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デザイン思考とは何か【わかりやすく解説】

投稿日:2021年8月2日 更新日:


「デザイン」と聞くと多くの方が、衣類の見た目や建築物の様式のことを思い浮かべるのではないでしょうか。
それでは、「デザイン思考(デザインシンキング)」とは何でしょうか?

ここでは、

  • デザイン思考って聞くけど今ひとつわからない
  • デザイン思考をどう活用していいのかわからない
  • デザイン思考のエッセンスを学びたい

という方向けに、デザイン思考について以下の観点で解説します。

さて、最初に、デザイン思考で問題解決するとはどういうこか、わかりやすい事例があるので紹介します。

  • ヒューストン空港は以前より「手荷物引渡所の待ち時間が長い」と、ユーザーからクレームが絶えませんでした。
  • そこで、コンサル会社に解決の依頼したところ、スタッフを増員させるなどの改善策を試して、待ち時間を10分以上から8分程度まで短縮させることができました。
  • ところが、クレームの数は減らすことはできませんでした。
  • そこで、今度は、デザイン会社に解決の依頼をしたところ、到着から手荷物を受け取るまでの総時間は変わらないのに、クレームの数はほぼ0にまで減少しました。
  • さて、このデザイン会社は、どういう策を講じたのでしょうか。
  • それは、到着ゲートから手荷物引渡所への移動距離を伸ばす、という方法でした。
  • 空港到着後、以前なら「引渡所で待っている」時間を、ユーザーは自らの足で移動することで時間を使い、引渡所での「待ちぼうけ」の時間をなくしたのです。

この事例でわかることは何でしょうか。
まず、コンサル会社は、
待ち時間が長い⇒クレームが多い
という筋道を立てて、待ち時間を減らすという課題を設定し、それを解決するための策を講じたのでしょう(ロジカル思考)。
一方、デザイン会社は、
待ち時間が長い⇒顧客のストレスが溜まる⇒クレームが多い
と、顧客のストレスがクレームの直接的な原因と認識し、顧客のストレスを減らすという課題を設定し、それを解決するための策を講じたのです(デザイン思考)。
つまり、どうすれば待ち時間を減らせるかという物理的な面ではなく、どうすれば顧客のストレスを減らせるかという心理的な面を問題にしたのです。
それから、解決策の考え方も違います。
コンサル会社が、スタッフの増員など物理的な策を講じているのに対し、デザイン会社は、目的地まで歩くという、合目的的な行為はストレスにならないという心理面を重視した解決策を講じています。
つまり、デザイン会社は、人間を中心に据えて問題や解決策を考えている、これがデザイン思考の大きな特徴です。

デザイン思考とは何か

デザイン思考とは、
デザインを行う際に必要な考え方と手法を利用して、問題や課題を解決するための考え方
のことです。
なので、ロジカル思考(ロジカルシンキング)やシステム思考(システムシンキング)同様、問題解決手法の一つです。
それでは、デザインとは何か。
日本デザイン振興会によると、デザインとは、
常にヒトを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化すること
と定義されています。
さて、デザインを科学における思考方法として捉える見方は、ノーベル経済学賞やチューリング賞を受賞している知の巨人、ハーバート・サイモンが1969年に出版した著書システムの科学 第3版の中に見ることができます。

「システムの科学」では、自然科学に対する人工科学(artificial science)を問題にしており、そこでは、デザインを次のように説明しています。

人間によってつくられる物事が、目的を達成し、機能を果たすためにはいかにあるべきかという問題に取り組むこと。
現在の状態をより好ましいものに変えるべく行為の道筋を考案すること。

また、この本を読むと、
自然科学が、
対象のありのままの姿を分析する(analysis)
のに対し、
人工科学は、
目的に向かってあるべき姿に統合する(synthesis)
という見方をすることができます。
これは、ロジカル思考とデザイン思考の違いにも当てはめることができるのではないでしょうか。
ロジカル思考が、
対象のありのままの姿を分析する(analysis)
のに対し、
デザイン思考は、
目的に向かってあるべき姿に統合する(synthesis)
つまり、ロジカル思考が、論理的な分析のアプローチだとすると、デザイン思考は、直感を要する統合のアプローチだということです。
実際に、サイモンも「システムの科学」の中で、デザインは、「厳密性を欠き直感的で定式化できない」と述べています。
また、デザイン思考は、統合によって新たな物事を創出して目的を達成する、創造的問題解決手法と考えることができます。
Wikipediaでは、デザイン思考について次のように説明しています。

