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ビジネスアーキテクチャ

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ここでは、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の一要素であるビジネスアーキテクチャの設計方法について具体的に説明します。

図:エンタープライズアーキテクチャの構成
ビジネスアーキテクチャは、組織、資産、場所、活動から構成され、それが設計レベル(概念レベル)、戦略レベル(論理レベル)、実例レベル(物理レベル)に展開されます。
このうち、組織、資産、場所が静的モデルで、活動が動的モデルです。
まず、概念レベルの資産(タイプ)ですが、ビジネスストラクチャマトリクスでいうと、アプリケーション、データ、ITという情報資産以外の資産(タイプ)になります。

次に概念レベルの場所(タイプ)ですが、これは、ビジネスストラクチャマトリクスの場所タイプのことで、支店や工場、倉庫などビジネスを構成する拠点を表す概念になります。

最後に概念レベルの組織、ジョブですが、これは、ビジネスストラクチャマトリクスのジョブで、職務(ジョブ)を表します。

最後に、概念レベルの活動、ビジネスプロセス、および、その内容である業務フローは、ビジネスストラクチャマトリクスのビジネスプロセスになります。

特に、ジョブは、業務フローの活動を実行する主体であり、トランザクション処理アプリケーションのアプリケーションタイプの元になる重要な概念です。

ここでは、ビジネスアーキテクチャの設計について、次の観点で説明します。

準備タスク

ビジネスアーキテクチャを設計するためには、その設計思想になる経営理念や事業ドメイン事業パーパス戦略マップを明確にする必要があります。
経営理念は、企業の価値観(Values)で、メンバーがあらゆる意思決定をするときの判断基準、拠り所になります。
次に、企業にはどのような事業領域(ドメイン)があり、各事業ドメインごとのパーパスや活動領域を明確にします。
次の図は、不動産事業を事業ドメインの構成例を示したものです。

これを見ると、各事業ドメインには事業固有の主要活動があり、各事業ドメイン共通の事業支援活動、企業全体で共通の企業支援活動があることがわかります。
これら分類された活動領域ごとのジョブやビジネスプロセスを設計する必要があります。

ジョブの設計

ジョブは、活動領域ごとに考えます。

ジョブは、活動領域をベースに、

  • 内部統制を働かせるためにどう職務を分掌するか
  • 戦略マップの戦略目標をどう実現するか

などの観点で設計します。
例えば、会社のジョブを次のように分類した場合を考えます。

以下、ジョブを分掌したときの考え方について説明します。

内部統制を働かせるための職務分掌

購買管理者、入荷管理者、支払管理者の分掌

もし、購買管理者が部品の発注、入荷、代金の支払をすべて行うと、どのようなリスクが発生するでしょか。
不正などにより購買管理者が発注した部品が棚卸資産として計上されない可能性があります。
また、購買管理者に会計に知識がない場合、代金が入金されても買掛金が消し込みされない可能性があります。
これは、棚卸資産や買掛金の実在性に対するリスクになります。
なので、財務報告の信頼性リスクを統制するために、購買管理者、入荷管理者、支払管理者の職務を分掌(ぶんしょう)し、部品の発注、入荷、代金の支払の責務を分けることにします。

販売管理者、出荷管理者、請求管理者の分掌

もし、販売管理者が製品の受注、出荷、代金の請求をすべて行うと、どのようなリスクが発生するでしょか。
不正などにより販売管理者が受注した製品が棚卸資産として計上されない可能性があります。
また、販売管理者に会計に知識がない場合、代金が回収されても売掛金が消し込みされない可能性があります。
これは、棚卸資産や売掛金の実在性に対するリスクになります。
なので、財務報告の信頼性リスクを統制するために、販売管理者、出荷管理者、請求管理者の職務を分掌し、製品の受注、出荷、代金の請求の責務を分けることにします。

