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【実践!DX】ビジネスアーキテクチャの設計方法

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ここでは、ビジネスアーキテクチャの設計方法について次の観点で説明します。

  • ビジネスアーキテクチャとは
  • エンタープライズアーキテクチャとの関係
  • ビジネスアーキテクチャの設計方法

ビジネスアーキテクチャとは

ビジネスアーキテクチャは、ビジネスの設計思想と、それを実現する仕組を表したものです。
ビジネスの設計思想は、事業パーパス(目的)として定義します。
ビジネスの仕組(ビジネスモデル)は、

  • 事業成長モデル(因果関係)
  • バリューチェーン(順序関係)
  • バリューストラクチャ(相互関係)

という観点で表します。

書籍デザイン思考が世界を変えるでは、ソリューションがイノベーションをもたらすためには次の3つの条件が必要だと述べています。

  • 魅力性(Desirability)
    顧客から本当に必要とされる(Desirableな)ソリューションであること。
  • 実行可能性(Viability)
    ビジネスとして持続し成長する(Viableな)ソリューションであること。
  • 実現可能性(Feasibility)
    現在、あるいは、近い将来の技術で実現可能な(Feasibleな)ソリューションであること。



ビジネスアーキテクチャは、このイノベーションの3つの条件、

  • 魅力性(Desirability)
  • 実行可能性(Viability)
  • 実現可能性(Feasibility)

を、それぞれ

  • 事業パーパス
    誰に何の価値を提供するか。
    価値仮説になります。
  • 事業成長モデル
    なぜ、その事業は持続し成長するか。
    成長仮説になります。
  • バリューチェーン
    誰がどのように価値を提供するか。
    バリューチェーンの詳細はジョブ(誰が)とビジネスプロセス(どのように)で設計します。

で説明します。
なお、実際に事業を変革、創出するときは、

  • 価値仮説
    本当に想定した欲求を持つ人々がいるのか、価値の妥当性
  • 成長仮説
    事業が価値を提供し成長するのか、欲求を満たすためのソリューションの妥当性

を検証し、事業が成立することが確認できたら、収益計画を含めた事業計画(ビジネスプラン)を立案します。

エンタープライズアーキテクチャとの関係

ビジネスアーキテクチャは、エンタープライズアーキテクチャの一要素になります。

ビジネスアーキテクチャは、データアーキテクチャとアプリケーションアーキテクチャの設計思想になり、それらを規定します。

ビジネスアーキテクチャの設計方法

ビジネスアーキテクチャは、次の手順で設計します。

  1. 事業パーパスの定義
  2. 事業成長モデルの設計
  3. バリューチェーンの設計
  4. ジョブの設計
  5. ビジネスプロセスの設計
  6. バリューストラクチャの設計

事業パーパスの定義

まず、ビジネスアーキテクチャを設計する拠り所となる事業パーパスを
誰に何の価値を提供するか
という観点で定義します。
事業パーパスによって事業ドメイン(事業領域)が定まります。
価値とは、人間の心身の欲求(DesireあるいはNeed)を満たす性質なので、欲求を満たす(Desirableな)もの(価値のあるもの)を提供することで、それが持つ価値も提供されることになります。
例えば、高級フレンチが食べたい人に、高級フレンチを提供することで、それが持つ価値も提供されます。
この人間の欲求を階層化したものに、マズローの欲求5段階説があります。

マズローの欲求5段階説

マズローの欲求5段階説とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱したもので、
人間の欲求には、次の5段階(低い順)があり、絶えず、自己実現の欲求に向かって成長する
というものです。
聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

  1. 生理的欲求 (Physiological needs)
    食事・睡眠・排泄など、生命を維持するための本能的な欲求。
  2. 安全の欲求 (Safety needs)
    安全性、経済的安定性、良い健康状態の維持など、予測可能で秩序だった状態を得ようとする欲求。
  3. 社会的欲求 (Social needs)
    自分が社会に必要とされている、他者に受け入れられている、どこかに所属しているという感覚。
  4. 承認の欲求 (Esteem)
    自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求。
  5. 自己実現の欲求 (Self-actualization)
    自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して、具現化して自分がなりえるものにならなければならないという欲求。

