぜ価値が提供出来ていないのか、あるいは、なぜ人の欲求が満たされないのか、その根本原因を明らかにし、それを課題(解決すべき問題)として設定します。
    問題の根本原因を考えるときはシステム思考が役に立ちます。
    具体的には、まず、価値観と現状のギャップである問題を明らかにし、システム思考で因果関係を考え、問題の根本原因を発見し、それを課題として設定します。
    また、デザイン思考の場合、人間を観察することで問題の根本原因を探ります。
    【デザイン思考】デザイン思考の特徴
  • 解決策(Solution)の策定
    次に、問題の根本原因を取り除くための解決策を考えます。
    課題に対する解決策を考えるときはデザイン思考が役に立ちます。
    デザイン思考では、課題を解決するための解決策の複数考え、その関係で構造化します。

    また一つ一つの解決策は、課業(タスク)に分解され、最終的には、製品やアプリの機能に落とされます。
    製品やアプリの機能は、仮説検証を繰り返しながら、より市場に適したものを定義するようにします。
  • 資産(Asset)の設計
    このソリューションを生み出す(結果的に顧客に対する価値を生み出す)人、物、金、情報が資産になります。
    上記デザイン思考で生み出した一つ一つの解決策を担う一つ一つが資産になるのです。
    なお、メンバーやアプリケーションが価値を提供するために記録、あるいは、活用する事実であるデータも情報資産です。
    下図を見ると資産の機能がデータを生成、参照しています。
    例えば、シェフ(人的資産)が料理を開発するときに生成するレシピは非構造化データという情報資産(ノウハウ)です。

以上の価値創出プロセスをまとめると次の図のようになります。

データサイエンスを適用することで、データ(事実)を活用して科学的に課題や解決策を考えることができます。
財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点で戦略目標の因果関係で事業成長モデルを描く手法が戦略マップです。
【関連動画】
俺のフレンチの事業成長モデルの例
【関連動画】


バリューチェーンの設計

次に、
事業パーパスを誰がどのように実現するか
ビジネスの実現可能性(Feasibility)をバリューチェーンとして設計します。
※バリューチェーンの詳細は次のジョブ(誰が)とビジネスプロセス(どのように)で設計します。

バリューチェーンとは

バリューチェーンでとは、M・E・ポーターが競争の戦略という本で提唱した概念で、
事業活動を活動領域ごとに分類し、どの部分で付加価値が生み出されているか、競合と比較してどの部分に強み・弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探る手法
のことです。

活動領域

バリュチェーンは、次のような活動領域から構成されます。

この活動領域は、以下のように構成されています。

  • 営業活動
    顧客に対して直接価値を提供する活動。
    営業活動は、さらに、
    • 商流
      取引の流れ。
    • 金流
      お金の流れ。
    • 物流
      物の流れ。

    で分類することができます。

  • 資産管理活動
    資産のライフサイクル(調達、活性化、維持、処分)を管理する活動。
    資産活動は、さらに、上記資産の種類で分類することができます。
  • 財務活動
    営業活動、資産管理活動に必要な資本を調達する活動。
  • 経営活動
    経営理念を実現するためにビジョンに向かって全体をコントロールする活動。

なお、この4つの活動は、企業の基本的な経営サイクル(下図)に基づいています。

ここでは、各々の活動領域を、独立した機能、あるいは、責務を持つ役割と考えます。
なので、活動領域は、ドメイン駆動設計の言葉でいうと、サブドメイン、境界づけられたコンテキストの単位になります。

バリューチェーンの構成

バリューチェーンの活動領域は、次のように、顧客に価値を提供する主要活動と、それを支援する支援活動に分類することができます。

  • 主要活動
    主要活動は、顧客に直接価値を提供する活動で、
    • 事業固有の営業活動
    • 事業固有の資産管理活動

    になります。

  • 支援活動
    支援活動は、全事業に共通した活動になります。
    • 事業支援活動
      主要活動を支援する活動で、以下のように分類することができます。
      • 営業支援活動
        全事業の営業活動を支援する活動で、全事業共通の資材の調達、債権・債務管理、入出荷管理が該当します。
      • 共通資産管理活動
        例えば、社員管理など、上記資産管理活動の中で、全事業共通の資産の価値を管理する活動です。
    • 企業支援活動
      主要活動、事業支援活動を支援する活動で、財務活動、経営活動が該当しす。

バリューチェーンは、これら活動領域から該当する主要活動、支援活動を選択して設計することができます。
なお、主要活動は、事業単位の活動として設計します。
また、支援活動は、全社共通の活動なので企業基盤の一つとして設計します。

