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ビジネスアーキテクチャ(BA)とは【わかりやすく解説】

投稿日:


ここでは、以下の観点で、ビジネスアーキテクチャ(BA)について解説します。

  • ビジネスアーキテクチャとは
  • DXとビジネスアーキテクチャ
  • ビジネスアーキテクチャ設計の進め方

ビジネスアーキテクチャ(BA)とは

エンタープライズアーキテクチャ(EA)を構成する一要素で、ビジネスの設計思想、および、基本構造を表します。
ビジネスアーキテクチャ(以下、BA)を設計する目的は、ビジネスの全体最適化です。
ビジネスの全体最適化とは、
必要な資産や活動を、戦略的に重要な領域に集中させ、業務全体のムリ、ムダ、ムラを無くし、最も経営上の効果が上がる状態にすること
です。
企業全体の業務とシステムを、縦軸に企業階層、横軸に5W1Hのマトリクスで整理するザックマンフレームワークで考えると、BAの領域は上位2層の領域になります。

孫子の
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
という言葉は有名です。
これは、相手と自分の戦力の実情を正しく知ることで、負けない戦い方ができるという意味ですが、
孫子は、相手と自分の戦力を以下の5つの基準で比較した上で、戦うかどうか判断すべしとしています。


  • なぜ戦うか。
    民の心を主君と一つにさせるものの度合いはどちらが強いか。

  • いつ戦うか。
    時節、タイミングはどちらが有利か。

  • どこで戦うか。
    地の利はどちらが有利か。

  • 誰が戦うか。
    将軍の能力はどちらが高いか。

  • 何を使ってどう戦うか。
    軍隊のルールはどちらが整備されているか。

BAの枠組みとなるザックマンフレームワークですが、以下のように横軸を孫子の5つの基準(5事)として考えると、BAは「孫子の5事を有利にするための基本構造」と言うことができます。

次に、BAの構成を、ビジネスの型(タイプ)とビジネスの実例(インスタンス)×設計思想と基本構造という観点で整理すると以下のようになります。

型と実例ですが、集合で考えると、集合を構成する具体的な要素が「実例」とすると、それを共通の性質で抽象化した集合(概念)が「型」になります。
下図は、りんごの集合(型)と要素(実例)を表した例です。

BAを構成する要素を一つ一つ定義すると以下のようになります。

  • 経営理念
    ビジネスの存在意義や使命を普遍的な形で表した基本的価値観を表明したものです。
  • ビジョン
    経営理念に基づき、ある時点までに「こうなっていたい」と考える到達点で、ビジネスが目指す中期的なイメージを利害関係者や社会全体に示したものです。
  • 事業ドメイン
    事業を展開する領域のことで、誰に(顧客軸)、何の価値(商品軸)を提供するのかを定めたものです。
  • 資産・活動
    事業ドメインを構成する資産と活動を「誰(何)がどのように価値を提供するのか」という観点で定めたものです。
  • 経営戦略
    事業ドメインを構成する資産や活動がビジョンをどのように実現すべきかを定めたものです。
  • ビジネスプロセス
    事業ドメインを構成する活動の順序関係を定めたものです。
  • 業務構造
    事業ドメインを構成する資産の相互関係を定めたものです。
  • アクションプラン(実行計画)
    業務構造やビジネスプロセスに従って経営戦略をどのように実行するかを定めたものです。

ビジネスの型から言うと、
BAの設計思想である「経営理念」を実現する構造が「事業ドメインと資産・活動」、それを実現する構造が「ビジネスプロセスと業務構造」になります。
ビジネスの実例の場合、
経営理念のある時点の状態が「ビジョン」、それを実現する「経営戦略」は事業ドメインと資産・活動のある時点の課題を表し、経営戦略を実現するための「アクションプラン」は、業務構造やビジネスプロセスのある時点の実例を表します。
ザックマンフレームワークの構成でいうと「計画(When)」の部分が「ビジネスの実例」という位置付けになります。

DXとビジネスアーキテクチャ

次に、DX(デジタルトランスフォーメーション)とビジネスアーキテクチャの関係について説明します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とはという記事で、DXによって会社が目指すべき姿を、次の3階層から成る構造で説明しました。

  • ビジネス
  • ビジネスプラットフォーム
  • ITプラットフォーム

BAは、下図のように、DXによって会社が目指すべき姿のビジネスプラットフォーム、および、個々のビジネスの設計図になります。

このうち、ビジネスプラットフォームの構成は以下のようになります。

ビジネスプラットフォームの経営理念とビジョンが、BAの設計思想に対応し、事業ドメインと事業ポートフォリオ、バリューチェーンとコアコンピタンス、人事システムと組織文化が、BAの基本構造に対応します。
また、ビジネスプラットフォームですが、ここでは、人事、会計、債権債務管理、購買、物流など全社で共通の業務が共通サービスとして部品化されており、それを利用して新しいビジネスが迅速に実現できるように設計されています。

