では、記事「DXはどう進めればよいか」で示した4つのフェーズのうち「方向づけフェーズ」で企業情報基盤の論理基盤を構築する方法について説明しました。
また、記事「【実践!DX】資産と活動」では、企業の論理基盤、特に、ビジネスモデルを考える上で資産と活動が重要な要素であることを説明しました。
ここでは、資産と活動のうち、活動をどう創出するかにフォーカスを当てて次の観点で説明します。
戦略の本質
マイケル・ポーターは、著書「競争の戦略」の中で、
「戦略の本質は、活動の中にある。活動を他社とは異なるように遂行するのか、あるいは、ライバルとは異なる活動を遂行するのかの選択である。」
と記述し、活動を競争優位を得るための基本的な単位としています。
戦略とは、戦(いくさ)を略すことです。
どの活動に限られた資源を集中するのか選択することで、戦いを効率的に進めることができるのです。
また、ポーターは、同著の中で、事業活動を活動領域ごとに分類し、価値の連鎖、バリューチェーンとして表し、どの部分で付加価値が生み出されているか、競合と比較してどの部分に強み・弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探る手法を示しています。
バリューチェーンを構成する活動のうち、どの活動に限られた資源を集中するのか選択することで、戦いを効率的に進めることができるのです。
さて、記事「戦略マップとは何か」では、財務と顧客の視点で、企業が達成を望んでいる成果を表し、內部プロセスの視点で、その成果がどのように達成されるのかをビジネスプロセス(活動)の戦略目標として定義すると説明しました。
つまり、戦略マップとは、財務目標と顧客価値を実現する活動を明確にし、それを戦略目標として表すものであり、それによって戦略の本質を描きます。
記事「DXはどう進めればよいか」で示したDXプロセスでは、「方向づけフェーズ」で、戦略の本質を戦略マップとして表し、それをベースに、あるべきビジネスモデルを設計します。
なお、方向づけフェーズの「ビジネスモデルの設計」でビジネスの型(ビジネスモデル)を設計し、「事業戦略の策定」で、それを具体的な事業戦略に展開します。
記事「変化に強いビジネスを創る」で説明した、ビジネスを、縦軸に構成要素(目的・資産・場所・機能・活動)、横軸にレイヤ構造で表した図で見ると次のようになります。
ビジネスモデルは、戦略の本質を表したビジネスの型であり、事業戦略は、それを具体的な戦略に展開したものです。
例えば、ビジネスモデルでは選択された活動を「ビジネスプロセス」として設計し、事業戦略で、それを具体的な行動としての「アクションプラン」に展開します。
ちなみに、ビジネスモデルの顧客タイプは、マーケティング戦略におけるSTPのセグメンテーション、および、ターゲティングを通して顧客カテゴリ(市場セグメント)に展開され、製品タイプは、ポジショニングによって製品カテゴリに展開されます。
事業成長モデルと活動
記事「【実践!DX】顧客の創造とイノベーション【創造と変革】」
では、事業成長のフレームワークについて説明しました。
この事業成長フレームワークは、事業の成長を促す4つの活動から構成されます。
- 「価値を創る」活動
シーズ・ニーズの資産、および、それをベースにした知的資産を創出し顧客価値を生み出す活動です。 - 「価値を伝える」活動
「価値を創る」活動によって生み出された顧客価値を顧客に伝える活動です。 - 「価値を届ける」活動
「価値を創る」活動によって生み出された顧客価値を顧客に届ける活動です。 - 「文化を創る」活動
シーズ・ニーズの資産を創るメンバーやパートナーの価値を組織文化として醸成する活動です。
この4つの活動は、互いに関連し、組織文化である企業の価値観(バリュー)をベースに、事業のパーパスとビジョンを実現します。
さて、4つの活動を、企業の活動領域に当てはめてみると次のようになります。
- 「価値を創る」活動
シーズ・ニーズの資産を創る活動は、資産の種類によって異なります。
