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AIエージェントによるオペレーションの自律化

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記事AIエージェントドリブン経営とは何かで、AIエージェントドリブン経営の効果の一つとして以下をあげました。

AIエージェント同士のコラボレーション(Claude Code Rutine活用)により、オペレーションを自律化することができる。
これは、企業の適応力を向上させるとともに、メンバーを処理業務から解放し、高付加価値業務へシフトさせることができます。

ここでは、どのようにオペレーションの自律化を実現するのか次の観点で説明します。

  1. オペレーション自律化の仕組(メカニズム)
  2. 製造業のオペレーション自律化の例
  3. 製造業のオペレーション自律化の例
  4. オペレーションの自律化のアーキテクチャ

オペレーション自律化の仕組(メカニズム)

オペレーションの自律化とは、AIエージェントが連携し、オペレーションを継続監視し、制約を特定・分析・制御することで、QCDを継続改善する仕組みのことです。
※オペレーション
購買、生産、販売など価値を届ける活動のこと。
次の図はオペレーション自律化の仕組を表したものです。

オペレーション自律化の仕組



オペレーションの自律化を次のエージェントのコラボレーションによって実現します。

  • BSCエージェント
    BSCを管理するAIエージェント。
    定期的にBSCのKPIの目標値、実績値を確認し異常を検知するとともに、KPI間の因果関係から原因に関係するバリューチェーン、ビジネスプロセスを特定し、TOCエージェントに制約の制御を依頼する。
  • TOCエージェント
    ビジネスプロセス単位に存在し、制約理論(TOC)に基づいて制約の場所を特定するエージェント。
    BAM(Business Activity Monitoring)の制約スコアから、ビジネスプロセスのどの活動に制約があるか特定し、該当するSoRエージェントに制約の制御を依頼する。
  • SoRエージェント
    特定の業務を管理するSoR(販売管理システム、品質管理システムなど)ごとに存在し、業務の制約の原因を推定し、制約制御方針(改善、適合、克服)を決めて、それを制御するエージェント。

3つのAIエージェントの役割分担を簡単に書くと次のようになります。

  • BSCエージェント
    どこが悪い?
  • TOCエージェント
    どこが詰まってる?
  • SoRエージェント
    なぜ詰まってる?
    どう制御する?

また、オペレーションの自律化のメカニズムは、生物のホメオスタシスのメカニズムと同じになります。
生物のホメオスタシスはサイバネティック(Cybernetics)な(フィードバックによってシステムを制御する)システムで、次の4つの段階で実現されます。

  1. 観測(Sense)
    今の状態を見る。
    体の中にあるセンサーが、常に状態を見張っています。

    体温・血糖などを測る。
  2. 判定(Decide)
    理想と比べる。
    観測した値を「理想の状態」と比べ正常か異常か判断します。

    体温や血糖値が正常値に比べて高い。
  3. 介入(Act)
    ズレを元に戻す動きをする。
    ズレを元に戻すために体が動きます。

    発汗、インスリン分泌など。
  4. 学習(Learn)
    次はもっと上手に(より少ない負担で、より安定して、ズレを小さくするように)調整できるように変わる。
    閾値や反応を変えて環境に適応します。
    体は「どのくらいズレたら反応するか(閾値)」や「どれくらい強く反応するか」を調整します。
    生物の場合、目的関数が生存確率であるため、異常を検知した際に強い調整を頻発させることによる負担を避けるべく、異常と判定する基準や反応強度を調整し、結果として異常検知と調整が発生する頻度を下げる方向に適応します。

    血糖値の異常を判断する閾値が上がる。
    同じインスリンの量では血糖値が下がらなくなる。

それでは、上図に従ってオペレーションの自律化のメカニズムを説明します。

  1. 観測(Sense)
    SoIは、都度、BSCを更新します。
    BSCエージェントがリトマス指標である顧客視点のKP(成果指標)を定期的に監視し、異常があれば、それを検知します(上図①)。
    BSCエージェントはTOCエージェントからの報告を受け、成果指標が改善されたか確認します。
    改善されていない場合は、異常として検知されます(上図①)。
  2. 判定(Decide)
    BSCエージェントは、リトマス指標の異常検知を受けてBSCのKPI間の因果関係を分析します。