デザイン思考は実践的かつ創造的な問題解決もしくは解決の創造についての形式的方法であり、将来に得られる結果をより良くすることを目的としている。
この点においてソリューション・ベースドもしくは解決志向の思考方法の一つと言うことができ、特定の問題を解決することではなく、目標(より良い将来の状況)を起点に据えている。
問題に関する現在と未来の条件とパラメータを考慮することで、代替となる複数の解決方法が同時に探求されるのである。
このアプローチとは対照的な科学的方法では、問題の解決を生み出す際にその問題のパラメータを徹底的に定義することから始められる。
他方のデザイン思考は、現況について既知の側面だけでなく未確定の側面も合わせて同定・検討することにより、目標達成につながる隠れたパラメータと代替的手段を切り開こうとする。
デザイン思考は反復的な性格を有しており、途中で得られた「解決」は他の道へ繋がる潜在的なスタート地点でもあり、場合によっては最初の問題を再定義することもありうる。

ロジカル思考が、「何が問題か」という視点で問題の論理的な正しさ重視する、問題志向に対し、
デザイン思考は、「どう解決するか」という視点で解決策(ソリューション)の実践的な正しさ重視する、解決志向と考えることができます。
なので、ロジカル思考が、既存商品の漸進的な改善(improvement)を得意とするのに対し、
デザイン思考は、新規商品の革新的な創出(innovation)を得意とすると考えることができます。

さて、デザイン思考に関する書籍や文献はたくさんありますが、ここでは、世界でも有名なデザインファーム「IDEO(アイデオ)」のCEO、ティム・ブラウンの著書、デザイン思考が世界を変えるを参考に、デザイン思考のエッセンスをお伝えできればと思います。

デザイン思考の特徴

次にデザイン思考の特徴ですが、これは、次の3つに集約することができると思います。

  • 人間を中心に考える
  • 目的に向かって考える
  • 作りながら考える

一つ一つ見ていきましょう。

人間を中心に考える

書籍「デザイン思考が世界を変える」には、デザイナーの仕事は、
ニーズをデマンドに変える
ことだ、と書かれています。
これは、P.ドラッカーがドラッカー「マネジメント」エッセンシャル版で説いているものです。

P.ドラッカーは、この本の中で
企業の目的は、
顧客の創造
であるとし、それは、
顧客が何を求めているのか(ニーズ)理解し、製品とサービスを、それに合わせて、自ずから売れるようにする(デマンド)こと
だと言っています。
さらに、製品やサービスが手に入るようになるまで、顧客が自身のニーズを気づいていない場合があるとし、企業に必要な機能は、未だない新しい満足を生み出すイノベーションだと説いています。
自動車会社フォード・モーターの創設者、ヘンリー・フォードが言った
「顧客に何が欲しいかと尋ねたら、もっと早い馬が欲しいという答えが返ってきただろう」
という言葉は有名です。

さて、書籍「デザイン思考が世界を変える」には、「ニーズをデマンドに変える」について次のように言及しています。

一見すると、簡単に聞こえる。
人々の望むものを探り出し、与えればよい。
しかし、そんなに簡単なら、iPod、プリウス、MTV、イーベイのような成功例がなぜもっと転がっていないのだろう。
その答えは、人間を物語の中心に据えていないからだ。
人間を最優先にすることを学ぶ必要があるのだ。

そして、人々が自分でさえ気づいていない内なるニーズを明らかにするためには、
人々を観察し、共感することで洞察を得ること
だと言っています。

店主は、ハンマーをドア・ストッパーの代わりに使い、オフィス・ワーカーは机の下を這い回るコンピュータ・ケーブルの束を区別するためにラベルを付ける。
製品の消費者、サービスの顧客、ビルの住人、デジタル・インターフェースのユーザーなど、ごく普通の人々がニーズを表明することはめったいにない。
しかし、実際の行動を観察することで、満たされていないさまざまなニーズを明らかにする、貴重なてがかりを得られる場合があるのだ。