在庫管理者と会計管理者の分掌

物財を扱う在庫管理者が帳簿を扱うと、不正などにより正しく棚卸資産が計上されない可能性があります。
なので、財務報告の信頼性リスクを統制するために、物財を扱う在庫管理者と帳簿を扱う会計管理者を分掌し、正しく棚卸資産が計上されるようにします。


戦略目標を実現するための職務分掌

生産管理者と製造担当者の分掌

戦略目標「製品/部品の安定供給および適正在庫」を実現するためには、在庫のムラを防ぐためには、需要予測の精度上げるとともに、需要予測の結果と生産能力を考慮して生産計画を策定し適正数部品を仕込むことが重要です。
そこで、製造と生産管理の職務を分掌し生産計画の専門性を強化するようにします。

製造担当者と品質担当者の分掌

戦略目標「製品品質の維持向上」を実現するために、製造と品質管理の職務を分掌し品質管理の専門性を強化します。

ビジネスプロセスの整理

次に、業務フローの記述単位となるビジネスプロセスを全社レベルで整理します。
次の図は、会社のビジネスプロセスを活動領域ごとに分類して一覧化したものです。

ビジネスプロセスは、生産方式や販売方式の違いによって分ける必要があります。
製品を製造する場合、様々な生産方式があります。


次の図は、直接販売か間接販売か、物財かサービスかによって「製品の販売」プロセスを分類しています。

一通り、主要なビジネスプロセスの洗い出しが終了したら、各主要なビジネスプロセスに対してどのようなケースが考えられるか分析します。
次の図は、UMLのユースケース図を使って、「製品の販売」プロセスを分析した例です。

この場合、「製品の販売」プロセスは、製品の見積後、注文を受けてから製品が出荷される前までの一連の流れになります。
また、「製品の返品」プロセスは、納品後、なんらかの理由で製品が返品されるときの一連の流れになります。
この図を見ると「製品の販売」プロセスは「受注内容の変更」プロセスと、「受注の取消」プロセスに派生している(物事が枝分かれして生じている)ことがわかります。
これは、製品の注文を受けてから、製品が出荷されるまでの間に、「受注内容の変更」や「受注の取消」が発生するケースがあることを表しています。
さらに、「注文内容の変更」プロセスの具体的な内容には、「受注数量の変更」や「注文製品の変更」などがあることがわかります。
このように、具体的なケースをできるだけ多くあげることでビジネスプロセスをより深く分析することができます。
後述する「業務フローの分析」では、派生したビジネスプロセスも含めて、その業務フローを分析します。
「業務フローの分析」では、例えば、製品が既に出荷されている場合は、受注内容の変更や取消ができないなど、業務フローの条件分岐を分析します。

バリューチェーンの設計

下図は戦略マップを簡易的に表したものです。

これを見ると内部プロセスの活動領域は、バリューチェーンの3つの主要活動
価値を創る活動(Innovation)
価値を伝える活動(Communication)
価値を届ける活動(Operation)
から構成されていることがわかります。
まず、価値を創る活動ですが、活動領域でいうと商品管理活動になります。

次に、価値を伝える活動ですが、活動領域でいうと顧客管理活動になります。

最後に、価値を届ける活動ですが、活動領域でいうと営業活動です。

次の図は、上記会社のビジネスプロセス一覧をバリューチェーンの3つの主要活動に当てはめたものです。

※返品は除いています。
戦略マップのバリューチェーンの戦略目標を、それを構成する各ビジネスプロセスでどう実現するか考えることでBPR(Business Process Re-engineering)を進めます。

業務フローの分析

最後に、バリューチェーンの主要活動を構成する各ビジネスプロセスの業務フローを分析します。
業務フローには、ビジネスプロセスの本質的な(環境が変化しても変わらない)流れを示す「アクティビティフロー」と、それを構成するアクティビティをさらに詳細化した「アクションフロー」があります。