    • 財務視点のKPI
      売上低下など。
    • 顧客視点のKPI
      LTV低下、顧客満足度低下など。
    • 内部プロセス視点のKPI
      納期遵守率低下、平均修理時間低下など。

    内部プロセス視点のKPI(業績指標:バリューチェーンの活動ごとのKPI)を確認して(上図②)、バリューチェーンのどの活動(価値を創る活動・価値を伝える活動・価値を届ける活動)の、どのビジネスプロセス(価値を届ける活動の製造プロセスや販売プロセスなど)に問題があるか推定し、該当するTOCエージェントに制約制御を依頼します(上図③)。

  3. 介入(Act)
    TOCエージェントは、BAMの制約スコアからビジネスプロセスを構成するどの活動(加工、組立、品質検査など)に問題があるか特定し(上図④)、該当するSoRエージェントに制約の制御を依頼します(上図⑤)。
    SoRエージェントは、SoRエージェントが管理するKPI(不良率、MTBF、倉庫稼働率など)からどこに原因(制約)があるか推定し、制約の制御方針(改善、適合、克服)を決め、人と協働して、SoRが管理するKPIが改善されるまで制約を制御(改善→適合→克服)します。
    制約が制御された場合、SoRエージェントは、TOCエージェントにそれを報告し(上図⑦)、TOCエージェントは、BSCエージェントに制約が制御されたことを報告します(上図⑧)。
  4. 学習(Learn)
    各エージェントで実施したことは、実践ナレッジとして蓄積されす。

製造業のオペレーション自律化の例

製造業のオペレーション自律化の例を見てみましょう。
次の図は、製造業のサプライチェーンを示すものです。

製造業のサプライチェーン



この図に基づいて、製造業の品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)に関する制約を整理すると次のようになります。
製造業の制約例


  • SPC
    Statistical Process Control(統計的工程管理)
  • 設備キャリブレーション(Calibration)
    設備や測定器の「ズレ」を基準値に合わせて補正すること。
  • DBR(Drum-Buffer-Rope)
    制約工程(ボトルネック)を基準に全体の生産フローを同期するTOC生産方式。
  • SMED(Single Minute Exchange of Die)
    段取り替え時間を極限まで短縮する改善手法。
  • S&OP(Sales and Operations Planning)
    販売計画と生産・調達計画を統合し、需給を全社最適で同期する管理プロセス。
  • マルチソーシング
    調達先を複数化し、単一供給依存を回避する調達戦略。

ここでは、制約の種類を次のように分けています。

  • プロセス制約
    ビジネスプロセスの制約。
  • 資産制約(財務資産制約、人的資産制約、情報資産制約、知的資産制約)
    各種資産の制約。
    方針制約=規範ナレッジ=情報資産制約
    市場制約=顧客=人的資産制約
    外部制約=サプライヤー=人的資産役
    製品制約=知的資産制約
  • 場所制約
    場所の制約。
    倉庫の容量不足など。
  • 機能制約(組織、ジョブ)
    機能上の制約。

ここでは、製造リードタイムが上昇する問題を例にして、製造業のオペレーションの自律化を説明します。

  1. 観測(Sense)
    BSCエージェントが顧客視点KPI(リトマスKPI)
    顧客満足度低下
    納期遅延増加
    を確認し、異常を検知。
  2. 判定(Decide)
    BSCエージェントがBSCのKPIを確認。

    • 財務視点KPI
      * 売上低下
    • 顧客視点KPI
      * 顧客満足度低下
      * 納期遅延増加
    • 内部プロセスKPI(価値を届ける活動のKPI)
      * 製造リードタイム増加
      * 設備停止時間増加

    設備停止時間増加
    → 製造リードタイム悪化
    → 納期遅延
    → 顧客満足低下
    → 売上低下
    という因果を分析。
    価値を届ける活動の「製造プロセス」が問題であると判定。
    製造プロセスのTOCエージェントへ通知。