ビジネスアーキテクチャ設計の進め方

最後に、BA設計の進め方についてですが、次の8つのステップで実施します。

  1. 経営理念の設定
  2. 事業ドメインの定義
  3. 資産と活動の設計
  4. ビジネスプロセスの設計
  5. 業務構造の設計
  6. ビジョンの設定
  7. 経営戦略の策定
  8. アクションプランの策定

まず、ステップ1から5で、「ビジネスの型」を設計し、次に、ステップ6から8で、ビジネスの型を実現する「ビジネスの実例」を設計します。
つまり、
まず「なぜ、事業をするのか」を定め、
それに従って、
「誰に何の価値を、誰(何)がどのように提供するか」を定め、
次に、
「それをどう実現するのか」
という観点で、ビジネスの骨組み設計します。
それから、
その骨組みの具体的な実例として
ビジョン
経営戦略、
アクションプラン
を策定します。
「ビジネスの型(骨組み)」は、比較的不変的な部分で、時代の変化を受けて経営環境が大きく変わる時に再設計します(構造的な変革)。
「ビジネスの実例」は、比較的柔軟に変化する部分で、中長期的(3年から5年)なサイクルで見直します(戦略的な変革)。

一つ一つ見ていきましょう。

経営理念の設定

最初に、ビジネスの存在意義である経営理念を定めます。
経営理念は、社員の行動の動機となる価値観となる組織文化になります。
例えば、ソニー株式会社は、会社設立の目的を次のように定めています。

真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設。

また、京セラ株式会社は、会社の経営理念を次にように定めています。

全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。

事業ドメインの定義

次に、どこの領域で戦うか定めます。
上記ザックマンフレームワークでは、「どこで(Where)」の部分に位置付けられます。
事業ドメインは、
誰に(顧客軸)何の価値を(商品軸)提供するか
という観点で定義し、「戦う場所」と「戦わない場所」を決めます。
事業ドメインを考えるとき、以下の観点で、顧客の価値仮説を定義することで、事業ドメインのスコープを明確にすることができます。

  • 顧客は誰か?(顧客の視点)
    顧客の価値観
    顧客の課題
  • 何の価値を提供するか?(商品の視点)
    顧客課題を解決するための価値提案
    ※顧客にとっての価値を顧客価値といいます。

現在、米国を中心に人気のあるフィットネススタートアップの「Peloton」の例で考えてみましょう。


Pelotonの特徴は、人気インストラクターによるワークアウトをライブまたはオンデマンドで、自宅のフィットネスマシンにストリーミングし、家にいながら様々なワークアウトメニューを体験できるという点です。
Pelotonの主力製品は、フィットネスバイクとランニングマシンですが、もし、Pelotonが事業ドメインを

  • 人気インストラクターによるワークアウトをストリーミングできるフィットネスバイクの製造販売

と定義すると、ランニングマシンなどフィットネスバイク以外の製品がスコープ外になってしまいます。
また、フィットネス体験の手段が、人気インストラクターによるワークアウトをフィットネスマシンにストリーミングにする方法に限定されてしまいます。
そこで、例えば、

  • 楽しみながら継続的にフィットネスしたいという顧客に、
  • 時間と場所に不自由しない新しいフィットネス体験という価値

を提供する
と定義すると、より一般的な定義になり、以下のようにフィットネスバイクやランニングマシンの製造販売にも対応できるとともに、それ以外にも、さまざまな事業展開の可能性を包含することができます。

顧客の価値仮説でいうと、
「楽しみながら継続的にフィットネスしたい」
の部分は、顧客の課題を表し、
「時間と場所に不自由しない新しいフィットネス体験」
が、課題を解決する価値提案になります。
この事業ドメインをUML(Unified Modeling Language:統一モデリング言語)のユースケース図で描くと以下のようになります。

フィットネスバイクやランニングマシンの製造販売は、親となる事業ドメインを継承した事業ドメインという位置付けになります。

ここでは、図の表記にUMLを使います。
UMLについては、UMLとはという記事をご覧ください。

資産と活動の設計

事業ドメインは、
誰に、何の価値を提供するか
を定めました。
資産と活動は、
誰(何)が、どのように価値を提供するか
定めます。
このうち、「誰(何)が」が事業を構成する資産で「どのように」が活動です。
資産とは、稼ぐ力を持つもの(利益獲得能力)で、

