これは、経営方針とエンタープライズアーキテクチャ(Enterprise Architecture:EA)のモデルを表した図です。
エンタープライズアーキテクチャのアーキテクチャですが、これは、もともと建築用語で、建物のデザイン、建築様式を表す言葉です。
ここでは、アーキテクチャを一般化して、
システム(相互に影響を及ぼし合う要素から構成される、まとまりや仕組みの全体)の基本的な仕組(構造×振舞)
と定義します。
アーキテクチャは、
システムの目的と、
それを仕組として実現するための要件(設計思想)
に基づいて設計され、モデルとして表現されます。
ここでは、EAについて次の観点で解説します。
EAとは
EAとは、ビジネス要件(戦略の実現、各種報告の信頼性確保、各種法規の遵守)を満たす企業全体の仕組を、ビジネス、データ、アプリケーション、データ、IT基盤の観点でモデル(青写真)として表したものです。
ビジネス要件にある「戦略の実現」とは、事業戦略(マーケティング戦略や人事戦略など)の型である戦略マップの各視点の目標(財務目標、顧客価値、製品価値、戦略目標、人的資本目標、情報資本目標、組織資本目標)を実現することです。
なので、ビジネス要件は、ビジネスやシステムの仕組と事業戦略を規定します。
EAは、企業の戦略をどうビジネスとシステムの仕組として実現すればよいかを表した設計図なのです。
戦略とは企業全体の資産や活動をどの領域に集中するか考える過程です。
なので、EAは、企業の資産や活動を全体最適化する(必要な資産や活動を、戦略的に重要な領域に集中させ、企業全体のムリ、ムダ、ムラを無くし、最も経営上の効果が上がる状態にする)ための見取り図になります。
それから、ビジネス要件(戦略の実現、各種報告の信頼性確保、各種法規の遵守)の各種報告の信頼性確保、各種法規の遵守は、ERMの目的カテゴリを表しており、ビジネスやシステムの仕組を考えるときは、リスクマネジメントの視点も必要であることを示しています。
なので、ビジネス要件として、会社(業界)として遂行すべき報告(財務報告など)、会社(業界)として守るべき法律(個人情報保護法など)を明確にしておく必要があります。
EAは次の4つの階層構造で表すことができます。
さて、EAを考えるフレームワークにザックマンフレームワークがあります。
これは、IBMのコンサルタントだったジョン・A・ザックマン(John A. Zachman)が考案したもので、企業階層(縦軸)と5W1H(横軸)のマトリックスで会社の業務とシステムを整理するためのフレームワークです。
出典:Wikipedia
このザックマンフレームワークですが、5W1H×レイア構造のフレームワークであるビジネスストラクチャマトリクスに対応づけることができます。
ザックマンフレームワークのプランナーとオーナーの視点がレイア構造の概念レベル(型)、デザイナーの視点が論理レベル(種類)、ビルダー、プログラマー、ユーザーの視点が物理レベル(実例)になります。
BAとは
とは、
ビジネスアーキテクチャ(BA)とは、ビジネス要件(戦略の実現、各種報告の信頼性確保、各種法規の遵守)を実現すためのビジネスの仕組をモデル(青写真)として表したもの
です。
BAのビジネスの仕組は戦略マップの内部プロセスの視点の戦略目標を実現します。
- BAの静的モデル(構造:ビジネスモデル)
BAの静的モデルには、組織構成、資産構成、場所構成があります。
※資産のうちアプリケーション、データ、ITは除きます。 - BAの動的モデル(振舞:ビジネスプロセス)
BAの動的モデルには、ビジネスプロセス、業務フロー、アクションプラン、ワークフローがあります。
これらは、ビジネスストラクチャマトリクスでいうと次の図の赤枠の部分をモデル化したものになります。
次の例のように、ビジネス要件は、ビジネスの仕組と事業戦略を規定します。
- ビジネス要件である顧客の価値観や顧客分類基準は、事業戦略の顧客セグメントを規定します。
- ビジネス要件である製品の価値提案や製品分類基準は、事業戦略の製品カテゴリを規定します。
- ビジネス要件である財務報告の信頼性確保(内部統制)は、ビジネスの仕組であるジョブの構成(職務分掌)を規定し、結果的に事業戦略の部門構成を規定します。
- ビジネス要件である戦略目標は、ビジネスの仕組であるビジネスプロセスのタスク構成を規定し、結果的に事業戦略のアクションプランを規定します。
- ビジネス要件である戦略目標は、ビジネスの仕組であるタスクのガイドラインを規定し、結果的に事業戦略のアクションを規定します。
DAとは
とは、
データアーキテクチャとはビジネス要件(戦略の実現、各種報告の信頼性確保、各種法規の遵守)に関連するデータの品質、セキュリティ、経済性を確保するため、企業全体のデータの仕組をモデル(青写真)として表したもの
です。
DAのデータ戦略は戦略マップの情報資本(データ)目標になります。
- DAの静的モデル(構造)
DAの静的モデルはエンタープライズデータモデル(EDM:Enterprise Data Model)です。
エンタープライズデータモデルは、全体的でエンタープライズレベルの実装に依存しない概念または論理データモデルであり、企業全体にわたるデータに関して一貫した共通のビューを提供します。
