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【実践!DX】DXはどう進めればよいか

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ここでは、DXの土台となる企業情報基盤の論理基盤を創出するときの考え方について、次の観点で説明します。

DXによってどこに向かうのか

まず、企業の論理基盤を創出するにあたって、DXによって企業がどこに向かうのか明確にする必要があります。
前回の記事「DXを成功させる3つの鍵」では、DXとは、

企業を
データやデジタル技術を活用することで
環境の変化に応じて迅速に事業を変革・創出し
顧客を中心としたステークホルダーに価値を提供し続ける
体質にすること

であると説明しました。
ここで重要なのは、DXは一過性のものではなく、持続可能な体質をつくることだということです。
最近、DXを経営戦略の中心に据え、デジタル技術を導入している会社が増えているようです。
しかし、デジタル技術を導入しただけでは、企業を環境の変化に応じて迅速に事業を変革・創出し続ける体質に変換することはできません。
ここでは、企業の体質変換を成功させる上で重要な鍵は次の3つだと考えています。

  • 仮説検証の仕組み
  • 変化に強い構造
  • 価値創出の企業文化

まず、仮説検証の仕組みについて説明します。
先行き不透明で予測困難な時代、これまでうまくいった方法を前提に計画、実行、検証、改善というPDCAサイクルをまわしても、前提自体が間違っている場合、うまく機能しません。
このような時代、環境の変化に応じて迅速に事業を変革・創出し続けるためには、環境の変化を察知して仮説を立て、実験してうまくいく方法を探してから、その方法を実践するという仮説検証型のアプローチのほうが有効です。
つまり、仮説検証を繰り返すことで持続可能性を高める、やればやるほど成功の確度が上がる仕組みをつくることが重要なのです。
詳細は、「仮説検証の仕組み」を参照ください。
次に、変化に強い構造について説明します。
仮説検証を通してうまくいく方法が見つかっても、新しい方法に業務とシステムが適応できないと、その方法は実現されません。
環境の変化に応じて迅速に事業を変革・創出するためには、業務とシステムを環境変化に柔軟に適応できる、つまり、変化に強い構造にしておくことが必要です。
詳細は、記事「変化に強いビジネスを創る」を参照ください。
最後に、価値創出の企業文化についてです。
業務やシステムの仕組みは整っていても、それを運用する人が動かなければ絵に描いたもちで終わってしまいます。
環境の変化に応じて迅速に事業を変革・創出するためには、企業を、それを構成するメンバー一人一人が環境の変化に気づき、アイデアを出し、仮説を立てて行動する状態に変える必要があります。
社員の創造の種が開花する土壌をつくる必要があるのです。
詳細は、「価値創出の企業文化」を参照ください。
なので、DXといったとき、
データやデジタル技術を活用して事業を変革・創出する
だけでなく、次のように体質変換にデータやデジタル技術を活用することもDXということになります。

  • データやデジタル技術を活用して仮説検証(探索と深化)を行う
    データ基盤、APP基盤、BPM基盤を活用したデータドリブン経営の実現。
  • データやデジタル技術を活用して業務とシステムを変化に強い構造にする
    ビジネスのモジュール化。レイア化、ビジネスプロセス統合と、マイクロサービスアーキテクチャ技術の活用。
  • データやデジタル技術を活用して価値創造の企業文化を構築する
    パーパスを起点としたビジネスモデルの設計と、デジタル技術を活用したコミュニケーション基盤の構築。

DXはどのように進めるのか

企業の論理基盤では、DXのロードマップを設計しますが、ここでは、DXをどのように進めるのか、その考え方について説明します。
記事「DX戦略の考え方」では、DX戦略マップについて説明しました。

DX戦略マップは、土台となる企業情報基盤があり、その上で、データドリブン経営と戦略的アプリケーションが実現され、その結果、事業が創出・変革されるという構図になっています。
そこで、まず、DX戦略マップをひな形にして、各会社の戦略マップを作り、それをベースに業務とシステムを再構築していきます。
次の図は、DXのプロセスを示したものです。