  3. 介入(Act)
    製造プロセスのTOCエージェントがBAMの制約スコアを分析。

    工程 制約スコア
    加工 0.42
    組立 0.55
    品質検査 0.91

    品質検査工程が制約と特定、品質検査のSoRエージェントに制約の制御を依頼。
    品質検査のSoRエージェントは、品質管理システム(SoR)のKPIを分析。
    * 不良率上昇(検査設備という設備資産制約)
    * 再検査率上昇(検査設備という設備資産制約)
    * MTBF低下(検査設備という設備資産制約)
    * センサー異常(検査設備という設備資産制約)
    * 夜勤熟練者不足(夜勤熟練者という人的資産制約)
    原因は、「検査設備劣化+熟練者不足」であると推定。
    ※品質管理システムは、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)からKPIの元データを取得する。
    品質検査のSoRエージェントは、人と協働して、品質を制御。

    • 制約の改善
      * 検査装置保守
      * 検査基準最適化
    • 制約への適合
      * 高優先案件を先行処理
      * 検査対象の動的絞込
    • 制約の克服
      * AI画像検査導入
      * 外部検査委託
      * 工程増設
  4. 学習(Learn)
    制約制御後、品質管理エージェントKPI分析
    * 不良率低下、再検査率低下、MTBF上昇
    BSCエージェントKPI分析
    * 製造リードタイム改善
    * 納期遵守率改善
    * 顧客満足度回復
    * 売上回復
    実施内容を実践ナレッジ化。
    品質管理の業務改革・改善による実践ナレッジの例。

    • 「湿度上昇時は検査誤差増加」
      →「湿度高時は検査閾値変更(検査基準最適化)」
    • 「夜勤熟練者不足で再検査率上昇」
      →「 外部検査委託」「AI画像検査で熟練依存を減らす」
    • 「AI画像検査は検査時間50%短縮」
      →「社内人材を高付加価値業務へシフト」

小売業のオペレーション自律化の例

小売業のオペレーション自律化の例を見てみましょう。
下表は、小売業の品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)に関する制約を整理したものです。

小売業の制約例


  • AGV
    Automated Guided Vehicle(無人搬送車)。
    倉庫内で商品を自動搬送するロボット。ピッキングや棚搬送を自動化して省人化する。
  • DR構成
    Disaster Recovery(災害復旧)構成。
    システム障害・災害時でも業務継続できるようにする冗長構成。バックアップサイトやクラウド冗長化など。
  • OMS
    Order Management System(受注管理システム)。
    ECや店舗注文を統合管理するシステム。在庫引当、出荷指示、納期回答などを行う。
  • 3PL
    Third Party Logistics(サードパーティ・ロジスティクス)。
    物流業務を外部専門会社へ委託する形態。倉庫・配送・在庫管理を外部委託する。

ここでは、店舗欠品が増加する問題を例にして、小売業のオペレーションの自律化を説明します。

  1. 観測(Sense)
    BSCエージェントが顧客視点KPI(リトマスKPI)を監視。
    顧客視点KPI
    * リピート率低下
    * 顧客満足度低下
    異常を検知。
  2. 判定(Decide)
    BSCエージェントがBSC全体を確認。

    • 財務視点KPI
      * 売上低下
      * 客単価低下
    • 顧客視点KPI
      * リピート率低下
      * 顧客満足度低下
    • 内部プロセスKPI
      * 店舗欠品率上昇
      * 在庫補充リードタイム増加
      * 配送遅延増加
      * 倉庫出荷遅延増加
      * ピッキング時間増加

    倉庫出荷遅延増加
    → 配送遅延
    → 店舗欠品率上昇
    → 顧客満足度低下
    → リピート率低下
    → 売上低下
    さらに、
    在庫補充リードタイム増加
    → 店舗欠品率上昇
    → 機会損失増加
    → 売上低下
    という因果を分析。
    価値を届ける活動の「物流センター」が問題と判定。
    物流プロセスのTOCエージェントへ通知。

