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AIエージェントネイティブ時代のナレッジマネジメント

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ここでは、ナレッジマネジメントについて次の観点で説明します。

  1. ナレッジの3階層とSECIモデル
  2. ナレッジマネジメントと制約理論(TOC)
  3. 経営におけるナレッジマネジメントの位置付け
  4. 知識創造の例
  5. デザイン(型レベルの思考)の重要性

ナレッジの3階層とSECIモデル

不透明で予測困難な昨今、「何をすればうまくいくか」「何をすればうまくいかないか」というナレッジ(知識)を蓄積、更新していくことが重要だと言われています。
なぜならば、高度経済成長期のように、比較的経営環境が安定している場合であればルール固定でよいですが、不確実性が高いほど学習能力が競争力になるからです。
特にAIエージェントネイティブの時代では、AIエージェント(LLM)が行う推論の元になるナレッジを意図的に生成、管理するナレッジマネジメントが重要です。
ナレッジとは、体系化され、意味づけされ、行動に使える状態になった情報のことで次の3つの階層に分けることができると考えられます。

  1. 規範ナレッジ(Normative Knowledge)
    型(タイプ)レベルのナレッジ
。
    「どう行動すべきか」を決める枠組(原理・原則)。

    誰に何の価値を提供するために事業を行っているのか(存在意義)
    事業を行うメンバーやパートナーにはどのような価値観が求められるか(行動規範)
    顧客に価値を提供するために重要な業務の機能や活動は何でどのように進めるのか(価値創造の仕組)
  2. 戦略ナレッジ(Strategic Knowledge)
    種類(カテゴリ)レベルのナレッジ。
    原理原則を戦略(集中すべき場所)に落としたもの。

    Aという市場にBという製品を提供する
    Cという特性のあるメンバーを獲得する
  3. 実践ナレッジ(Practical Knowledge)
    実例(インスタンス)レベルのナレッジ。
    具体的な行動に使えるナレッジ。

    A1という顧客には、B1をこのように提供する

この構造は、エンタープライズアーキテクチャのベースとなるフレームワーク、ビジネスストラクチャマトリクスにも対応します。
ビジネスストラクチャマトリクスの設計で作成される型(タイプ)レベルの情報が規範ナレッジに、戦略で作成される種類(カテゴリ)レベルの情報が戦略ナレッジ、実現(構築・運用)レベルの情報が実践ナレッジになります。

ビジネスストラクチャマトリクスとナレッジの関係



それから、知識を創造する方法に関しては、野中郁次郎氏らが提唱した、SECIモデルが有名です。
SECIモデルとは、個人の暗黙知(経験・勘)を組織の形式知(マニュアルなど)に変換・共有し、新たな知識を創造するナレッジマネジメントのフレームワークで、次のような4段階で知識が創造され続けるというものです。

  1. 共同化(Socialization)
    経験を共有して暗黙知を伝える。
    共同化とは、個人が持つ暗黙知を、直接的な体験や観察を通じて 他の人に伝えるプロセスです。
    例えば、熟練した職人が弟子に技術を教える際、 言葉では説明しにくい「コツ」や「感覚」を、 実際に一緒に作業することで伝えていく過程がこれにあたります。
  2. 表出化(Externalization)
    暗黙知を言葉や図で表現する。
    表出化は、これまで言葉にできなかった暗黙知を、 文章や図表、マニュアルなどの形で明文化するプロセスです。
    この段階では、「なんとなく分かっている」ことを 「誰でも理解できる形」に変換することが重要になります。
    例えば、
    美味しい日本酒を造る杜氏(とうじ)の暗黙知を形式知化する、
    人気のラーメン屋のスープの元を形式知化する
    など、暗黙知の言語化は、属人化を防いで事業を承継、拡張するだけでなく、それを応用して新しい物事を創造する上でも大変重要です。
  3. 連結化(Combination)
    明文化された知識を組み合わせる。
    連結化では、既に形式化された複数の知識を組み合わせたり、 整理し直したりすることで、新しい知識体系を作り出します。
    異なる部門のマニュアルを統合して新しい業務手順書を作ったり、 複数のプロジェクトで得られた教訓を総合して、 より効果的な手法を開発したりする活動がこのプロセスです。
    AIを用いた知識の自動統合なども連結化の発展形として注目されています。
  4. 内面化(Internalization)
    新しい知識を自分のものにする。
    内面化は、組織で共有されている形式知を、 個人が実際に使いこなせるスキルや経験として身につけるプロセスです。
    マニュアルを読んだり研修を受けたりするだけでなく、 実際の業務で活用することで、その知識が個人の暗黙知として定着していきます。
    この段階で新たに蓄積された暗黙知は、次の共同化のサイクルで さらに発展した形で他の人に伝えられることになり、 組織全体の知識創造の螺旋が続いていくのです。