アクティビティフローを構成する「アクティビティ」は、「受注」、「出荷」など、ビジネスプロセスを構成する本質的な活動を表し、アクションフローを構成する「アクション」は、「〜の記録」、「〜の報告」、「〜の承認」、「〜の確認」など、これ以上分けることができない動作の単位になります。
最初からアクションフローレベルの業務フローを作成することもできますが、まず、本質的なアクティビティフローを記述し、業務改革、改善を行うアクティビティに絞ってアクションフローを作成することで業務フローの可読性と、作成の効率性を上げることができます。
上記、バリューチェーンに割り当てたビジネスプロセスの業務フローをUMLのアクティビティ図で記述した例は次のようになります。

「製品の開発」プロセスの業務フロー


「製品の開発」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。

  • 製品管理者が製品を設計すると、
  • 生産管理者がそれを受けて量産化の準備をする。
  • 量産化の準備ができると、販売管理者、購買管理者、保守サービス管理者が、それぞれ、販売、購買、サービスの企画を策定する。
  • 販売、購買、サービスの企画が策定されると、顧客管理者が市場に向けて製品のプロモーションを行う。

「販売計画の策定」「生産計画の策定」「購買計画の策定」プロセスの業務フロー


「販売計画の策定」「生産計画の策定」「購買計画の策定」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「部品の購買」プロセスの業務フロー


「部品の購買」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「部品の購買」プロセスのアクティビティフローのうち、「購買の見積」アクティビティのアクションフロー は次のようになります。


「部品の購買」プロセスのアクティビティフローのうち、「部品の発注」アクティビティのアクションフロー は次のようになります。


「部品の入荷」プロセスの業務フロー


「部品の入荷」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「部品の入荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「部品の入荷」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「部品の入荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「部品の品質検査」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「部品の入荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「部品の入庫」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「部品の入荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「棚卸資産の計上」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「部品の入荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「買掛金の計上」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「部品の入荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「仕入の計上」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「部品代金の支払」プロセスの業務フロー


「部品代金の支払」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「部品代金の支払」プロセスのアクティビティフローのうち、「代金の支払」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「部品代金の支払」プロセスのアクティビティフローのうち、「買掛金の消込」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の製造」プロセスの業務フロー


「製品の製造」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「製品の製造」プロセスのアクティビティフローのうち、「製品の製造指示」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の製造」プロセスのアクティビティフローのうち、「製品の製造」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の製造」プロセスのアクティビティフローのうち、「製品の品質検査」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の製造」プロセスのアクティビティフローのうち、「製品の入庫」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の製造」プロセスのアクティビティフローのうち、「棚卸資産の計上」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の販売」プロセスの業務フロー


「製品の販売」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「製品の販売」プロセスのアクティビティフローのうち、「販売の見積」アクティビティのアクションフロー は次のようになります。


「製品の販売」プロセスのアクティビティフローのうち、「製品の受注」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の出荷」プロセスの業務フロー


「製品の出荷」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「製品の出荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「製品の出荷指示」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の出荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「製品の出庫」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の出荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「製品の品質検査」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の出荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「棚卸資産の計上」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の出荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「売上の計上」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品の出荷」プロセスのアクティビティフローのうち、「売掛金の計上」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品代金の請求」プロセスの業務フロー


「製品代金の請求」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「製品代金の請求」プロセスのアクティビティフローのうち、「代金の回収」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「製品代金の請求」プロセスのアクティビティフローのうち、「売掛金の消込」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


「保守サービスの実施」プロセスの業務フロー


「保守サービスの実施」プロセスのアクティビティフローは次のようになります。


「保守サービスの実施」プロセスのアクティビティフローのうち、「保守サービスの報告確認」アクティビティのアクションフローは次のようになります。


BPR

ここでは、BA設計の一環として、戦略マップのバリューチェーンの戦略目標を、それを構成する各ビジネスプロセスでどう実現するか考えることでBPR(Business Process Re-engineering)を進める方法について説明します。
事業ライフサイクルマネジメントサイクルでは、PDCAのAct(改善)の3つのパターンについて説明しました。