  3. 介入(Act)
    物流プロセスのTOCエージェントがBAMの制約スコアを分析。

    工程 制約スコア
    入荷 0.41
    棚入れ 0.58
    ピッキング 0.93
    出荷 0.72

    「ピッキング工程」が制約と特定。
    ピッキング工程のSoRエージェントに制約の制御を依頼。
    SoRエージェントはピッキング管理システム(SoR)のKPIを分析。
    ※ピッキング管理システムは、WMS(倉庫管理システム)、POS、OMS、配送管理システムからKPI元データを取得。
    * ピッキングミス率上昇
    * 作業者歩行距離増加
    * 夜間作業者不足
    * ハンディ端末エラー増加
    * SKU増加による棚探索時間増加
    そこからSoRエージェントは、制約の詳細を分析。
    * 棚配置最適化不足(場所制約)
    * ハンディ端末性能低下(設備資産制約)
    * 夜勤人員不足(人的資産制約)
    * SKU肥大化(製品制約)
    原因は、
    「SKU増加による棚探索負荷増大」+「夜勤人員不足」
    と推定。
    SoRエージェントは、人と協働して制約を制御。

    • 制約の改善
      * 棚配置最適化
      * 高頻度商品の前方配置
      * ピッキングルート最適化
      * ハンディ端末交換
    • 制約への適合
      * 高優先注文を先行処理
      * 当日配送対象SKUを限定
      * 混雑時間帯の動的要員シフト
    • 制約の克服
      * AI画像ピッキング導入
      * AGV(自動搬送ロボット)導入
      * 外部3PL委託
      * マイクロフルフィルメントセンター増設
  4. マイクロフルフィルメントセンター(MFC: Micro Fulfillment Center)
    EC注文や即時配送向けに、都市近郊や店舗近くに設置する小型・自動化倉庫。

  5. 学習(Learn)
    制約制御後、SoRエージェントKPI分析
    * ピッキングミス率減少
    * 夜間作業者不足解消
    * ハンディ端末エラー減少
    * SKU増加による棚探索時間減少
    BSCエージェントKPI分析
    * 配送遅延改善
    * 店舗欠品率改善
    * 顧客満足度回復
    * リピート率回復
    * 売上回復
    実施内容を実践ナレッジ化。
    物流改革・改善による実践ナレッジの例。

    制約制御分類 制約制御 実践ナレッジ
    制約の改善 棚配置最適化 SKU配置はピッキング生産性へ大きく影響し、動線最適化によって歩行時間を大幅に削減できる。
    制約の改善 高頻度商品の前方配置 高頻度SKUを前方配置すると、SKU増加時でも探索時間の増加を抑制できる。
    制約の改善 ピッキングルート最適化 ピッキング順序最適化は、作業者移動距離を削減し、出荷能力を向上させる。
    制約の改善 ハンディ端末交換 ハンディ端末性能はピッキング処理速度とミス率へ直接影響する。
    制約への適合 高優先注文を先行処理 制約工程が逼迫した場合は、利益・LTVの高い注文を優先することで全体利益を最大化できる。
    制約への適合 当日配送対象SKUを限定 当日配送SKUを絞ることで、配送ピーク時でも出荷遅延を抑制できる。
    制約への適合 混雑時間帯の動的要員シフト 作業負荷変動に応じた動的要員配置は、制約工程の滞留を緩和する。
    制約の克服 AI画像ピッキング導入 AI画像認識によるピッキング支援は、SKU増加時でも探索負荷とミス率を低減できる。
    制約の克服 AGV(自動搬送ロボット)導入 AGV導入は搬送作業を自動化し、人員不足時でも出荷能力を維持できる。
    制約の克服 外部3PL委託 外部物流能力を活用することで、自社物流制約を短期間で緩和できる。
    制約の克服 マイクロフルフィルメントセンター増設 都市近接型の分散倉庫配置は、ラストワンマイル配送LTを大幅に短縮できる。

オペレーションの自律化のアーキテクチャ

最後に、AIエージェントによるオペレーションの自律化はどう実現するのか、そのアーキテクチャについて説明します。
次の図は、ナレッジベース、AIエージェントドリブン経営プラットホーム、Claude Code Rutineのスケジュール実行機能を使ってオペレーションの自律化を実現した例です。

オペレーションの自律化のアーキテクチャ例



上図は、次のような内容を示しています。

  • 会社のメンバーは、リモートデスクトップで、会社の共通PCにあるClaude Codeを使います。
  • SoIはBSCのKPIの実績値が変更される都度、ナレッジベースが管理するBSCにKPI実績データを登録します。
  • AIエージェントドリブン経営プラットホームは、AIエージェントのワークを実行する過程で、SoRにアクセスします。

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