EDMには、企業の重要なデータ、それらの間の関係、重要な手引きとなるビジネスルール(ビジネスメタデータとして記録する)、いくつかの重要な属性が含まれます。
これらは、すべてのデータが関連するシステム開発プロジェクトの基礎を定めているので、どのプロジェクトのレベルのデータモデルもEDMに基づいている必要があります。 - DAの動的モデル(振舞)
DAの動的モデルはデータフローです。
データフローは、データがビジネスプロセスやシステムをどのように移動するかを示すものです。
これは、データリネージュ(データの系統)のドキュメントであり、データの発信元、格納場所、使用場所、さまざまなプロセスとシステムの内部や間を移動する際に、データがどのように変換されるかを示します。
重要なのは、戦略的に重要なデータがどの業務活動で生成・収集、変換・蓄積、利活用、破棄されるのか、業務活動とデータライフサイクルの関係を抑えるとです。
これによって、データ品質を維持・向上させるためには、どの業務活動をどう設計、あるいは、改善すべきかあたりをつけることができます。
これらは、ビジネスストラクチャマトリクスビジネスストラクチャマトリクスでいうと次の図の赤枠の部分をモデル化したものになります。
AAとは
とは、
アプリケーションアーキテクチャとは、ビジネス要件(戦略の実現、各種報告の信頼性確保、各種法規の遵守)を実現するアプリケーションの機能や品質を確保するため、企業のアプリケーション全体の仕組をモデル(青写真)として表したもの
です。
AAのアプリケーション戦略は戦略マップの情報資本(アプリケーション)目標になります。
- AAの静的モデル(構造)
AAの静的モデルはアプリケーション構成です。 - AAの動的モデル(振舞)
AAの動的モデルはアプリケーション連携モデルです。
アプリケーション連携モデルは、アプリケーション間のデータ連携を表したデーフローと同じです。
これらは、ビジネスストラクチャマトリクスビジネスストラクチャマトリクスでいうと次の図の赤枠の部分をモデル化したものになります。
TAとは
TAとは、
テクノロジーアーキテクチャとは、ビジネス要件(戦略の実現、各種報告の信頼性確保、各種法規の遵守)に関連するデータやアプリケーションを支えるIT基盤の技術の仕組をモデル(青写真)として表したもの
です。
TAのテクノロジー戦略は戦略マップの情報資本(IT)目標になります。
TAは、次の基盤から構成されます。
- IT基盤
- コミュニケーション基盤
- データ管理基盤
- アプリケーション基盤
- BPM基盤
これらは、ビジネスストラクチャマトリクスビジネスストラクチャマトリクスでいうと次の図の赤枠の部分をモデル化したものになります。
EAの設計プロセス
EAは次の手順で設計します。
黒色:経営方針
緑色:ビジネスアーキテクチャ
青色:データアーキテクチャ
オレンジ色:アプリケーションアーキテクチャ
紫色:テクノロジーアーキテクチャ
- 経営理念の明確化
- 事業ドメインの分析
- 活動領域の分析
- 資産の設計
- 場所の設計
- ジョブの設計(内部統制)
- アプリケーションポートフォリオの設計(内部統制)
- ビジネスプロセスの整理
- バリューチェーンの設計
- 戦略マップの設計
- ジョブの設計(戦略目標)
- アプリケーションポートフォリオの設計(情報資本目標)
- アクティビティフローの分析
- アクションフローの設計
- データアーキテクチャ(概念レベル)の設計
- データ管理基盤(方針レベル)の設計
- アプリケーションアーキテクチャ(概念レベル )の設計
- アプリケーションアーキテクチャ(論理レベル )の設計
- データ管理基盤(製品レベル)の設計
- データアーキテクチャ(論理レベル)の設計
のビジネスプロセスマネジメントとの関係でいうと、EA設計プロセスの緑色のビジネスアーキテクチャに関わる部分は、ビジネスプロセスマネジメントの一部になります。
また、アプリケーションマネジメントとの関係でいうと、EA設計プロセスのオレンジ色のアプリケーションアーキテクチャに関わる部分は、アプリケーションマネジメントの一部になります。
また、データマネジメントとの関係でいうと、EA設計プロセスの青色のデータアーキテクチャに関わる部分は、データマネジメントの一部になります。
最後に、ITマネジメントとの関係でいうと、EA設計プロセスの紫色のテクノロジーアーキテクチャに関わる部分は、ITマネジメントの一部になります。
経営理念の明確化
経営理念は、企業の価値観(Values)で、メンバーがあらゆる意思決定をするときの判断基準、拠り所になります。
事業ドメインの分析
企業の事業ドメインの構成を分析します。
事業ドメインには、事業パーパスが存在します。
活動領域の分析
事業ドメイン単位、事業ドメイン共通の活動領域を明確にします。
次の図は、不動産事業を事業ドメインの構成例を示したものです。
これを見ると、各事業ドメインには事業固有の主要活動があり、各事業ドメイン共通の事業支援活動、企業全体で共通の企業支援活動があることがわかります。
これら分類された活動領域ごとのジョブやビジネスプロセスを設計する必要があります。
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