観察(Observation)

書籍「デザイン思考が世界を変える」によると、観察を行う上で、考慮すべきポイントは次のようになります。

  • 観察の対象
  • 用いる調査手法
  • 収集した情報から有益な推論を引き出す方法
  • ソリューション(解決)に向けた統合プロセスを開始するタイミンング

観察対象
書籍では、現在の市場の中心を占めるマジョリティの購買習慣だけでなく、中心から離れた「極端な利用者(extreme user)」を観察することによって、重要な洞察を得られることが多いと述べています。

数年前、キッチン用品の新製品のデザインを依頼されたとき、子供やプロのシェフの調査を行った。
いずれも、主力商品の本来のターゲットではない。
しかし、だからこそ、両者は価値のある洞察をもたらした。
缶切りに四苦八苦する7歳の少女は、大人がだましだまし行う手先のコントロールの問題を浮き彫りにした。
レストランのシェフが使っていたい裏技は、清掃に関する以外な洞察をもたらした。
末端にいる人々の極端な要求に注目することで、私たちは「見た目の統一感」を度外視することができた。
その結果、チリスの泡立て器、フライ返し、ピザ・カッターは今でも飛ぶように売れ続けている。

チームによる観察
また、書籍では、さまざまな専門家を集めたチームの重要性を説いています。

近年では、デザイナーが心理学者、エスノグラファー(民族誌家)、社会学者、エンジニア、科学者、マーケティング専門家、ビジネス専門家、ライター、映画製作者と協力するのは日常的の光景だ。
こういった学問分野は、かねてから新製品や新サービスの開発に貢献してきた。
IDEOでは、こういった人々を同じチーム、同じ空間、同じプロセスに集めている。
これが、組織の創造性を解き放つ鍵となるのである。

さまざまな専門家がさまざまな視点や手法で観察し、ブレーンストーミングなどでアイデアを共有することで化学反応が起こり有益な洞察が得られるということです。

共感(Empathy)

書籍では、他人の身になって共感することの重要性を説いています。

私たちは、「共感」を通じて、洞察の橋渡しをしたいと考えている。
他者の目を通じて世界を観察し、他者の経験を通じて世界を理解し、他者の感情を通じて世界を感じ取る努力を行なっている。

観察対象の人々はどのような感情を抱いているのか?
何に心を揺り動かされるのか?
何に刺激を受けるのか?
相手に共感して得られる感情的な理解は、人間を中心に据えた思考の重要なファクターなのです。

洞察(Insight)

これまで見てきたように、デザイン思考では、観察と共感を通じて、人々の隠れたニーズを洞察します。
洞察とは、
物事を観察して、その本質や、奥底にあるものを見抜くこと
です。
なので、洞察には直感を要し、これが、さまざまな条件やソリューションを目的に向かって統合するデザイン思考の大きな特徴なのです。

直感と論理

少し余談になりますが、直感の重要性について一つ例をご紹介します。
遠山啓(ひらく)さんの数学入門〈下〉 (岩波新書 青版 396)に、ニュートンやライプニッツが微分・積分を発見してから、150年経った後に、コーシーが、その論理的基盤となる極限の収束を証明したことについて次のように語っています。

新しいものの創造には天かける想像力と直感力が要求されるが、鋭い批判的な分析力は必ずしも必要としない。
だから芸術作品が美学に専攻するように多くのばあい創造は批判を追い抜く。
このことは数学のような論理的な科学についても決して例外ではない。
しばしばあやふやな論理の上に大胆な飛躍が行われ、その論理の厳密な裏付けはだいぶ後になって別の人によって行われる。
ある人は数学は論理だけの力によって組み立てられた科学であると主張するが、もしそうだとしたら、創造と批判とのあいだのずれは起こり得ないはずである。



直感というと何か非科学的なイメージがあるかもしれませんが、数学という科学の発展にも直感による創造がかかわっているとすると、いかに直感が人間の発展にとって重要であるかわかるのではないでしょうか。
将来、直感のメカニズムが科学的に発見されるかもしれませんね。

