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【実践!DX】人的資本の戦略【人材から人財へ】

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記事「【実践!DX】事業の成長ステージと戦略【戦略の本質】」では、戦略課題に対して、次の点を明確にする必要があると説明しました。

  • 戦略課題を解決するための人的資本とスキルセット
  • 戦略課題を解決するための情報資本とシステム機能
  • 戦略目標を実現するための組織資本とマインドセット

今回は、このうち「戦略課題を解決するための人的資本とスキルセット」と「戦略目標を実現するための組織資本とマインドセット」について次の観点で説明します。

活動とジョブ

活動とジョブの関係については記事「活動の展開」を参照してください。

ジョブとは何か

ジョブの定義については記事「ジョブの定義」を参照してください。

人材から人財へ

書籍「戦略マップを」では、人的資本は
內部プロセスの視点を達成するために、業務改善を行う社員のコンピテンシーを職務要件として持つ戦略的な職務(ジョブ)
として明示することができると、説明しています。
コンピテンシーとは、業績を生む原因となる知識、スキル、行動特性などの能力のことです。

そして、人的資本を、無形資産(intangible assets)として捉えており、それを、企業価値の創出に方向づけることを重要視しています。
日本では、2023年3月期決算から人的資本の情報開示が義務化されましたが、「戦略マップ」の著者、ロバート S. キャプラン、デビッド・P. ノートンは、早くから、人の能力を、業務を遂行するための資源、「人材」ではなく、価値を生み出す資産、「人財」と考えていたのです。

組織資本とは

書籍「戦略マップ」で、企業価値の創出に方向づけるべき無形資産を、人的資本、情報資本、組織資本としています。
ここでは、組織資本について説明します。
書籍では、組織資本を、
組織を活性化させ戦略を実行するために必要な変革のプロセスを持続させるコンピテンシー
と定義しています。
つまり、組織が持つコンピテンシーを表しています。
書籍では、組織資本は、次の4つの要素に基づいて形成されるとしています。

  • 組織文化
    戦略の実行に必要とされるミッション、ビジョン、中核的な価値観を意識させ、內部に浸透させる。
  • リーダシップ
    戦略に向けて組織を動かすために、すべてのレベルに質の高いリーダーがいるようにする。
  • 戦略への方向づけ
    個人、チームならびに部門の目的、および、インセンティブを戦略目標の達成に結びつける。
  • チームワーク
    戦略的潜在性を持つ知識を組織全体で共有する。

人的資本の場合、社員が職務を遂行するために求められる知識や技能、スキルセットをコンピテンシーとして重視しているのに対して、組織資本は、社員の行動特性や価値観、マインドセットを重視しています。
組織資本を形成する組織の価値観は、社員の行動指針にもなる経営理念として表されます。

スキルセットとマインドセット

以上、見てきた通り、人的資本と組織資本は、企業価値を創出するために重要な無形資産です。
簡単に言うと、人的資本となるジョブのスキルセットと、組織資本となる社員のマインドセットが戦略実現の鍵となるということです。
企業は、戦略を実現するために必要なジョブと、そのスキルセットを職務記述書(ジョブディスクリプション)に定義する必要があります。
また、戦略を実現するために社員がどう行動すべきか、そのマインドセットを経営理念として表す必要があります。
ここで、人的資本と組織資本の要素であるスキルセットとマインドセットのマトリクスで企業に必要な人財を分類していみましょう。
次の図は、企業が求めるスキルセットが高いか低いか、企業が求めるマインドセットに合っているか、合っていないかによって、第一領域から第四領域に分けたものです。

そうすると、

  • 企業が求めるスキルセットが高くて、マインドセットに合っている第一領域の人財は欲しいが
  • 企業が求めるスキルセットが低く、マインドセットに合っていない第四領域の人財は欲しくない

ということはすぐにわかります。
それでは、

  • 企業が求めるスキルセットが低くて、マインドセットに合っている第二領域の人財
  • 企業が求めるスキルセットが高く、マインドセットに合っていない第三領域の人財

については、どちらを重視すべきでしょうか。
私達が暮らす社会に消えることのない足跡を残した卓越した会社に共通した原則をまとめた、ジェームズ・C・コリンズの「ビジョナリーカンパニー」という書籍があります。
その二冊目「ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則」に「最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」という原則があります。