これで考えると、先ほどの高級フレンチが食べたいという欲求は、1段階目の生理的欲求ではなく、SNSのように4段階目の承認の欲求になるのかもしれません。
また、スターバックスなどの第3の空間となるカフェは、どこかに所属しているという社会的欲求を満たすビジネスなのかもしれません。
その事業が満たす欲求が根源的であればあるほど、事業ドメインの空間的および時間的範囲が大きくなります。

次に、価値を提供する相手ですが、これは、心身の欲求はあるが、それが満たされない顧客や、社員、パートナーなどの人的資産になります。
このように、事業パーパスは、そのビジネスが顧客から本当に必要とされるのか、その魅力性(Desirability)を表します。
なので、事業パーパスとともに、なぜ事業を始めようと想ったかという事業者の想いを語るとで、事業パーパスを深く理解してもらうことができます。

さて、企業が複数の事業をおこなっている場合、個々の事業ドメインの事業パーパスと、それらを総括する企業パーパスがあります。
企業パーパスは、企業がなぜ存在するのか、その存在意義を語るもので、個々の事業パーパスを抽象化したレベルの内容になります。
ビジョナリーカンパニーZEROでは、パーパスを
組織が存在する根本理由
とし、
組織の行方を照らす星のように、常に努力すべき目標ではあるが、完全に達成されることはない
(100年間に渡って会社の指針となる)
と明記しています。
それに対して、ミッション(ここではビジョン)は、
大胆で説得力のある野心的目標
とし、
明確なゴールと具体的期限がある、達成されると、新たなミッションが設定される
(理想的な時間軸は10年から25年)
と明記しています。
以下、ビジョナリーカンパニーZEROからの引用です。


ビジョンが完遂されたら、再びパーパスに立ち返って新たなビジョンを設定する。
山岳地帯で案内星を追いかけるたとえ話を思い出してほしい。
パーパスはこの案内星で、常に地平線上に浮かんでいる。
決して手の届かないものだが、常に前へ前へと導いてくれる。
一方、ミッションはあなたがその時々に登っている山だ。
頂上に着いたら、再び案内星に視線を戻し、次に登るべき山を選ぶ。

ビジョナリーカンパニーZEROでは、次のような企業パーパスの事例を紹介しています。

  • メルク
    私たちはみな、人々(価値を提供する対象)の暮らしを守り、改善すること(価値)を目的としている。
    私たちのあらゆる行動は、この目的の実現に資するかという観点から評価しなければならない。
  • シュラーゲ・ロック・カンパニー
    世界(価値を提供する対象)をもっと安全(価値)にする。
  • ジロスポーツ・デザイン
    ジロは革新的で高品質な製品を通じて、人々(価値を提供する対象)によりよい暮らし(価値)を届けるために存在している。

これは、ある一部上場企業の経営状況を表したイメージ図です。

日本全体で見ると、この会社のように成長しなくなった企業は多々あるのではないでしょうか。
これまでの延長上で胡坐をかき、環境の変化に気づいてはいるものの特段何の企業努力をせずいるとこのようになってしまいます。
そのようなときは往々にして内向きになり、顧客やステークホルダーに目が向かず、硬直した組織の中で魂が腐敗していくという状況に陥ります。
誰をどうやって幸せにするか?
事業本来の目的は何か。
もう一度、事業パーパスを真摯に考え、あるべきビジネスの仕組を組み立て直す必要があるのではないでしょうか。
そういった意味で、DXは、企業が本来の姿に立ち返るよい機会だと思います。
俺のフレンチの事業パーパスの例

事業成長モデルの設計

続いて、
なぜ、その事業は持続し成長するか
ビジネスの実行可能性(Viability)を事業成長モデルとして設計します。
事業成長モデルの基本型は次の図のようになります。

事業資産が価値を生み出すことで事業パーパス「誰に何の価値を提供するか」を実現し、それによる対価を事業資産に投資するという正のフィードバックループになっていることがわかります。
事業成長モデルをつくるときのポイントは、ビジネス(価値創出)の源泉となる事業資産は何かを明らかにすることです。

事業資産とは

ここでいう事業資産とは、稼ぐ力を持つもの、利益獲得能力のことで、次のような種類があります。

  • 人的資産
    顧客、社員、パートナーなど。
  • 知的資産
    知識や知恵、および、それを具体化した商品やサービス。
  • 情報資産
    データや情報、および、それを処理するソフトウェアや機械。
  • 財務資産
    流動資産や固定資産。