SECIモデル



書籍「知識創造企業」では、SECIモデルは、個人 → グループ → 組織 → 組織間というようにナレッジの適用範囲がスパイラル状に拡大すると書かれています。
この知識創造スパイラルは、ナレッジの社会的拡張が進むほど、ナレッジは一般化・抽象化される傾向があると考えることができます。
なぜならば、
・多人数で共有するには抽象化が必要
・組織原則にするには一般化が必要
・規範にするには概念化が必要
だからです。
上記ナレッジの3階層で考えると、組織階層が上がるほど、ナレッジの抽象レベルも実例レベルの実践ナレッジ、種類レベルの戦略ナレッジ、型レベルの規範ナレッジに上がる傾向があると考えることができます。
規範ナレッジは知識創造の終点ではなく、次の実践を方向づける前提構造(文脈:コンテキスト)になリます。
その枠組みの中で個人の暗黙知が生成され、新たなスパイラルが開始されます。

ナレッジマネジメントと制約理論(TOC)

次に、ナレッジマネジメントと制約理論(TOC)の関係について考えてみましょう。
知識創造におけるスループットとは、「暗黙知が形式知へ変換され、実装され、市場価値へと転換されるまでの単位時間あたりの変換量」と捉えることができます。
なので、制約理論(TOC)で考えると、暗黙知→形式知→実装→市場投入の変換速度を下げる部分が制約になります。
SECIモデルの共同化→表出化→連結化を経て、形式知が実装(内面化)されて、市場価値化されると考えると、多くの場合、「表出化」が主要な制約になりやすいと考えることができます。
なぜなら、表出化は、
・暗黙知は身体化されて個人に埋め込まれている
・言語化が難しい
・抽象化能力、メタファーや概念化能力が必要
・心理的安全性が必要(未完成な思考を表に出すので間違いや批判を恐れてはなかなか実施できない)
であるため、機械的に事を進めることができないからです。
それから、暗黙知の共同化は、暗黙知を形式知化する前に、文脈共有を先にやり、認知のズレを減らすことで、後工程の手戻りを減らす前工程だと捉えることができます。
また、形式知を組み合わせて、新しい体系を作る連結化(Combination) は、AIエージェントが得意とする工程です。
AIエージェント(LLM)は、
・大量のテキストを一瞬で読む
・複数資料を同時に要約
・共通点を抽出
・矛盾を指摘
・構造を再整理
ことができます。
つまり、ヒトに比べて、AIエージェントは圧倒的に高い形式知処理能力を備えています。
なので、AIエージェントは、連結化(形式化された暗黙知の再構成)を代行することができます。
しかし、AIエージェントは、身体を持たないため、暗黙知の共同化や、身体経験を伴う一次暗黙知の創出(表出化)そのものを代替することはできません。
ただ、AIに適切な質問をすることで表出化の速度を上げることはできます。
なので、表出化の特徴を考えると、AIエージェント導入によって、知識創造のボトルネックが技術から文化へ移動する可能性が高くなります。
公平かつ透明な評価のもと、失敗を許容し、チャレンジを奨励する価値創造の企業文化が知識創造型企業にとってとても重要なファクターになるのです。

経営におけるナレッジマネジメントの位置付け

それでは、経営活動においてナレッジマネジメントはどう位置づけられるのでしょうか。
下図は事業ライフサイクルを表した図です。





戦略サイクル構築フェーズ運用フェーズのマネジメントサイクル(PDCAサイクル)でデータドリブン経営のマネジメントサイクルが実行されます。





ここでは、この事業ライフサイクルの経営活動においてナレッジマネジメントがどのように実施されてるのか説明します。
さて、書籍「知識創造企業」では、組織的知識創造プロセスの5つのフェーズについて次のように説明されています。

