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戦略マップの実践

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次の図は、実践的な戦略マップのフレームワークです。

ここでは、戦略マップをどう設計するのか、次の観点で具体的な考え方の例を提示します。

財務の視点の考え方

戦略マップを簡略化して表すと次のようになります。

このように、財務視点の最終目標は、企業価値を最大化することです。
企業価値を式で表すと
フリーキャッシュフロー(FCF)/資本コスト
となります。
※これは、一定のフリーキャッシュフローが永続する場合を前提としています。
FCFとは、
本来の営業活動によって生み出されたキャッシュフロー、会社が自由に使えるキャッシュフローのことで次の式で求めることができます。
税引後営業利益+減価償却費ー投資ー運転資本の増加
これを見ると、無駄な投資や運転資本(売掛金や在庫)の増加がFCFを抑える要因になっていることがわかります。
次に資本コストですが、これは、資本を調達するために必要なコストのことで、次のように負債コストと株主資本コストに分けることができます。

  • 負債コスト
    借入で資本を調達する場合のコスト。
    銀行など投資家に支払う利息の割合(利子率)。
  • 株主資本コスト
    株式で資本を調達する場合のコスト。
    株主が期待するリターンの割合。

なので、企業価値を最大化するための因果関係を表すと次の図のようになります。

資産効率は、いかに固定資産や運転資本を効率的に運営するかを表す度合いで、無駄な投資や運転資本(売掛金や在庫など)の増加を抑えることで上げることができます。
ここで、資本コストの低減は財務戦略の領域なので、本業の戦略の型を表す戦略マップから省きます。
すると、企業価値の最大化の因果関係は、次のように表すことができます。

顧客の視点の考え方

次に、顧客の視点の考え方について説明します。
上記財務の視点のうち、顧客の視点に関係するのは「営業利益の向上」です。
営業利益は、売上と原価や固定費の差として表されます。
ビジネスの原点は、
誰に(どのような価値を持った人に)
何の価値を提供するか
です。
ビジネスが、顧客の価値観を満たす製品価値を提供することができて初めて収益が上がるのです。

なので、顧客の視点では、まず、顧客価値と製品価値を定義する必要があります。
さて、ここでは「LTV」を製品価値が顧客の価値観を満たしていることを測る効果的な指標である考えます。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、ある顧客が企業と取引を開始してから終了するまでの期間に、企業がその顧客からどれだけの利益を得ることができるのかを表す指標です。
製品価値が顧客の価値観を満たすことでLTVを上げ、結果的に、営業利益を上げることができると考えます。

このLTVを、既存顧客からのLTVと新規顧客からのLTVに分けて考えると次のようになります。

戦略マップは、事業戦略の型です。
事業戦略は、新製品を開発したり、新市場を開拓することによって新たな収益の源泉を獲得する戦略と、既存顧客との関係を深め顧客価値を最大化する戦略に分けることができます。
新市場を開拓することによって新たな収益の源泉を獲得する(新規顧客価値の創出)戦略の場合、事業ドメインの下位にサブドメインを創出することになるので、新しい事業を開始するタイミングで、新しい事業の戦略マップを設計する必要があります。
なお、新市場を開拓するとき、具体的に、どの市場セグメントをターゲットにするのかについては、戦略フェーズで戦略マップをベースに事業戦略を策定するときに考えます。

内部プロセスの視点の考え方

次に、内部プロセスの視点の考え方について説明します。
財務の視点や顧客の視点の目標は「企業が達成すべき成果」(What)を表します。
内部プロセスの戦略目標は、財務の視点や顧客の視点の目標を「どのように達成するのか」(How)、その実現方法を表す目標になります。
まず、財務の視点の資産効率を向上するための戦略目標について見ていきましょう。
先程説明したように、資産効率は、いかに固定資産や運転資本を効率的に運営するかを表す度合いで、無駄な投資や運転資本(売掛金や在庫)の増加を抑えることで上げることができます。
つまり、固定資産や運転資本の回転率を上げることで資産効率を上げることができます。

まず、運転資本の回転率を上げるための戦略目標の例としては、
資金回収の効率化や、
在庫の適正化
などを上げることができます。
また、固定資産の回転率を上げるための戦略目標の例としては、
企業の固定資産のムリ、ムダ、ムラをなくして全体最適化を図る
などを上げることができます。
次に、顧客の視点の既存顧客のLTVと新規顧客のLTVを上げるためにはどうすればよいか見ていきましょう。
上記簡略化した戦略マップの図を見てもわかるように、内部プロセスの活動領域は、バリューチェーンの3つの主要活動
価値を創る活動(Innovation)
価値を伝える活動(Communication)
価値を届ける活動(Operation)
から構成されています。
この3つの活動ごとに、既存顧客のLTV向上に対する施策とコスト、既存顧客のLTV向上に対する施策とコストの例を整理すると次のようになります。