シマノの例

さて、ここで、書籍にある事例を紹介します。
日本の大手自転車部品メーカーのシマノの例です。
2004年、シマノは、米国の従来の自転車ロードレースおよびマウンテン・バイク部門で成長の鈍化に直面していました。
そこで、新しい物事に挑戦すべきだと考え、IDEOに協力を仰ぎました。
IDEOは、まず、変化しつつある米国の自転車市場の状況を探りました。

最初に、デザイナー、行動科学者、マーケター、エンジニアからなる異分野連携のチームを立ち上げた。
チームは、まず、高級市場をターゲットにするべきではないという直感を足がかりにした。
そして、米国成人の90%が、子供の時は乗っていたにもかかわらず、今は自転車に乗らない理由について、実地調査を行った。


すると、次のような事実が浮かび上がりました。

誰にでも子供のころに自転車に乗った楽しい思い出があるにもかかわらず、多くの人々が今では自転車に乗るのをためらっている。
自転車の販売店の多くでは、スポーツウェアに身を包んだ威圧的なアスリートが店員を務めているし、自転車、付属品、専用ウェアは面食らうほど複雑で高額。
自転車専用でない道路を走るのは危険だし、どうせ週末にしか乗らない精密機器をメンテナンスするのもおっくうだ。
話を聞いた誰もが、タイヤのパンクした自転車やケーブルの故障した自転車をガレージに置きっぱなしにしているようだった。

シマノとIDEOは、自転車のファンだけでなく、シマノの中心的な顧客以外からも洞察を得るという人間中心の調査によって、まったく新たな自転車のカテゴリーを発見することができたのでした。
つまり、米国の消費者に幼い頃の経験を呼び戻す未開拓の巨大市場が浮上してきたのです。

デザイン・チームは、誰もが見覚えのある昔のシュウィン製のコースター・バイクにヒントを得て、「コースティング(惰走)」というコンセプトを思いついた。
これにより、自転車に乗らなくなって久しい人々に、シンプルで、健全で、楽しい体験を取り戻すことができるのではないか。

シマノとIDEOは、人間を中心に据えて考えることで、新しい事業ドメインの洞察を得ることができたのです。

「自転車に乗らなくなって久しい人々」に「シンプルで、健全で、楽しい体験」を提供する。
この事業ドメインが、デザイン思考において、さまざまなソリューションを統合する目的の部分になるのです。

目的に向かって考える

デザイン思考の次の特徴は、目的に向かって考えるということです。
デザイン思考は、目の前の問題を解決して現状を改善していくアプローチではなく、目的を定義し、そこに向かってソリューションを統合することでイノベーションをもたらすアプローチです。

顧客自身が気づいていないニーズを洞察し、そこから「誰に何の価値を提供すべきか」定義し、それを実現することで、未だない新しい満足を生み出すのです。

イノベーションの3つの条件

書籍「デザイン思考が世界を変える」では、ソリューションがイノベーションをもたらすためには次の3つの条件が必要だと述べています。

  • 魅力性(Desirability)
    顧客から本当に必要とされる(Desirableな)ソリューションであること。
  • 実現可能性(Feasibility)
    現在、あるいは、近い将来の技術で実現可能な(Feasibleな)ソリューションであること。
  • 実行可能性(Viability)
    ビジネスとして持続し成長する(Viableな)ソリューションであること。

デザイナーは、この3つの条件のバランスをとりながら最適な解を見つけ出すのです。

イノベーションの3つの空間

それでは、イノベーションを起こすソリューションを見つけ出し、それらを統合するためには、どうすればよいのでしょうか。
書籍では、次の3つの空間を行ったり来たりしながら最適なソリューションを生み出すと説明しています。

  • 着想(Inspiration)
    あらゆる情報源から洞察を得るプロセス。
  • 発案(Ideation)
    洞察からアイデアを創出、構築、検証するプロセス。
  • 実現(Implementation)
    アイデアを市場に出し、それをソリューションに変えるための実行計画を立てるプロセス。


つまり、デザイン思考は、マイルストーンベースの直線的なプロセスではなく、反復で非線形的な探求のプロセスなのです。

製品(もの)のデザインから体験(こと)のデザインへ

さて、書籍では、
基本的なニーズが満たされた昨今の消費者は、有意義で感情的に満足できる体験を求めるようになり、
受動的な消費者から能動的な参加者へと変わる
と述べられています。
このような時代の変化を受けて、デザイナーは、製品そのものだけでなく、それが認知され、購買され、使用される一連の体験も含めてデザインする必要があります。
これは、アイデア(着想や発案)だけではダメで、それをどう実現するかも含めて設計することが重要だということです。