次の図は、バリューチェーンの基本型を表しています。

主要活動の中心にあるオペレーション(実際の営業活動)は、営業活動の活動領域から、そのビジネスに適したものを選択して構成します。
次に、オペレーションを顧客管理活動で囲んでカスタマージャーニーを構成します。
さらに、そのビジネスに適した資産管理活動を選択して主要活動を構成します。
事業成長モデルを設計するときビジネスの源泉となる資産(製品×人的資産・財務資産・情報資産)を考えますが、その資産を管理する活動が主要活動になります。
最後に、支援活動として事業支援活動と企業支援活動から必要な活動領域を選択してバリューチェーンを作成します。
なお、バリューチェーンの中で、ステークホルダーに価値を届ける流れ(PDCA)をバリューストリームといいます。
例えば、サービス業であれば、顧客にサービスを計画、提案し、それを実施し、その後の改善活動までの流れ(オペレーションの販売とサービスの部分)がバリューストリームになります。
また、情報管理の情報システム開発、改良活動であれば、ユーザーに情報システムの価値を届ける、要件定義から運用テストまでの流れもバリューストリームになります。
バリューストリームは、直接、顧客に価値を提供する流れなので、ビジネスにとって、その価値を上げることはとても重要です。
それから、カスタマージャーニーは、次のように、潜在的顧客を伝導者(ファン)に変える活動として設計します。

これは、フィリップ・コトラーがマーケティング4.0という書籍で表したスタマージャーニーで、

  • 認知(AWARE)
  • 訴求(APPEAL)
  • 調査(ASK)
  • 行動(ACT)
  • 推奨(ADVOCATE)

という購買の5つの段階と、各段階における

  • 顧客の行動
  • 顧客接点(タッチポイント)
  • 顧客の感想
  • 顧客の状態

の変遷を表したものです。

俺のフレンチのバリューチェーンの例
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ジョブの設計

バリューチェーンを誰が実現するか職務(ジョブ)を洗い出します。
ジョブはビジネスの役割(機能)を表す概念で、職務記述書(ジョブディスクリプション)に定義されます。
ジョブと資産ですが、次の図のように、ジョブが役割を表すのに対し、資産はそれを実現する実体という関係になります。
例えば、資産がメンバーの場合、メンバーには、事業を遂行するために必要なマインドセットを定義し、ジョブにはスキルセットを定義します。

また、ジョブ(役割)を、事業(市場×製品)などある切り口で分類した概念が組織(部門)になります。
次の図は、ジョブ(役割)、組織(部門)、人的資産(社員)の関係を表したものです。

ジョブ(役割)、組織(部門)、人的資産(社員)は、型(集合)、種類(部分集合)、要素の関係になります。

さて、ジョブは、バリューチェーンを構成する活動領域から該当する活動を選択して設計することができます。
以下に、活動領域をベースにしたジョブの例を示します。

内部統制とジョブの設計

内部統制という観点から、職権の乱用を防止するために、以下の三つの職務(ジョブ)は基本的に異なる部門ないし人に分ける(分掌)べきであるとされています。

  • 承認(Authorization)
  • 記帳(Bookkeeping)
  • 保管(Custody)

例えば、商品の払い出しについて考えてみます。
基本的な職務分掌では、商品の保管は倉庫部門、商品の払い出しの承認は営業部門、商品の払い出しの記帳は経理部門がそれぞれ分担して行います。
つまり、営業部門で商品の払い出しが承認されると、倉庫部門は承認内容に応じて商品を払い出し、経理部門は倉庫部門の払い出し内容に応じて帳簿への記録を行います。
もし、営業部門が承認だけでなく保管も記帳もすべてできてしまうとしたらどうなるでしょうか。
営業部門は自分の判断だけで、いつでも商品を倉庫から払い出すことができ、帳簿にもいかようにも記録できることになります。
この場合、ジョブ(職務)を、保管を担う出荷、商品の払い出しを承認する販売、記帳を担う会計に分掌し、それぞれ倉庫部門、営業部門、経理部門に分類し、各部門にメンバーをアサインします。
俺のフレンチのジョブの例

ビジネスプロセスの設計

次に、バリューチェーンをジョブがどう実現するか、具体的な活動の流れをビジネスプロセスとして設計します。

ビジネスプロセスとは

ここでは、ビジネスプロセスを、
それを構成する活動が資産を消費することで、ステークホルダーに価値を生み出し、結果的に資産の状態を変化(増減)させる組織横断的な単位
と定義します。
※ステークホルダー(ビジネスの利害関係者)には、顧客だけでなく社員や株主、パートナーなどがあります。