  • 人的資産
    顧客、社員、パートナー。
  • 知的資産
    商品、知的財産。
  • 財務資産
    流動資産、固定資産。
  • 情報資産
    稼ぐ力を持つ情報(データ資産)と、その情報を収集したり処理したり保管したりするための装置(情報システム)。
    機械学習でつくる学習モデルも組織ナレッジの一種と考えます。

に分けることができます。
資産と活動の設計は、以下の手順で行います。

  1. バリューチェーンの設計
    活動の設計。
  2. コアコンピタンスの定義
  3. キーリソースの設定
    資産の設計。
  4. バリューストラクチャの設計
    「誰(何)が、どのように価値を提供するか」(資産×活動)の設計。

順番に見ていきましょう。

バリューチェーンの設計

まず、事業ドメインでは、顧客に「どのように価値を提供するのか」バリューチェーンを定義します。
バリューチェーンでとは、M・E・ポーターが競争の戦略という本で提唱した概念で、
事業活動を活動領域ごとに分類し、どの部分で付加価値が生み出されているか、競合と比較してどの部分に強み・弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探る手法
のことです。

バリューチェーンは、顧客に直接価値を提供する主要活動と、それを支援する支援活動から構成されます。
バリューチェーンの設計は、以下の手順で行います。

  1. 活動領域の整理
  2. 活動の分類

活動領域の整理

まず、以下のように企業全体の活動領域を体系的に整理します。

この活動領域は、以下のように構成されています。

  • 営業活動
    顧客に対して直接価値を提供する活動。
    営業活動は、さらに、
    • 商流
      取引の流れ。
    • 金流
      お金の流れ。
    • 物流
      物の流れ。

    で分類することができます。

  • 資産管理活動
    資産のライフサイクル(調達、活性化、維持、処分)を管理する活動。
    資産活動は、さらに、資産の種類で分類することができます。
    • 人的資産
      顧客、社員、パートナー。
    • 知的資産
      商品、知的財産。
    • 財務資産
      流動資産、固定資産。
    • 情報資産
      稼ぐ力を持つ情報(データ資産)と、その情報を収集したり処理したり保管したりするための装置(情報システム)。
      機械学習でつくる学習モデルも組織ナレッジの一種と考えます。
  • 財務活動
    営業活動、資産管理活動に必要な資本を調達する活動。
  • 経営活動
    経営理念を実現するためにビジョンに向かって全体をコントロールする活動。

この4つの活動は、企業の基本的な経営サイクル(下図)に基づいています。

活動の分類

次に、上記活動領域を以下の観点で分類します。

  • 主要活動
    主要活動は、顧客に直接価値を提供する活動で、
    • 事業固有の営業活動
    • 事業固有の資産管理活動

    になります。

  • 支援活動
    支援活動は、全事業に共通した活動になります。
    • 事業支援活動
      主要活動を支援する活動で、以下のように分類することができます。
      • 営業支援活動
        全事業の営業活動を支援する活動で、全事業共通の資材の調達、債権・債務管理、入出荷管理が該当します。
      • 共通資産管理活動
        例えば、社員管理など、上記資産管理活動の中で、全事業共通の資産の価値を管理する活動です。
    • 企業支援活動
      主要活動、事業支援活動を支援する活動で、財務活動、経営活動が該当しす。

Pelotonの「フィットネスバイクの製造販売」ドメインの例で考えてみましょう。
以下は、Pelotonの「フィットネスバイクの製造販売」ドメインのバリューチェーン(主要活動)の例です。

製品の開発・改良からアフターサービスまでの流れがあることがわかります。
この中で、「製品の販売」、「製品の組立・配送」、「顧客のワークアウト」は販売、生産、サービスという商流の部分で、「製品の開発・改良」、「ライブ動画の制作」は事業独自の商品管理、「アフターサービス」は事業独自の顧客管理になります。
※配送は物流ですが、ここでは生産の中に組み入れています。
PelotonのバリューチェーンをUMLのユースケース図で表すと次のようになります。

この図のユースケース(楕円の部分)は、後述するビジネスプロセスの単位になります。

コアコンピタンスの定義

次に、企業のコアコンピタンスを定義します。
コアコンピタンスとは、企業内部で培った(培うべき)他社には真似のできない中核的な能力のことで、以下のような特徴を持ちます。

  • 模倣可能性(Imitability)が低い
    簡単に模倣できない。
  • 移転可能性(Transferability)が低い
    保有する技術は移転しにくい。
  • 代替可能性(Substitutability)が低い
    他の商品で代替しにくい。
  • 希少性(Scarcity)が高い
    手に入りにくい。
  • 耐久性(Durability)が高い
    長持ちする。