それでは、ビジネスにとって何が事業資産になるのか?
次のように考えます。

  • 問題に対する原因の明確化
    まず、現在、なぜ価値が提供出来ていないのか、あるいは、なぜ人の欲求が満たされないのか(問題)。
  • その原因を明らかにします。

  • 課題と解決策の設定
    次に、その原因を取り除くための課題と解決策(ソリューション)を考えます。
  • 事業資産の定義
    このソリューションを生み出す(結果的に価値を生み出す)人、物、金、情報が事業資産になります。

俺のフレンチの事業成長モデルの例

バリューチェーンの設計

次に、
事業パーパスを誰がどのように実現するか
ビジネスの実現可能性(Feasibility)をバリューチェーンとして設計します。
※バリューチェーンの詳細は次のジョブ(誰が)とビジネスプロセス(どのように)で設計します。

バリューチェーンとは

バリューチェーンでとは、M・E・ポーターが競争の戦略という本で提唱した概念で、
事業活動を活動領域ごとに分類し、どの部分で付加価値が生み出されているか、競合と比較してどの部分に強み・弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探る手法
のことです。

活動領域

バリュチェーンは、次のような活動領域から構成されます。

この活動領域は、以下のように構成されています。

  • 営業活動
    顧客に対して直接価値を提供する活動。
    営業活動は、さらに、

    • 商流
      取引の流れ。
    • 金流
      お金の流れ。
    • 物流
      物の流れ。

    で分類することができます。

  • 資産管理活動
    資産のライフサイクル(調達、活性化、維持、処分)を管理する活動。
    資産活動は、さらに、上記資産の種類で分類することができます。
  • 財務活動
    営業活動、資産管理活動に必要な資本を調達する活動。
  • 経営活動
    経営理念を実現するためにビジョンに向かって全体をコントロールする活動。

なお、この4つの活動は、企業の基本的な経営サイクル(下図)に基づいています。

ここでは、各々の活動領域を、独立した機能、あるいは、責務を持つ役割と考えます。
なので、活動領域は、ドメイン駆動設計の言葉でいうと、サブドメイン、境界づけられたコンテキストの単位になります。

バリューチェーンの構成

バリューチェーンの活動領域は、次のように、顧客に価値を提供する主要活動と、それを支援する支援活動に分類することができます。

  • 主要活動
    主要活動は、顧客に直接価値を提供する活動で、

    • 事業固有の営業活動
    • 事業固有の資産管理活動

    になります。

  • 支援活動
    支援活動は、全事業に共通した活動になります。

    • 事業支援活動
      主要活動を支援する活動で、以下のように分類することができます。

      • 営業支援活動
        全事業の営業活動を支援する活動で、全事業共通の資材の調達、債権・債務管理、入出荷管理が該当します。
      • 共通資産管理活動
        例えば、社員管理など、上記資産管理活動の中で、全事業共通の資産の価値を管理する活動です。
    • 企業支援活動
      主要活動、事業支援活動を支援する活動で、財務活動、経営活動が該当しす。

バリューチェーンは、これら活動領域から該当する主要活動、支援活動を選択して設計することができます。
次の図は、バリューチェーンの基本型を表しています。

主要活動の中心にあるオペレーションは、営業活動の活動領域から、そのビジネスに適したものを選択して構成します。
次に、オペレーションを顧客管理活動で囲んでカスタマージャーニーを構成します。
さらに、そのビジネスに適した資産管理活動を選択して主要活動を構成します。
最後に、支援活動として事業支援活動と企業支援活動から必要な活動領域を選択してバリューチェーンを構成します。
なお、カスタマージャーニーは、次のように、潜在的顧客を伝導者(ファン)に変える活動として設計します。

俺のフレンチのバリューチェーンの例

ジョブの設計

バリューチェーンを誰が実現するか職務(ジョブ)を洗い出します。
ジョブは、バリューチェーンを構成する活動領域から該当する活動を職務として選択して設計することができます。
例えば、顧客管理活動の顧客獲得活動を顧客獲得者という職務とし、残りの活動を顧客管理者という職務として定義することができます。
また、債務管理活動を債務管理者という職務として定義することができます。
俺のフレンチのジョブの例

ビジネスプロセスの設計

次に、バリューチェーンをジョブがどう実現するか、具体的な活動の流れをビジネスプロセス、および、アクティビティフローとして設計します。
ビジネスプロセスとアクティビティフローについて説明します。