シマノの例

シマノの例に戻りましょう。
「自転車に乗らなくなって久しい人々」に「シンプルで、健全で、楽しい体験」を提供するという目的を掲げたシマノは、それをどう実現するか、設計する必要があります。
まず、製品そのもののデザインです。

スポーツ向けではなく遊び向けに作られたコースティング・バイクには、ハンドルにブレーキ類が一才なく、フレームを這(は)い回るケーブルもない。
複雑な精密ギアの清掃、調節、修理、交換も不要だ。
初期の自転車と同じように、逆向きにペダルを漕ぐとブレーキがかかる。
快適なクッション付きサドル、直立ハンドル、パンクに強いタイヤを搭載していて、メンテナンスもほとんど不要。
しかし、ただのレトロな自転車ではない。
自転車のスピードに応じて自動的にギアが変わる、高度な変速技術が搭載されているのだ。

次に、シマノとIDEOは、自転車のデザインにとどまらず、販売から使用までの一連の体験もデザインしました。

「デザイナー」なら、自転車が完成したところでプロジェクトを終えていただろうが、全体を見据える「デザイン思考家」は、もう一歩先に進んだ。
自転車の販売店に対して、店舗内の販売戦略まで立案したのだ。
その目的は、自転車ファン向けの店内で一般客が感じがちな気まずさを和らげることだった。
チームは、「コースティング」こそ人生を楽しむ方法だと位置付けるブランドを展開した。
さらに、地方自治体やサイクリング団体と協力して、自転車を安全に乗り回せる場所を紹介するウェブサイトなど、PRキャンペーンを考案した。
着想から発案、実現に至るまで、プロジェクトの各段階にはほかにも数多くの人々や組織がかかわった。
この自転車は、発売されると好評を博し、1年後には新たに7社のメーカーがコースティング・バイクの生産に加わった。
デザインはデザイン思考へと変わったのだ。

かくして、シマノとIDEOは、さまざまなソリューションを新しい事業ドメインの実現という目的に向けて統合したのです。

作りながら考える

問題の論理的な正しさ重視する、問題志向のロジカル思考と違って、デザイン思考は、ソリューションの実践的な正しさ重視する、解決志向のアプローチです。

現況について既知の側面だけでなく未確定の側面も合わせて検討することにより、目的の実現につながる隠れた要因を見つけ出し、さまざまなソリューションを切り開こうとします。
なので、デザイン思考は「作りながら考える」という反復的なプロセスで行われます。
途中で得られたソリューション(アウトプット)は他のソリューションへ繋がるスタート地点(インプット)でもあり、場合によっては最初の問題すら再定義することもあり得るのです。
それでは、「作りながら考える」とはどういうことでしょうか。
それは、

  • プロトタイプを作る
  • 仮説を検証する

を繰り返すのです。

プロトタイプを作る

プロトタイプとは簡単な試作品のことです。
書籍では、アイデアを早く形にすることが成功の近道だと言っています。

アイデアを早く形にすればするほど、それを検証して改良し、最適なソリューションに狙いを定めやすくなる。

さらに、書籍では、プロトタイプ制作を用いると、

プロジェクトを迅速化させることができるだけでなく、さまざまなアイデアを同時に模索することができ、最小のコストでより有望で斬新なアイデアを発見する機会を生み出すことができる

と言っています。
アイデアにかける投資が大きくなるほど、そのアイデアにのめり込み、
有望なアイデアを発見する機会を逃してしまうリスクと、
平凡なアイデアが実現されてしまうリスク
が高くなるのです。
体験のプロトタイプ
プロトタイプ制作というと、形がある製品の試作品をイメージしますが、実体のないサービスのプロタイプはどのように作るのでしょうか。
書籍では、実体のない体験をプロトタイプ化する手法として「カスタマージャーニー」を紹介しています。