例えば、シーズがサービスを構成する店舗であれば、設備管理活動になり、サービスを構成するジョブであれば、社員管理活動になります。
シーズが技術やノウハウであれば情報管理活動になります。
シーズ・ニーズの資産を結集し、顧客価値を実現する知的資産を創る活動は、製品管理活動になります。 - 「価値を伝える」活動
マーケティング、および、CRM(顧客関係管理)の活動である顧客管理活動になります。 - 「価値を届ける」活動
製品やサービスを顧客に届ける営業活動になります。 - 「文化を創る」活動
シーズ・ニーズの資産を創るメンバーやパートナーの価値を組織文化として醸成するのは経営活動です。
また、戦略マップの內部プロセスの視点の業務に当てはめると次のようになります。
- 「価値を創る」活動
「イノベーションの管理」です。 - 「価値を伝える」活動
「顧客管理」です。 - 「価値を届ける」活動
「業務管理」です。 - 「文化を創る」活動
法律を遵守し社会の期待に適合する組織文化を創る「規制と社会の管理」です。
企業は、事業の成長ステージに合わせて、戦略マップと、內部プロセスの視点の4つ活動を実現するビジネスプロセスを設計します。
成長ステージ別戦略の展開
企業は、事業の成長ステージに合わせて、戦略マップと、內部プロセスの視点の4つ活動を実現するビジネスプロセスを設計します。
ここでは、上述したスタートアップの事業ステージに合わせて、どのように戦略マップが展開されるか、俺のフレンチを例にとって考えてみましょう。
※なお、俺のフレンチの例は、あくまでも、こちらで想像した内容です。
俺のフレンチの事業成長モデルを見ると、一流シェフというシーズと、立ち食いスタイルの店舗という方法をかけ合わせることで「安くて美味しい高級フレンチ」という顧客価値(顧客の欲求を満たす性質)を創り出しています。
これを、戦略マップの形に展開すると次のようになります。
事業のシードステージでは、顧客の価値観に製品価値がどれだけ適合(フィット)するか、つまり、PMF(Product Market Fit)を検証して事業自体成り立ことを確証できている状態にする必要があります。
俺のフレンチの場合、一流シェフというシーズと、立ち食いスタイルの店舗という方法をかけ合わせることで、本当に「安くて美味しい高級フレンチ」という顧客価値(顧客の欲求を満たす性質)を創り出すことができるか検証する必要があります。
PMFが検証されたら、次のアーリーステージでは、限られた資源の一流シェフを確保し、立ち食いスタイルの店舗の展開し地域ドミナントを確立することでビジネスの実行可能性(Viability)を上げることができるか検証します。
つまり、「一流シェフの獲得」や「立ち食いスタイルの店舗の展開」が事業の持続的な成長のグロースドライバーになるか検証するのです。
俺のフレンチのアーリーステージの戦略マップは次のようになります。
「一流シェフの迅速な獲得」と「立ち食いスタイルの店舗展開と地域ドミナントの確立」が內部プロセスの視点の戦略目標になっていることがわかります。
「一流シェフの獲得」と「立ち食いスタイルの店舗の展開」は、事業の成長を促す活動の中の「価値を創る」活動、シーズ・ニーズの資産を創出する活動に該当します。
活動領域でいえば、「一流シェフの獲得」は、社員管理の社員の獲得や社員の育成(活性化)によって実現されます。
また、「立ち食いスタイルの店舗の展開」は、設備管理の店舗開発によって実現されます。
アーリーステージで、「一流シェフの確保」や「立ち食いスタイルの店舗の展開」が事業の持続的な成長を促すグロースドライバーになることが検証できたら、次のミドルステージでは、そこに資金と資源を投入して、持続可能な競争優位性、ディフェンシビリティ(Defensibility:防御可能性)を確立します。
俺のフレンチのミドルステージの戦略マップは次のようになります。
ミドルステージでは、「価値を創る」活動を通して、グロースドライバーをさらに推進するとともに、事業の成長を促す活動の範囲を「価値を伝える」活動、「価値を届ける」活動広げ、持続可能な競争優位性、ディフェンシビリティ(Defensibility:防御可能性)を強化します。