DXは、会社の土台を再構築することになるので、大規模な投資を要します。
なので、できるだけ慎重に進められるよう、次のように、フェーズドアプローチ(多段階アプローチ)をとっています。

方向づけフェーズ(Inception)

まず、DXを進めるにあたり、DXによって目指すべき企業の姿と、そこへどう向かうかについて関係者全員で検討し共有します。

Inceptionには、頭の中に考え方を埋め込む、という意味が含まれています。
方向づけフェーズでは、企業情報基盤の論理基盤とプランを創り、関係者全員が腹落ちするまで共有し続けます。
記事「変化に強いビジネスを創る」で説明しましたが、ビジネスを、縦軸に構成要素(目的・資産・場所・機能・活動)、横軸にレイヤ構造で分けると次の図のようになります。

本フェーズでは、企業のパーパスを起点にビジネスの型を設計し、それを事業戦略として具体化し、投資計画、マスタープランに落とし込みます。
マスタープランとは、詳細のアクションプランをまとめた主要なアクションプランのことです。
具体的には、次のようなプロセスになります。プロセスを構成する各タスクごとに関係者全員の合意を取ります。

  • まず、「誰に何の価値を提供するのか」という観点で企業のパーパスを再確認します。
  • そして、現行ビジネスモデルを明確にします。初めて起業するスタートアップの場合、顧客や製品など自明な部分を定義します。
  • その上で、戦略マップを作り、「価値がどう創出され、どうステークホルダーに提供されるか」「結果的にビジネスが持続できるか」検討します。
  • そして、戦略マップを実現する将来ビジネスモデルを設計します。
  • 最後に、ビジネスモデルの実現度合いを測るためのKPIを定義します。

ここまでが、ビジネスモデルの設計です。
次に事業戦略の策定に移ります。
事業戦略は、ビジネスモデルを分類した概念で、ビジネスモデルのある時点の具体的な姿を表します。

  • まず、パーパスのある時点の状態であるビジョンを設定します。
  • 次に、ビジョンを実現するための事業戦略を策定します。
  • そして、事業戦略が実現されビジョンが達成されたことを示すKPIの目標値を設定し、BSC(バランス・スコアカード)として定義します。

事業戦略に基づいてBSC(バランス・スコアカード)を作成した後は、次のような流れでマスタープランを策定します。

  • まず、業務変革、組織文化構築、人材変革、DX全体に対する投資配分を決めます(全体投資計画)。
    これは、財務戦略でいうとフリーキャッシュフローを使った投資戦略になります。
  • 次に、業務変革、組織文化構築、人材変革、DX內部の投資配分を決めます。
    業務変革投資には、店舗開発など有形固定資産の投資も含めます。
  • 人材変革は、人的資本ポートフォリオ(ジョブの構成)に基づいて投資配分を考えます。
  • DXは、情報資本ポートフォリオ(情報システム基盤とアプリケーションの構成)に基づいて投資配分を考えます。
  • 最後に、業務変革、組織文化構築、人材変革、DXそれぞれのマスタープランを策定します。

以上の流れを見てもわかるようにDXは、ビジネスモデル設計や事業戦略の策定の一環として進められるということです。
DX投資計画とDXマスタープランの例については、記事「DX投資計画の例」を参照してください。

検証フェーズ(Verification)

ここでは、いきなり企業情報基盤を構築するのではなく、まず論理基盤の妥当性(正しさ)と実現可能性(確からしさ)を検証することで、企業情報基盤構築のリスクを最大限下げるようにします。
検証フェーズを設けずに。計画を立てたらいきなり構築フェーズに進むプロジェクトを見ることがあります。
その多くが、プロジェクトが途中で行き詰まり、結果的に多大な埋没費用(サンクコスト)を発生させることになっているようです。
「急がば回れ」です。
上記マスタープランの例のように、きちんとコストをかけて検証してから前に進むようにすることをお勧めします。