まず、価値を創る活動ですが、活動領域でいうと商品管理活動になるので、機能改善・追加は、「商品の改良」活動の施策、新製品開発は、「商品の開発」活動の施策になります。

ここで、新規製品とは、家電でいうと冷蔵庫に対するエアコンのように製品カテゴリが異なるものを指します。
また、新製品開発による新規顧客ですが、既存製品を使う人でも、新規製品を使う場合、新規製品に対する新規顧客と考えます。
次に、価値を伝える活動ですが、活動領域でいうと顧客管理活動になるので、購買意欲を上げる販売促進、プロモーションは、「顧客の活性化」活動の施策、顧客維持は、「顧客の維持」「顧客の処分」の施策、新市場開拓は、「顧客の獲得」活動の施策になります。

ここで、新市場とは、中小企業に対する大企業のように市場セグメントが異なるものを指します。
最後に、価値を届ける活動ですが、活動領域でいうと営業活動、および、パートナー管理活動、設備管理活動です。
クロスセルやアップセルは、既存顧客の顧客単価を上げるための販売施策になりますが、新チャネル開拓は、新しい販路を開拓することで新規顧客を獲得する施策なので、パートナー管理活動の「パートナーの獲得」活動の施策も含みます。
価値を届ける活動の他の施策としては、製品やサービスの品質を上げるための施策があります。

それから、既存顧客のLTV向上に対するコストは、顧客を維持するためのコスト、顧客維持コストになります。
顧客維持コストのオペレーションコストとは、営営業活動、および、パートナー管理活動、設備管理活動にかかるコストのことです。

また、新規顧客のLTV向上に対するコストは、顧客を獲得するためのコスト、顧客獲得コストになります。

実際に顧客維持コストや顧客獲得コストを測る場合は、活動基準原価計算(ABC:Activity Based Costing)を使って計算することができます。
以上より、既存顧客のLTVと新規顧客のLTVを上げるための戦略目標のフレームワークを次のように表すことができます。

さて、LTVですが、次のように、業種業態によってさまざまな式で算定することができます。

  • 製品販売の場合
    LTV=平均粗利益×購入頻度×顧客の平均存続期間-−(顧客獲得コスト+顧客維持コスト)。
  • B2Cサブスクリプションサービスの場合
    LTV=月額料金×粗利率×(1/月間解約率)。
    1/月間解約率(Churn Rate)は、顧客の平均寿命(Customer Lifespan)を表します。
  • B2Bサブスクリプションサービスの場合
    LTV=平均契約金額×粗利率×契約期間−(顧客獲得コスト+顧客維持コスト)。

例えば、既存顧客のLTVを
既存顧客のLTV = 顧客単価  ×  粗利率  ×  購買頻度  ×  存続期間  -  顧客維持コスト
という式で測る場合、次のように、既存顧客のLTV を構成する各変数を、それに対応する各戦略目標のKPIとして設定することができます。

最後に、社員管理や情報管理などLTVの向上に関係のない活動のコストの低減を「その他固定費の低減目標」として「営業利益の向上」に関係づけると次の図のようになります。

学習と成長の視点の考え方

最後に、学習と成長の視点の考え方について説明します。
学習と成長の視点の戦略目標は、次のように、内部プロセスの戦略目標を実現するための目標になります。

人的資本の目標には、
戦略目標を実現するために重要なジョブとそれに求められるスキルやナレッジ
を設定します。
情報資本の目標には、
戦略目標を実現するために重要なアプリケーションとそれに求められる機能と品質
戦略目標を実現するために重要なデータとそれに求められる品質とセキュリティ
戦略目標を実現するために重要なIT基盤とそれに求められる品質とセキュリティ
を設定します。
組織資本の目標には、
戦略目標を実現するために求められるメンバーやパートナーの価値観
を設定します。
なお、戦略目標を実現するために重要なデータには、
バリューチェーンを構成する活動の事実を記録し、ビジネスの状況を確認したり改善するために必要なデータ
ビジネスの進行状況を追跡し、必要に応じて戦略やアクションを調整するために必要なデータ
があります。
そして、戦略的に重要なデータの品質やセキュリティを管理するのがデータマネジメントです。
さらに、内部の視点の戦略目標を管理するのがビジネスプロセスマネジメント、戦略目標を実現するために重要なアプリケーションとそれに求められる機能と品質を企業全体で管理するのがアプリケーションマネジメントで、戦略目標を実現するために重要なIT基盤とそれに求められる品質を企業全体で管理するのがITマネジメントです。

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