ビジネスプロセスとバリューチェーンやジョブの関係は次の図のようになります。

  • バリューチェーンを構成する活動領域に対して複数のビジネスプロセスを定義します
  • ビジネスプロセスを横断する組織は、活動を行う主体であり、ジョブを対応させることができます
  • ビジネスプロセスの具体的な内容として業務フローを定義します

ビジネスプロセスは、バリューチェーンを構成する活動に対応させて次の種類に分けることがでます。

先ほど説明したように、バリューチェーンは、事業ごとの主要活動と、事業、あるいは、企業全体で共通の支援活動に分けることができます。
なので、次のように、オペレーションプロセスなどは、支援活動のビジネスプロセスを共有するかたちになります。

さて、ビジネスプロセスを定義するときに重要なのは、価値を提供するステークホルダーを明確にするということです。
価値を提供する相手を考えることで、

  • 本当に価値を生み出す活動は何か
  • 価値を生み出していない活動は何か
  • 価値を生み出す活動をもっと効果的に行うにはどうすべきか
  • 価値を生み出していない活動はどうするか、削除、あるいは、削減するか、フローを変えるか、代替する手段はないか

など業務フローを構成する各活動を分析し、業務を改善することができるようになります。

業務フロー

ビジネスプロセスは活動から構成されるので、ビジネスプロセスの単位で業務フローを作成します。
業務フローには、ビジネスプロセスの本質的な流れを示すアクティビティフローと、それを構成するアクティビティをさらに詳細化したアクションフローがあります。

アクティビティフローを構成する「アクティビティ」は、「受注」、「出荷」など、ビジネスプロセスを構成する本質的な活動を表し、アクションフローを構成する「アクション」は、「〜の記録」、「〜の報告」、「〜の承認」、「〜の確認」など、これ以上分けることができない動作の単位になります。
なお、業務フローを記述する代表的な表記法にはUMLのアクティビティやBPMNがあります。
俺のフレンチのビジネスプロセスの例
【関連動画】


バリューストラクチャの設計

バリューチェーン(価値を提供する手順)は、事業パーパスを実現する活動の流れを可視化した動的モデルです。
最後に、バリューチェーンを実現するジョブ(役割)の相互関係(構造)を可視化する静的モデル、バリューストラクチャ(価値を提供する構造)を設計します。

バリューチェーン(動的モデル)が時間的側面(順番)を強調するモデルに対し、バリューストラクチャ(静的モデル)は空間的側面(相互関係)を強調するモデルになります。
ジョブ同士の関連には、コミュニケーションするために必要なデータの流れを関連名として明記するようにします。
バリューチェーンとバリューストラクチャの具体的な関係は次の図のようになります。

これを見ると、バリューストラクチャを構成するジョブがビジネスプロセスを実行する主体になっていることがわかります。
バリューストラクチャを含めたビジネスアーキテクチャの全体像は次のようになります。

俺のフレンチのバリューストラクチャの例

ビジネスの仕組からシステムの仕組へ

バリューチェーン(価値を誰がどのように提供するか)から、
バリューストラクチャを設計すること
ビジネスプロセスを介して戦略的データ、戦略的アプリを抽出すること
ができることを説明しました。
次の図のように、バリューストラクチャは、データアーキテクチャアプリケーションアーキテクチャのベースになり、堅牢な企業基盤を設計、構築するために欠かせない要素です。

データアーキテクチャやアプリケーションアーキテクチャは、企業全体のシステムの設計図になります。
この設計図をもとに、ビジネスプロセスを介して抽出された戦略的データ、戦略的アプリの具体的なデータ要件やシステム要件を定義し、個別システムの開発を進めます。
なお、ビジネスアーキテクチャとデータアーキテクチャやアプリケーションアーキテクチャの概念モデルは、DXを成功させる鍵の一つ「変化につよい構造」のレイア構造でいうCIM(Computation Independent Model)になります。
それから、次の図は企業全体のシステム基盤を表していますが、これでいうと、データアーキテクチャは記録システム(SoR)の正規化データセット(トランザクションデータ)と、データ基盤で一元管理されるマスターデータ、参照データを俯瞰する地図(エンタープライズデータモデルの全体概念データモデル)になり、アプリケーションアーキテクチャは、記録システム(SoR)の機能構造を俯瞰する地図(ドメイン駆動設計のコンテキストマップ)になります。
そして、戦略的データは、データ基盤の多次元データセット、非構造化データセット、データマートに集約され、戦略的アプリはSoE(顧客連携システム)として実現されます。

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以上、ここでは、ビジネスアーキテクチャの設計方法について説明しました。

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