  1. 暗黙知の共有
    本フェーズは、共通目標を実現するために様々な職能部門からのメンバーが一緒に働く自己組織化チームにおいて、SECIモデルの共有化が起こる段階です。
  2. コンセプトの創造
    本フェーズは、共有化された暗黙知が言語化され、明示的なコンセプトとして表出化される段階です。
  3. コンセプトの正当化
    本フェーズは、新しく創られたコンセプトが組織や社会にとって本当に価値があるかどうかを決定する段階です。
  4. 原型の構築
    本フェーズは、正当化されたコンセプトが、目に見える具体的なプロトタイプなどの原型(アーキタイプ)に変換されることで連結化が起こる段階です。
  5. 知識の転移
    本フェーズは、グループ→組織→組織間というようにナレッジの適用範囲が拡大する段階です。

これを、事業ライフサイクルとの関係で考えると次のようになります。
まず、新製品開発や新市場開拓などを行う戦略サイクル構築フェーズで上記1から4のフェーズが実行され、それが実践ナレッジとして蓄積されます。
次に、知識の転移が起こり、戦略サイクル戦略フェーズ設計フェーズの上記1から3のフェーズを通して、実践ナレッジが、戦略ナレッジ、規範ナレッジに昇華していきます。
ここで、上位のナレッジは、下位のナレッジにおける上位制約(ドラム)になります。
上位制約(ドラム)とは、組織全体のリズムと優先順位を決定する方向制約です。
これは、「コンセプトの正当化」で、新しく創られたコンセプトが組織にとって本当に価値があるかどうかを決定するときに作用します。
さらに、設計フェーズから戦略フェーズ、構築フェーズへと上位から下位へ展開される過程において、規範ナレッジや戦略ナレッジが具体的な行動原則として内面化(Internalization)されます。





さて、知識創造が起こるケースですが、もう一つあります。
それは、戦略サイクル運用フェーズのデータドリブン経営のマネジメントサイクルの検証(Check)と改善(Act)で制約を統制するときです。





具体的なメンバーやワークフローなど実例レベルの資産や活動に存在する制約を統制しても解決されない場合(計画レベルの見直し)、その制約は構造的な要因である可能性が高く、メンバーカテゴリやアクションプランなど種類レベルへと統制対象が引き上げられます(戦略レベルの見直し)。
それも解決されない場合、メンバータイプやビジネスプロセスなど、さらに、型レベルへと統制対象が引き上げられます(設計レベルの見直し)。
この制約を統制する過程で解決された統制方法が業務改革・改善の実践ナレッジ、戦略ナレッジ、規範ナレッジとして蓄積されます。

知識創造の例

書籍「知識創造企業」では、知識創造の例の一つとしてパナソニックの事例をあげています。

1970年代、日本の家電市場は成熟し始め、厳しい価格競争に直面した松下電器の営業利益率は低下した。
1983年5月、「ACTION61」と呼ばれる経営3カ年計画が発表された。
ACTIONとは、「行動を起こそう(Action)!、コスト削減(Cost reduction)と、話題性のある商品(Topical products)と、先導的なマーケティング(Initiative in marketing)と、組織の活性化(Organizational reactivation)で、創ろう新しい経営体質を(New managment strength)」の頭文字をとったものである。
61という数字は、目標達成を目指す3年後の昭和61年(1986年)を示している。
1984年5月、ACTION61の一環として、3つの事業部が電化調理事業部として統合された。
それには二つの意図が含まれていた。
資源の重複をなくして組織の効率を改善することと、3事業部の技術とノウハウを統合して再び成長路線に乗ることだ。

パナソニックは、厳しい現状を打開するために、まず、ACTION61というビジョンを掲げ、事業を再編し、3つの事業部を、電化調理事業部という事業単位に統合しました。



書籍では、「これによって電化調理事業部に創造的カオスをもたらし、事業部の一人ひとりが、自分たちは何をすべきかという個人的な意図を模索し始め、組織へのコミットメントを強めた」と書かれています。

次に、電化調理事業部は、どの方向性を目指すべきかについてのヒントやアイデアを見つけるために、アメリカ人の日常生活のトレンドを観察する企画チームを現地に派遣しました。

彼らが現地で見たものは
「働きに出ている主婦が多くなり、一層簡略化されて栄養的にも貧しくなった家庭の食生活」
だった。
同じような傾向が日本でも見られることを知っていた彼らが出した結論は、
家庭用調理器は、食事の準備を簡単にすると同時に、食事を美味しくかつ栄養豊かにするものでなければならない
ということであった。
そしてそこから、事業部のビジネス全体を包括する「イージーリッチ」というコンセプトが生まれた。
美味しくて栄養のある料理を簡単につくれる調理器なら、働く女性や食通のニーズにも応えることができるはずだ、と企画チームは信じたのである。