これは、架空の顧客が体験するサービスの段階を最初から最後まで図式化するというものだ。
開始点は架空の場合もあるし、航空券を購入する人々や、屋根にソーラー・パネルを設置するかどうか悩む人々を観察することから得られる場合もある。
いずれの場合も、カスタマージャーニーを築き上げる利点は、顧客とサービスやブランドがどこで接点を持つかが明らかになるということだ。
この「タッチポイント」の一つ一つが、顧客に価値を提供する(あるいは、顧客と永久に別れを告げる)機会となるのだ。

近代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラーは、コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則で、認知(AWARE)、訴求(APPEAL)、調査(ASK)、行動(ACT)、推奨(ADVOCATE)の5つのAをベースにした新しいカスタマージャーニーの型を紹介しています。

さて、書籍では、イノベーションの3つの空間、着想、発案、実現、それぞれでプロトタイプ制作をすべきだと言っています。

  • 着想時のプロトタイプ
    デザイナーが簡単なスケッチ、模型、シナリオなどを使って、新たなサービス、製品、顧客体験など、目的を実現するためのソリューションを模索するためのもの。
  • 発案時のプロトタイプ
    ソリューションのアイデアを形にし、市場の需要を満たすのに必要な機能的・感情的要素が含まれているかどうかを会社内部で検証するためのもの。
  • 実現時のプロトタイプ
    発案されたソリューションがターゲット市場で成功することを実証するためのもの。

仮説を検証する

プロトタイプができたら、それを次の要領で検証します。

  • 着想時の仮説検証
    着想時のプロトタイプを確認し、ソリューションの妥当性をチームで検証する。
  • 発案時の仮説検証
    発案時のプロトタイプを確認し、ソリューションに、市場の需要を満たすのに必要な機能的・感情的要素が含まれているかどうかを会社内部で検証する。
  • 実現時の仮説検証
    実現時のプロトタイプを使って、発案されたソリューションがターゲット市場で成功することを実証する。

実現時の仮説検ですが、検証方法としては、顧客に対するアンケートやインタビュー、ランダム比較実験などがあります。
書籍では、医療環境のビジネスを行なっているナーチャーが行なったランダム比較実験の例を紹介しています。

ナーチャーは、メイヨー・クリニックと共同で、臨床環境に対する自社の理解度を検証する実験を設計した。
2つの診療室のデザインを対象に、患者と医者のインタラクションの効果を比較するランダム比較実験を計画し、実施した。
デザイン思考を実践する人々は、想像力、洞察、インスピレーションに頼りすぎる傾向があるが、ナーチャーのチームは厳密な科学的手順も同じくらい重視している。

このように、デザイン思考では、イノベーションの各段階でプロトタイプ制作と検証を繰り返しながら最適なソリューションを探求していきます。
このとき、探求の過程で、最初の着想で洞察された問題を再定義することもあります。

デザイン思考のプロセス

ここでは、デザイン思考でイノベーションを起こすソリューションを見つけ出し、それらを統合するためプロセスについて説明します。
イノベーションをもたらす事業を革新・創出するプロセスを次のようなフェーズに分けることができます。

  • 方向づけ
    事業ドメインを定義する。
  • 推敲
    ソリューションを実証する。
  • 構築
    新規事業を構築する。
  • 移行
    新規事業へ移行する。

この場合、デザイン思考で行う部分は、方向づけフェーズと推敲フェーズになります。

方向づけフェーズと推敲フェーズの中で、着想、発案、実現が繰り返されながら探求のプロセスが進んでいくのです。
それでは、事業革新・創出プロセスの各フェーズで何をするか見ていきましょう。

方向づけフェーズ

方向づけフェーズでは、新規事業の事業ドメインを定義します。
着想、発案、実現では、着想の部分が中心になります。
まず、プロジェクトを立ち上げるためのプロジェクト概要書(ブリーフ)を作成します。
プロジェクト概要書には、主に、プロジェクトの開始の枠組みとなる内容、プロジェクトチームの進捗を測るベンチマーク、実現すべき目標(価格、利用する技術、市場セグメントなど)などを記述します。
書籍には、P&Gから依頼されたときのプロジェクト概要書の例に、プロジェクト概要書のあり方について記載されています。