具体的には、次のような戦略を展開します。
- 顧客管理活動を通して顧客との良好な関係を築きファンを拡大する。
この場合、顧客管理活動は、「価値を伝える」活動で、マーケティングやCRMによってファンを拡大することで、より多くの人に「安くてい美味しい高級フレンチ」という価値を伝えることができます。 - 食材のサプライチェーンを効率化することで「食材の品質と鮮度の確保」することでフレンチの品質を上げる。
食材のサプライチェーンを管理する活動は、「価値を届ける」活動で、活動領域でいうと、営業活動の購買と入荷になります。
また、仕入先の品質を確保するための仕入先管理(パートナー管理の一種)も重要です。 - 店舗オペレーションを効率化しさらなる価値の向上とコストダウンを図る。
店舗オペレーションも、「価値を届ける」活動で、それを効率化することで、店舗運営費の改善を図ることができるとともに、より安いフレンチを実現することができます。
活動からビジネスプロセスへ
各成長ステージ別の戦略マップから戦略的に重要な活動を洗い出すことができました。
次に、この活動を詳細化して、あるべきビジネスプロセスを設計します。
活動とビジネスプロセスの関係については記事「活動の展開」を参照してください。
また、ビジネスプロセスの定義については、記事「ビジネスプロセスの定義」を参照してください。
ビジネスプロセスは、さらに、アクティビティフローとアクションフローに展開することができます。
俺のフレンチの場合、次の活動領域のビジネスプロセスを明確にする必要があります。
- 営業活動の販売・サービス
- 顧客管理
- 設備管理の店舗の開発
- 社員管理の社員の獲得・社員の育成
- 営業活動の購買・入荷
- 仕入先管理
それから、あるべきビジネスプロセスを設計する場合、ビジネスプロセスが解決すべき課題が必要です。
戦略マップでは、各活動に対する戦略目標を明確にしましたが、それをさらに、戦略的な課題(戦略課題)に落とし込む必要があります。
戦略課題は、ビジネスプロセスの設計思想になります。
ビジネスプロセスを抽出する場合、ステークホルダーと事業主体の関係をモデル化すると効果的です。
戦略に関係のあるビジネスプロセスは次のようになります。
- 営業活動の販売・サービス
「飲食サービスの提供」プロセス。
「店舗オペレーションの効率化」という戦略課題を解決する必要があります。 - 顧客管理
「キャンペーンの企画」プロセス。
「顧客に最適なキャンペーンの展開」「パーソナライズされた顧客体験の提供」という戦略課題を解決する必要があります。
「顧客へのオファー」プロセス。
「顧客に最適なキャンペーンの展開」「パーソナライズされた顧客体験の提供」という戦略課題を解決する必要があります。
「キャンペーンの実施」プロセス。
「顧客に最適なキャンペーンの展開」「パーソナライズされた顧客体験の提供」という戦略課題を解決する必要があります。
「キャンペーンの検証」プロセス。
「マーケティング効果の最大化」という戦略課題を解決する必要があります。 - 設備管理の店舗の開発
「店舗の開発」プロセス。
「効果的・効率的店舗開発プロセスの実現」という戦略課題を解決する必要があります。 - 社員管理の社員の獲得・社員の育成
「シェフの採用」プロセス。
「効果的・効率的採用プロセスの実現」という戦略課題を解決する必要があります。
「シェフの育成」プロセス。
「効果的・効率的育成プロセスの実現」という戦略課題を解決する必要があります。 - 営業活動の購買・入荷
「食材の調達」プロセス。
「食材サプライチェーンの効率化」という戦略課題を解決する必要があります。 - 仕入先管理
「仕入先の評価」プロセス。
「仕入先の品質確保」という戦略課題を解決する必要があります。
各ビジネスプロセスの設計思想が明確になったら、ビジネスプロセスの具体的な業務フローを設計しますが、その前に次の点を明確にする必要があります。
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