ここには、2つの重要な規範ナレッジが含まれています。
それは
食事の準備を簡単にすると同時に、食事を美味しくかつ栄養豊かにするという顧客価値と
イージーリッチ・美味しくて栄養のある料理を簡単につくれる家庭用調理器という製品価値(価値提案)
です。
さて、電化調理事業部の企画チームは、家庭用調理器のカテゴリとして、炊飯器のマイコン制御の電熱システム、フードプロセッサーのモーター、ホットプレートの加熱器など複数の要素技術を活用できる「家庭用自動パン焼き器(ホームベーカリー)」の商品化を目指すことにしました。
家庭用自動パン焼き器(ホームベーカリー)は、家庭用調理器という製品タイプに対する製品カテゴリになります。

ホームベーカリー開発のプロセスの詳細を見ることにしよう。
そのプロセス全体では、知識創造プロセスが3度繰り返される。
各サイクルは、チームメンバーが体験を共有することから始まり、これらの共有体験からコンセプトや原型が創り出される。
そして、それらのコンセプトや原型は、組織の「意図」に照らして正当かどうか判断される。
次のサイクルは、その前のサイクルの結果を改善したり欠陥を克服したりすることから始まる。

最初のサイクルは、パイロットチームのメンバーが経験を共有することから始まった。
次に、彼らは製品コンセプトを仕様に表出化してプロトタイプを組み立てた。
しかし、最初のプロトタイプは「リッチ」というコンセプトに照らして正当化できるほど美味しいパンを作ることができなかったので、プロセスは2回目のサイクルに入った。
それはソフトウェアの開発を担当していた田中郁子がパン生地の正しい練り方を熟練パン職人とお体験共有を通じて習おうとしたことから始まった。
パン生地の練りという難しいノウハウを機械に落とし込むために、田中はその動きのメンタルイメージを「ひねり伸ばし」という言葉で説明した。
練りの技能は、パン生地を練るヘラの動きや、パン生地が引っかかるように特別にケースの内側につける「うね」のデザインなどの個別のメカニカルな仕様に具体化された。
新しいプロトタイプは美味しいパンを作ることに成功し、開発は3度目のサイクルに入って、コストを一定の枠内に抑える新たな挑戦が始まった。
3回目のサイクルは、商品化チームのメンバーが暗黙知を共有することから始まった。
生産部門とマーケティング部門から新たなメンバーがチームに加わった。
このチームによって、「中メン」と呼ばれる発酵コントロールの革新的な方法が開発された。
イーストを、パン生地を練っている途中で入れるこのイノベーションのおかげて、パンの味が向上し、コストが下がったのだ。
出来上がったパンは、製品コンセプトの開発段階で決めたコストと品質の基準を満たしていると判断された。
こうして完成したホームベーカリーは、後から市場参入した競合製品と比べてもその差は歴然としており、ヒット商品になったのである。

ここには、イージーリッチを競争優位を生む中核技術として具体化した戦略ナレッジが含まれています。
それは、
「ひねり伸ばし」という、パン生地を練るヘラの動きや、パン生地が引っかかるように特別にケースの内側につける「うね」のデザインなどの個別のメカニカルな仕様に具体化された製品機能と、
イーストを、パン生地を練っている途中で入れる「中メン」と呼ばれる発酵コントロールの革新的な製品機能
です。
ここで、重要なのは、戦略ナレッジである2つの製品機能が、イージーリッチ・美味しくて栄養のある料理を簡単につくれる調理器という製品価値(価値提案)という規範ナレッジを上位制約(ドラム)として開発されたということです。
規範ナレッジが戦略ナレッジを規定することで知識創造の一貫性が保たれ、曖昧な判断基準や不明確な方向性に起因する失敗リスクを抑え、長期的に安定した成功を維持することができるのです。
さて、このホームベーカリーの成功を機に、パナソニックでは、知の転移が起こります。

ホームベーカリーの成功は、エンジニアたちの新規プロジェクトへの態度を変えた。
その経験が、社員の間に自信と次なる革新的な製品を開発したいという願望をもたらしたのだ。
ホームベーカリーが売り出されると、焦点は消費者の本当のニーズを満足させるような本物の質を持つ次の製品の開発に移った。
さらにエンジニアたちは、コンセプトを開発するために消費者が何を望んでいるのかを調べ始めた。
佐野は次のように言っている。
「消費者は、いったいどんな夢を持っているのか、それをどうやったら実現できるのか、と問いかけることで、そこから次の発展に繋げることができるはずです」。