それは、自由と制約のバランスが見事に取れた概要書だった。
「毎日の掃除」という謎めいたスローガンのもと、浴室の清掃に革新をもたらすという内容だった。
依頼者は、研究所の最新のテクノロジーを取り入れて流線型や尾翼(びよく)型のパッケージを作ってほしいと指示したわけでもなければ、既存の市場シェアを数パーセント押し上げてほしいとチームに依頼したわけでもない。
概要書を過度に具体的にすることなく、チームに現実的な目標を立てるきっかけを与えてくれた。
また、過度に抽象的にすることなく、コンセプトを独自に解釈し、探求や発見を行う余地を与えてくれた。

次に専門家を集めてプロジェクトチームを形成します。
前述したように、デザイナー、心理学者、エスノグラファー(民族誌家)、社会学者、エンジニア、科学者、マーケティング専門家、ビジネス専門家、ライター、映画製作者など、さまざまな専門家がさまざまな視点や手法で観察し、ブレーンストーミングなどでアイデアを共有することで化学反応が起こり有益な洞察が得ることができます。
プロジェクトチームができたら実地調査を通して、人々を観察し、共感することで「誰に何の価値を提供するのか」事業ドメインと、それを実現するための新製品やサービスのイメージを描きます。
新製品やサービスのイメージができたら、ターゲットとなりそうな顧客にインタビューして意見を聞き、魅力度(Desirability)を検証します。
ソリューションを実現する手段にアプリケーションがある場合
UI(ユーザーインターフェース)のイメージを描いて、顧客にインタビューし、魅力度(Desirability)を検証します。

推敲フェーズ

推敲フェーズでは、新規事業の事業ドメインを実現するためのソリューションを設計し実証します。
着想、発案、実現では、発案と実現の部分が中心になります。
まず、方向づけフェーズで決まった事業ドメインを実現するソリューションを市場の需要を満たすのに必要な機能的・感情的要素が含まれているかどうかを会社内部で検証できるレベルのプロトタイプとして表します。
プロトタイプの一つとして、架空の顧客が体験するサービスの段階を最初から最後まで図式化したカスタマージャーニーを描きます。
その上で、会社内部で、ソリューションの魅力度(Desirability)を検証します。
次に、事業のビジネスモデルを、活動の順序関係(バリューチェーン)資産の相互関係(バリューストラクチャ)課題の因果関係(事業戦略)として表し、ソリューションの実現可能性(Feasibility)、実行可能性(Viability)を検証します。
ソリューションを実現する手段にアプリケーションがある場合
事業ドメインやビジネスモデルをベースに、ドメイン駆動設計(戦略的設計、および、戦術的設計)を行います。
カスタマージャニーのタッチポイント(顧客接点)からシステムのユースケースを導き出し、ドメインモデルを介して、その妥当性を検証します。

構築フェーズ

構築フェーズでは、推敲フェーズで実証されたソリューションをベースにして具体的なビジネスシステムを構築します。
ソリューションを実現する手段にアプリケーションがある場合
アプリケーションを構築します。

移行フェーズ

移行フェーズでは、構築フェーズで構築されたビジネスシステムが運営できる状態に移行します。
ソリューションを実現する手段にアプリケーションがある場合
アプリケーションが運用できる状態に移行します。

デザイン思考と経営

DXとデザイン思考

前述したように、主に事業を革新・創出するときにデザイン思考で考えますが、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって会社が目指すべき姿の中でいうと、ビジネスプラットフォームの上で事業が革新・創出されることになります。

イノベーションのポートフォリオ

事業を革新・創出するとき、商品×市場(顧客)で、事業創出の方向性を考えるフレームワークに「アンゾフの成長マトリクス」があります。
成長マトリクスでは、事業創出の方向性、つまり、成長の方向性を以下の4つの戦略で分類します。

  • 市場浸透戦略
    既存製品を既存市場に浸透させる戦略。
  • 製品開発戦略
    既存市場に新規製品を投入する戦略。
  • 市場開拓戦略
    既存製品を新規市場に投入する戦略。
  • 多角化戦略
    新規製品を新規市場に投入する戦略。

書籍では、これと同じ切り口で、イノベーションのポートフォリオを管理するIDEOの成長マトリクスが紹介されています。

  • 管理(Manage)
    アンゾフの成長マトリクスでいう既存製品を既存市場に浸透させる市場浸透戦略。
    書籍では、管理(Manage)領域について次のように説明しています。