偉大な企業は、最初にビジョンや戦略を決め、次に、それに合う社員を選ぶのではなく、まず、適切な社員を選んでから、その社員と一緒に目的地を決めることで、環境の変化により適応しやすくなることを知っていた、というのです。
この適切な社員とは、会社の考え方、価値観に合った社員のことです。
ビジョンや戦略は、環境の変化によって変化します。
それに伴って、戦略を実現するために必要な知識や技能、スキルセットも変わります。
しかし、その会社の価値観、哲学は、時代の変化に影響受けることはありません。
つまり、会社の価値観に合っている社員を選んでおけば、環境がどう変わっても適切なビジョンや戦略を選択できるというわけです。
ビジョナリーカンパニーは「誰をバスに乗せるか」を重視していのです。
話を、さきほどのマトリクスに戻しましょう。
この原則に基づくと、第三領域より第二領域の人財を優先すべきだということなります。
スキルセットは、教育や訓練によって修得できると思いますが、人の考え方や価値観、マインドセットは、長年積み重ねてきた経験に基づいて形成されたものであり、そう簡単に変えることはできないと思います。
そいう意味でも、企業は、最初に「誰をバスに乗せるか」よくよく考えるべきなのではないでしょうか。

組織資本を事業戦略に方向づける

記事「【実践!DX】事業の成長ステージと戦略【戦略の本質】」では、俺のフレンチの戦略目標を次のように考えました。

これらの戦略目標は、組織資本を形成する企業の価値観に適合している必要があります。
例えば、次のように「お客様を幸せにするサービスの追求」という価値観が経営理念の一つである場合、それが戦略目標の実現の支えになります。

例えば、食材の品質と鮮度を確保するために仕入先を評価する場合、「お客様を幸せにするサービスを追求する」という姿勢があるかどうかが重要な評価基準になるはずです。
また、店舗オペレーションを効率化するときも、お客様に不快感を与えないかという視線で効率化の内容や範囲を選択するはずです。
ビジョンや戦略は、その会社の価値観、マインドセットを反映したものであるべきなのです。

人的資本を事業戦略に方向づける

次に、人的資本を事業戦略に方向づけてみましょう。
人的資本は、ジョブで表すことができます。
また、ジョブは、活動領域ごとに定義することができます。
そこで、ここでは、記事「【実践!DX】事業の成長ステージと戦略【戦略の本質】」で考えた戦略課題を解決するたに必要なジョブを、活動領域に当てはめて考えてみましょう。

  • 店舗オペレーションの効率化の戦略課題は、営業活動の販売・サービスになるので、ここではシェフと「販売管理者」というジョブを適用します。
  • ファン拡大の戦略課題は、顧客管理活動になるので、ここでは「顧客管理者」というジョブを適用します。
  • 立ち食いスタイルの店舗展開の戦略課題は、設備管理の店舗の開発になるので、ここでは「店舗管理者」というジョブを適用します。
  • 一流シェフ獲得の戦略課題は、社員管理の社員の獲得・社員の育成になるので、ここでは「社員管理」というジョブを適用します。
  • 食材の品質・鮮度確保の戦略課題は、営業活動の購買・入荷、仕入先管理になるで、ここではシェフと「仕入先管理者」というジョブを適用します。

あるべきビジネスプロセスの設計

組織資本、人的資本を事業戦略に方向づけることで、戦略課題を解決する、あるべきビジネスプロセスの業務フローを設計することができます。

タスクとスキルセット

さて、戦略マップを使って、人的資本を事業戦略に方向づける場合、戦略課題を解決するための人的資本目標として、戦略課題を解決するスキルセットを備えたジョブを設定し、ジョブのスキルセットを向上させるための課題を人的資本課題として定義します。

ここでは、ジョブに必要なスキルセットをどう考えるのか見ていきましょう。
活動とジョブの関係を見てもわかるように、ジョブを機能であるタスク(課業)は、業務フローを構成する要素になります。
なので、まず、業務フローからジョブが実行すべきタスクを定義します。
販売管理者を例にして考えてみましょう。

業務フローから上図の4つのタスクを定義することができます。
それでは、販売管理者がこの4つのタスクを遂行するとき必要な行動特性やスキルセットは何でしょうか。
まず、組織資本としての価値観、
お客様を幸せにするサービスの追求
を満たす行動特性が必要とされます。
それから、ジョブが解決すべき課題

  • 店舗オペレーションの効率化
  • パーソナライズされた顧客体験の提供

を解決できるスキルが必要とされます。
社員管理者は、これらの要件を満たすスキルセットや行動特性を職務記述書(ジョブディスクリプション)に定義します。

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  1. […] ;タスクになります。 俺のフレンチの人的資本課題(タスク)の設計例 […]

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