これは、社員が、ホームベーカリーの成功を通して貢献と成長という喜び享受し、それが新たな創造の内発的な動機づけとなっていることを示しています。
まさに、価値創造の企業文化が育ち始めているのです。
それから、消費者は日常生活にどういう夢を持っているか問いかけて、そのようなニーズを満たす製品コンセプトを創るという方法も、「製品コンセプト設計」というタスクの規範ナレッジになります。
パナソニックでは、ホームベーカリーの成功に触発されて、ミル付き自動コーヒーメーカー、電磁加熱炊飯器など、消費者の「生活の質」の向上を意図した製品が後に続きました。
そして、電化調理事業部の枠を超えて全社レベルの知識創造が起こります。

ホームベーカリーの成功に触発された当時の社長の谷井昭雄は、1986年1月に松下電器全体をカバーする「ヒーマンエレクトロニクス」というグランドコンセプトを発表した。
そのコンセプトの下で、ハイテク・エレクトロニクスを使った、より「人にやさしい」製品を開発しようというのである。
谷井にとって「人にやさしい」製品とは、使いやすさを通して気分を高揚させ解き放つものであり、エレクトロニクスは「本物の質」を提供することによって消費者の満足感と幸福感を高めるのだ。

かくして、パナソニックは、知の転移によって、1事業部の顧客価値・製品価値を、全社レベルの顧客価値・製品価値という規範ナレッジに昇華したのです。

デザイン(型レベルの思考)の重要性

昨今、市場セグメントの選定や競争戦略の策定といった戦略レベルの思考は高度化、日常化していますが、
・誰に何の価値を提供するために事業を行っているのか
・事業を行うメンバーやパートナーにはどのような価値観が求められるのか
・顧客に価値を提供するために重要な業務の機能や活動は何で、どのように進めるのか
など、その戦略を方向づける「型(原理・原則)」の議論は相対的に弱まっているように思えます。
会社の型となるビジネスの意図、意味、文脈を体系的に定義することは、会社のオントロジー(概念とその関係性によって構成される意味構造)を設計することに他なりません。
最近、AIエージェントネイティブの時代になるという議論が盛んになっていますが、AIエージェント(LLM)は意味や文脈から確率的に推論します。
オントロジーは「推定の前提となる意味構造」を与える情報であり、LLMに一貫した推論をさせるうえで極めて重要な情報になります。
具体的に見ていきましょう。
型レベルの規範ナレッジは、TOCにおける上位制約(ドラム)に相当します。
型レベルの規範ナレッジを明確に定義し、それを基盤として戦略を策定し、現場のタスクを遂行することで、企業全体の意思決定の一貫性を保つことができます。




多くの組織では、型レベルの規範ナレッジが明文化されていないため、意思決定の基準が統一されず、
・市場機会に引っ張られる
・KPIに引っ張られる
・競合に引っ張られる
・AI出力に依存する
など、局所最適が全体最適を侵食し、組織全体の一貫性が失われていきます。
特にAIエージェントネイティブの時代においては、企業固有の文脈を明示することが意思決定の前提条件となります。
AIは与えられた文脈の中で確率的に最適と推定される解を提示します。
しかし、企業固有の意味構造(オントロジー)が明示されていない場合、その推論は汎用的な最適解へと収束し、企業独自の戦略的一貫性を担保することはできません。



規範ナレッジを明確化し、それに基づいて戦略と実行を統合することが、失敗リスクを低減し、長期的に安定した構造を維持するための前提条件となるのです。
デザインによって創出される規範ナレッジは、企業の行動や成果物に調和した一貫性をもたらします。
AIエージェントネイティブ時代とは、推論を自動化する時代です。
だからこそ、その推論の前提となる「型(原理・原則)」を設計することが、経営の中核的な責務となるのです。

ピーター・M・センゲの「最強組織の法則」という書籍に、
競争相手より早く学べる能力、それが競争力を維持する唯一の鍵である
と書かれています。
AIエージェントネイティブ時代においては、正しい方向に向かって爆速で学習・進化できる知識創造型企業こそが、持続的競争優位を確立する最強の組織となるのではないでしょうか。

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