ここでは、制約理論について、次の観点で説明します。
制約理論とは
制約理論(TOC: Theory of Constraints)とは、1984年にエリヤフ・ゴールドラット博士が著書『ザ・ゴール』で提唱した理論で、組織やシステムの成果を最も制限している制約(ボトルネック)に着目し、それを集中的に改善することで全体最適を達成するマネジメント理論のことです。
TOCの目的は、制約(ボトルネック)を見つけて、それを最大限活用し、スループットを最大化することです。
利益最大化のためには、単にコストを削減するのではなく、「スループットを増やすこと」が最も本質的な手段とされています。
スループット(Throughput)とは、単位時間あたりに企業が得る“真の利益”の源泉、すなわち、顧客に販売して初めて得られる、売上から完全変動費を差し引いた金額のことです。
スループット = 売上高 − 完全変動費
- 売上高(Sales)
顧客に対して販売が成立した金額。 -
完全変動費(TVC: Totally Variable Cost)
1つの商品・サービスを販売するために直接的に追加で発生する費用(例:材料費、外注加工費など)。労務費や間接費は含まれないことが多い。
TOCでは、スループット、在庫、業務費用の3つの指標で業務のパフォーマンスを測定します。
業務費用(Operating Expense)は、スループットを生むために使われた全費用。固定費(人件費など)です。
在庫は、販売のために保持しているすべての投資で、資金が固定されているものです。
次の指標で関係づけることができます。
利益=スループットー業務費用
ROI = 利益 ÷ 在庫
スループット会計(Throughput Accounting)
スループットをベースとした会計の考え方は以下のようになります。
- ボトルネック以外の最適化は全体最適につながらない
従来の管理会計では、すべてのリソース(人や機械)に効率的な稼働率を求め、原価計算でコストを配賦します。
しかし、TOCでは「制約(ボトルネック)以外の効率化は利益に貢献しない」と考えます。
たとえば、
工場全体の稼働率を上げても、ボトルネックが処理できる量が限界なら、全体のスループットは増えない。
逆に不要な生産が在庫となり、コストを増やしてしまう。 - 直接労務費が変動費ではなく「固定費化」している現実
多くの現代企業では、労働者は正社員として固定給を受け取っており、労務費は実質的に固定費です。
TOCでは完全変動費のみをスループットの計算に使います。
つまり、
材料費など、製品を作るたびに必ず増えるコストだけを変動費とし、労務費は業務費用として処理します。 - 意思決定を単純かつ迅速にするため
従来の管理会計は、詳細な配賦計算や標準原価差異分析など、複雑で遅い分析手法になりがちです。
しかし、TOCでは、「スループットを増やす/在庫を減らす/業務費用を減らす」というシンプルな判断軸で、意思決定を加速できます。 - 局所最適による誤ったインセンティブを避けるため
直接労務費ベースでの原価管理では、工場や部門ごとにコスト削減目標が設定されます。
その結果、「とにかく人を遊ばせない」「無駄でも作る」といった無意味な作業や在庫の積み上げが起きやすくなります。
TOCでは、全体最適(制約のスループット最大化)を重視するため、こうした部分最適を避けるのが目的です。
制約理論の5つの手順
制約理論では、制約を見つけて解消するための5つの手順を提唱しています。
- 制約を特定する(Identify the Constraint)
システム全体のパフォーマンスを制限している最も大きなボトルネックを特定する。 - 制約を活用する(Exploit the Constraint)
制約の効率を最大化するために、現在のリソースを最適化する。
例:生産ラインのボトルネック工程の稼働率を最大化する。 - 制約へ適合させる(Subordinate Everything Else to the Constraint)
制約が最適なパフォーマンスを発揮できるように、他のプロセスを調整する。
例:非制約工程が無駄な作業をしないように同期を取る。 - 制約を強化する(Elevate the Constraint)
もし制約が依然としてボトルネックである場合、新しいリソースを追加したり、プロセスを改善したりする。
例:新しい設備を導入する、追加の人員を投入する。 - 新たな制約がないかチェックする(Repeat the Process)
制約が解消された後、新たな制約が生まれる可能性があるため、継続的にプロセスを繰り返す。
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