ビジネスプロセスとは

ここでは、ビジネスプロセスを、
それを構成する活動が資産を消費することで、ステークホルダーに価値を生み出し、結果的に資産の状態を変化(増減)させる組織横断的な単位
と定義します。
※ステークホルダー(ビジネスの利害関係者)には、顧客だけでなく社員や株主、パートナーなどがあります。

業務フロー

ビジネスプロセスは活動から構成されるので、ビジネスプロセスの単位で業務フローを作成します。
業務フローには、ビジネスプロセスの本質的な流れを示すアクティビティフローと、それを構成するアクティビティをさらに詳細化したアクションフローがあります。

アクティビティフローを構成する「アクティビティ」は、「受注」、「出荷」など、ビジネスプロセスを構成する本質的な活動を表し、アクションフローを構成する「アクション」は、「〜の記録」、「〜の報告」、「〜の承認」、「〜の確認」など、これ以上分けることができない動作の単位になります。
企業全体のビジネスプロセスを明確にしたい場合は、バリューチェーンを構成する各活動領域ごとに、どのようなビジネスプロセスがあるか定義します。
先ほど説明したように、バリューチェーンは、事業ごとの主要活動と、事業、あるいは、企業全体で共通の支援活動に分けることができます。
なので、次のように、主要活動のビジネスプロセスは、支援活動のビジネスプロセスを共有するかたちになります。

さて、ビジネスプロセスを定義するときに重要なのは、価値を提供するステークホルダーを明確にするということです。
価値を提供する相手を考えることで、

  • 本当に価値を生み出す活動は何か
  • 価値を生み出していない活動は何か
  • 価値を生み出す活動をもっと効果的に行うにはどうすべきか
  • 価値を生み出していない活動はどうするか、削除、あるいは、削減するか、フローを変えるか、代替する手段はないか

など業務フローを構成する各活動を分析し、業務を改善することができるようになります。

俺のフレンチのビジネスプロセスの例

バリューストラクチャの設計

バリューチェーン(価値を提供する手順)は、事業パーパスを実現する活動の流れを可視化した動的モデルです。
最後に、バリューチェーンを構成する機能(役割)の構造(相互関係)を可視化する静的モデル、バリューストラクチャ(価値を提供する構造)を設計します。
バリューストラクチャは、バリューチェーンを構成する活動領域を業務の役割として考え、役割同士の相互関係によって設計します。
役割同士の関連には、コミュニケーションするために必要なデータの流れを関連名として明記するようにします。
バリューストラクチャを含めたビジネスアーキテクチャの全体像は次のようになります。

俺のフレンチのバリューストラクチャの例

ビジネスの仕組からシステムの仕組へ

バリューチェーン(価値を誰がどのように提供するか)から、
バリューストラクチャを設計すること
ビジネスプロセスを介して戦略的データ、戦略的アプリを抽出すること
ができることを説明しました。
次の図のように、バリューストラクチャは、データアーキテクチャやアプリケーションアーキテクチャのベースになり、堅牢な企業基盤を設計、構築するために欠かせない要素です。

データアーキテクチャやアプリケーションアーキテクチャは、企業全体のシステムの設計図になります。
この設計図をもとに、ビジネスプロセスを介して抽出された戦略的データ、戦略的アプリの具体的なデータ要件やシステム要件を定義し、個別システムの開発を進めます。
なお、ビジネスアーキテクチャとデータアーキテクチャやアプリケーションアーキテクチャの概念モデルは、DXを成功させる鍵の一つ「変化につよい構造」のレイア構造でいうCIM(Computation Independent Model)になります。
それから、次の図は企業全体のシステム基盤を表していますが、これでいうと、データアーキテクチャは記録システム(SoR)の正規化データセット(トランザクションデータ)と、データ基盤で一元管理されるマスターデータ、参照データを俯瞰する地図になり、アプリケーションアーキテクチャは、記録システム(SoR)の機能構造を俯瞰する地図になります。
そして、戦略的データは、データ基盤の多次元データセット、非構造化データセット、データマットに集約され、戦略的アプリはSoE(顧客連携システム)として実現されます。

以上、ここでは、ビジネスアーキテクチャの設計方法について説明しました。

-DX, ビジネス

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