    既存の製品と既存の顧客の領域は、漸進的な性質を持つ。
    これらのプロジェクトは重要であり、実際に企業の活動の大部分は、このタイプのイノベーションに属すだろう。
    たとえば、成功したブランドの拡張や、既存の製品の次世代版などが含まれる。
    スーパーの売り場には、漸進的イノベーションの例が無数にある。
    何種類もある歯磨きの風味は、漸進的イノベーションプロセスによって生まれたものであり、おそらくメーカーの売上増に結びついているのだろう。
    天文学的な製造コストがかかる自動車業界では、活動の大部分は、既存のモデルの改良や既存の走行距離の延長など、漸進的イノベーションに基づいている。
    近年の景気後退で、世界中の自動車メーカーが苦しんできたが、漸進的イノベーションのみに専念してきたデトロイトの通称「ビッグスリー」がもっとも大きな打撃をうけている。

  • 拡張(Extend)
    アンゾフの成長マトリクスでいう既存市場に新規製品を投入する製品開発戦略。
    書籍では、拡張(Extend)について次のように説明しています。

    企業の基盤を固める漸進的プロジェクトに加えて、その基盤を新たな方向に拡大する革新的プロジェクトを探求することも重要だ。
    この野心的な目標を達成するには、既存の商品を「拡張」して、まだ満たされていない既存の顧客のニーズを満たす必要がある。
    この種の革新的イノベーションの一例は、トヨタ・プリウスだ。
    米国の競合他社がより大型のSUV(Sport Utility Vehicle:スポーツ・ユーティリティ・ビークル)を求める波に乗っている間、トヨタは巧みなエンジニアリングとすばらしいデザインを通じて、エネルギー効率の高い個人向け自動車に対する新たなニーズをとらえた。
    米国の燃料価格の高騰とタイミングを合わせるように、プリウスは抜群の低燃費を消費者に提供したのだ。

  • 適合(Adapt)
    アンゾフの成長マトリクスでいう既存製品を新規市場に投入する市場開拓戦略。
    書籍では、適合(Adapt)について次のように説明しています。

    消費者の軸に沿った革新的イノベーションの中には、既存の製品を低コストで製造し、より幅広い消費者に販売するという方法も含まれる。
    タタモーターズのマイクロカー「ナノ」の根底にあるのも、この考え方だ。
    ナノは、決して斬新な自動車でもなければ独創的な自動車でもない。
    ヨーロッパのマイクロカーは、それこそ50年代から販売されている。
    しかし、メルセデスの12000ドルの「スマート」のような自動車は、いまだにインド市場では手の届かない商品だ。
    タタは、これに応えるために、消費者の期待する大半の機能を備えながら、それよりもはるかに低価格な自動車を設計したというわけだ。

  • 創出(Create)
    アンゾフの成長マトリクスでいう新規製品を新規市場に投入する多角化戦略。
    書籍では、創出(Create)について次のように説明しています。

    革新的イノベーションによってまったく新しい市場が「創出」される場合もあるが、それはまれなケースだ。
    ソニーはウォークマンで、その偉業を達成し、さらにその20年度には、アップルが見事な後継者、iPodで同じ偉業を実現した。
    いずれの場合も、核となるテクノロジーは新しいものではないが、それまでとは異なる音楽体験の市場を生み出すことに成功した。

ロジカル思考xシステム思考xデザイン思考

ビジネスを行う上で必要だと言われる思考法に、ロジカル思考、システム思考、デザイン思考があります。
先ほど述べたように、ロジカル思考は、論理的な分析のアプローチであり、既存商品の漸進的な改善(improvement)を得意とするので、IDEOの成長マトリクスでいうと、管理(Manage)領域の問題解決に適していると考えられます。
一方、デザイン思考は、直感を要する統合のアプローチであり、新規商品の革新的な創出(innovation)を得意とするので、IDEOの成長マトリクスでいうと、拡張(Extend)、適合(Adapt)、創出(Create)領域の問題解決に適していると考えられます。
では、残りのシステム思考はというと、デザイン思考で、事業ドメインを実現するために、ソリューション同士を因果関係で統合するときに有効な考え方という位置付けになります。

以上、今回はデザイン思考について解説しました。
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-思考法

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