さて、検証フェーズで検証するのは、書籍デザイン思考が世界を変えるにある、イノベーションをもたらすための3つの条件です。

  • 魅力性(Desirability)
    論理基盤が、ビジネスのステークホルダーから本当に必要とされる(Desirableな)ソリューションであること。
  • 実行可能性(Viability)
    論理基盤が、ビジネスとして持続し成長する(Viableな)ソリューションであること。
  • 実現可能性(Feasibility)
    論理基盤が、現在、あるいは、近い将来の技術で実現可能な(Feasibleな)ソリューションであること。

魅力性(Desirability)の検証

魅力性の検証は、「なぜ、誰に何の価値を、誰がどこで何を使って、いつどのように提供するか」というビジネスモデルの妥当性を事業戦略を通して検証します。
具体的には、市場セグメント×製品やサービス×メンバー×パートナー×組織×拠点×アクションプランの組み合わせのうち、どれがビジネスとして成立するか、実際にアクションプランを実行しランダム化比較実験を通して検証します。
ビジネスの製品/サービス(プロダクト)が、まだ、世の中にないものである場合、MVP(Minimum Viable Product)、つまり、初期の顧客を満足させ、将来の製品開発に役立つ有効なフィードバックや実証を得られる最小限の機能を備えた製品を作って試します。
なお、市場セグメント×製品やサービスの検証は、顧客の価値観に製品価値がどれだけ適合(フィット)するか、つまり、PMF(Product Market Fit)を検証するものです。
なので、既にPMFは検証済(スタートアップのアーリーステージ以降)である場合、市場セグメント×製品やサービスの検証は必要ありません。

実行可能性(Viability)の検証

ビジネスモデルを設計する過程で、戦略マップを描くことによって、そのビジネスが持続的に成長するか机上で検証します。
その際、重要なのが持続的な成長を可能とする競争優位性、ディフェンシビリティ(Defensibility:防御可能性)です。
戦略マップには、学習と成長の視点があり、そこに投資することでビジネスが持続的に成長する人的資本、情報資本、組織資本を定義します。
この人的資本、情報資本、組織資本がディフェンシビリティを生み出す資産になるか検証する必要があります。

実現可能性(Feasibility)の検証

製品の実現可能性は、MVPを作ることで検証できます。
情報資本である企業情報基盤の検証は次のように行います。

機能検証

アプリケーション基盤の一つである基幹システムの機能の実現可能性を検証します。
ERPパッケージを導入する場合、フィットアンドギャップ分析を行います。

技術検証

主に、データ基盤、データ連携基盤、BPM基盤の検証を行います。
特に、APIやキューによるシステム間の相互接続姓の検証を行います。

構築フェーズ(Construction)

検証フェーズで、論理基盤の妥当性(正しさ)と実現可能性(確からしさ)が検証されたら、論理基盤に基づいて、企業情報基盤の物理基盤を構築します。

その際重要なのが、反復でインクリメンタル(アジャイル)に進める、ということです。
反復型の開発アプローチは、初期の段階から小さな単位で顧客の目に見えるものが出来上がっていくので、その都度、顧客の要求が明確になり、その要求をシステムに反映していくことができます。
なので、前工程に間違いがないことを前提にしたウォーターフォール型開発のように、問題点が後から発覚し、開発のやり直しになるリスクが極めて低くなります。

移行フェーズ(Transition)

移行フェーズでは、企業基盤の上でビジネスが実行できる状態にします。

移行は、各アプリケーションや情報システム基盤が構築されたタイミングで次の観点で行います。

  • データ移行
    既存システムのデータを新しいシステムに移行します。
    データ構造が異なる場合は、構造を変換するデータ移行プログラムを開発する必要があります。
  • アプリケーション移行
    新しいアプリケーションを導入するとともに、既存のアプリケーションをどのような手順で廃止するのか検討します。
    業務移行の業務運用検証の一環としてアプリケーションの運用テストを実施します。
  • 業務移行
    業務を移行するためには、新しいアプリケーションやデータの使い方を学習するためのマニュアルづくりや教育が必要になります。
    また、新しいアプリケーションやデータを使った新しい業務フローを定義する必要があります。
    その上で、新しいアプリケーションとデータを使って業務フローが流れるか検証します(業務運用検証)。

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