このうち、BPRは、設計レベル(ビジネスモデル)の見直しで次のように分けることができます。

  • 資産(タイプ)の見直し
  • 場所(タイプ)の見直し
  • 機能(ジョブ・タスク)の見直し
  • 活動(ビジネスプロセス)の見直し

また、設計レベルの見直しは、さらに、次のように分けることができます。

  • 事業創出
    顧客タイプ、あるいは、製品タイプが見直される場合、新しい事業ドメインが創出されることになります。
  • 事業変革
    企業全体として、顧客タイプ、あるいは、製品タイプ以外の資産タイプ、場所(タイプ)、機能(ジョブ・タスク)が見直される場合。
  • 業務改革
    これまで人が行っていた活動をAIに置き換えたり、業務の流れそのものを変えるなど大幅なビジネスプロセスの変更を伴う活動(ビジネスプロセス)の見直し。
  • 業務改善
    ある活動のビジネスルールの変更など、従来のビジネスプロセスの大幅な変更を伴わない活動(ビジネスプロセス)の見直し。

一つひとつ見ていきましょう。

事業創出

新しい事業ドメインは、アンゾフの成長マトリクスでいうと、新製品開発戦略、新市場開拓戦略、多角化戦略によって創出されます。

新しい事業ドメインが創出されると、その事業ドメインのビジネスプロセスをすべて新規設計する必要があります。

事業変革

事業変革のBPRとしては、次のような例を考えることができます。

  • 新しいチャネルの開拓による新規ビジネスプロセスの設計
    戦略マップの戦略目標を受けて、新しいチャネルを開拓することで、そのチャネルに対応する新しいビジネスプロセスを設計する必要があります。
  • 新しいジョブの開発による既存ビジネスプロセスの再設計
    戦略マップの人的資産目標を受けて、新しいジョブ(職務)を導入することで、そのジョブのタスクをビジネスプロセスに組み込む必要があります。
  • 新しい生産方式、それにともなう新しい部品や中間品(財務資産)の導入による製造プロセスの再設計
    戦略マップの戦略目標を受けて、新しい生産方式を創出することで、その生産方式に対応する新しいビジネスプロセスを設計する必要があります。

業務改革

業務改革は、これまで人が行っていた活動をAIなど機械に置き換えたり、業務の流れそのものを変えるなど大幅なビジネスプロセスの変更を伴う活動(ビジネスプロセス)の見直しのことです。
設備の定期点検の例を考えてみましょう。

定期点検活動の効率化を考えて、これまで、人が行っていた設備の点検作業をドローンが行い、点検結果を報告する作業を生成AIが行うようにすると次のようになります。

このように、これまで人が行っていた活動をAIなど機械に置き換えるビジネスプロセスの変更は業務改革になります。
これを、ジョブとその実現手段の関係で見てみましょう。
これまでは、点検担当者というジョブを、メンバー(人)が実現していました。

業務改革によって、点検担当者というジョブを、ドローンやAIが実現すると次のようになります。

ここで観ていただきたいのは、業務改革を行ってもジョブの構成は変わっていないということです。
ジョブを実現する手段が人から機械に変わっても本質的な業務自体は変わらないのです。
MDA(Model-Driven Architecture:モデル駆動アーキテクチャ)でいうと、業務を実現するメカニズム(PIM)は変わっても、本来あるべき業務そのもの(CIM)は変わらないのです。

業務改善

業務改善は、ある活動のビジネスルールの変更など、従来のビジネスプロセスの大幅な変更を伴わない活動(ビジネスプロセス)の見直しのことです。

ビジネスプロセスを定義するときに重要なのは、価値を提供するステークホルダーを明確にするということです。
価値を提供する相手を考えることで、

  • 本当に価値を生み出す活動は何か
  • 価値を生み出していない活動は何か
  • 価値を生み出す活動をもっと効果的に行うにはどうすべきか
  • 価値を生み出していない活動はどうするか、削除、あるいは、削減するか、フローを変えるか、代替する手段はないか

など業務フローを構成する各活動を分析し、業務を改善することができるようになります。

-DX, ビジネス

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  1. […] ジョブの設計 […]

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