コアコンピタンスは、

  • バリューチェーンを構成する活動を行う上での課題を設定し、
  • その中でも特に重要なものを選択し、
  • その課題を解決するために必要な能力を考える

ことで定義します。
なので、コアコンピタンスは、どこの機能(活動)で戦うかを定め、上記ザックマンフレームワークでは、「どこで(Where)」の部分に位置付けられています。
Pelotonのバリューチェーンを構成する活動を行う上での課題を整理すると以下のようになります。

これらの課題を解決することで、
時間と場所に不自由しない新しいフィットネス体験
という価値を生み出します。
これら課題のうち、価値を生み出すという観点で、特に重要な課題は、

  • ライブ感が体験できる動画制作
  • 自宅で没入感のあるライブ体験

です。
なので、Pelotonのコアコンピタンスは、

  • ライブ感が体験できる動画制作能力
  • 自宅で没入感のあるライブ体験をさせる能力

になります。

キーリソースの設定

続いて、コアコンピタンスを持つ、企業のキーリソース(要の資産)を以下の手順で設定します。

  1. 組織の設計
  2. 資産の設定
  3. キーリソースの選定
組織の設計

バリューチェーンを構成する活動を機能と考え、機能を担う役割として部門を定義します。
上記ザックマンフレームワークでは、組織は「誰れが(Who)」の部分に位置付けられます。

資産の設定

企業の知的資産、人的資産、財務資産、情報資産は何か設定します。
組織を構成する部門は、人的資産である社員が割り当てられる役割になります。

キーリソースの選定

知的資産、人的資産、財務資産、情報資産のうち、コアコンピタンスを持つ要の資産を選択します。
Pelotonの場合、コアコンピタンスを持つキーリソースは、

  • ライブ感が体験できる動画制作能力を持つ映像ディレクター
  • 自宅で没入感のあるライブ体験をさせる能力を持つインストラクター

になります。

バリューストラクチャの設計

最後に、バリューチェーンを構成する活動に必要な資産の相互関係としてバリューストラクチャを設計します。
バリューストラクチャは、
誰(何)がどのように価値を提供するか
を表します。
Pelotonの場合、以下のようになります。

顧客に価値を提要するための相互関係は次のようになります。

  • 顧客がPelotonストアでフィットネスバイクを購入すると、配送員がサービスの一環としてセットアップをしてくれる。
  • キーリソースであるインストラクターが出演するライブを映像ディレクターが制作してフィットネスバイクへ配信する。
  • 顧客は、それを見て、楽しく、手軽にワークアウトする。
  • プロダクトデザイナーが新規機能を開発すると、それがフィットネスバイクに配信され自動アップグレードされる。
  • 顧客は、ユーザーコミュニティに参加して体験を共有することで、ますますPelotonのファンになる。

これをUMLのクラス図にすると次のようになります。

ビジネスプロセスの設計

次に、資産・活動の設計の結果を「どう実現するか」設計します。
まず、ビジネスプロセスですが、ここでは、
それを構成する活動が資産を消費することで、ステークホルダーに価値を生み出し、結果的に資産の状態を変化(増減)させる組織横断的な単位
と定義します。
※ステークホルダー(ビジネスの利害関係者)には、顧客だけでなく社員や株主、パートナーなどがあります。
ビジネスプロセスは、上記ザックマンフレームワークの「どのように(How)」の部分に位置付けられます。

ビジネスプロセスは活動から構成されるので、ビジネスプロセスの単位で業務フローを作成します。
業務フローには、ビジネスプロセスの本質的な流れを示す「アクティビティフロー」と、それを構成するアクティビティをさらに詳細化した「アクションフロー」があります。

アクティビティフローを構成する「アクティビティ」は、「受注」、「出荷」など、ビジネスプロセスを構成する本質的な活動を表し、アクションフローを構成する「アクション」は、「〜の記録」、「〜の報告」、「〜の承認」、「〜の確認」など、これ以上分けることができない動作の単位になります。
企業全体のビジネスプロセスを明確にしたい場合は、上述した活動領域(下図)を、主要活動、営業支援活動、資産管理活動、企業支援活動に分けて、それぞれ、どのようなビジネスプロセスがあるか定義します。

ビジネスプロセスを定義するときに重要なのは、価値を提供するステークホルダーを明確にするということです。
価値を提供する相手を考えることで、

  • 本当に価値を生み出す活動は何か
  • 価値を生み出していない活動は何か
  • 価値を生み出す活動をもっと効果的に行うにはどうすべきか
  • 価値を生み出していない活動はどうするか、削除、あるいは、削減するか、フローを変えるか、代替する手段はないか

など業務を分析、改善することができるようになります。
それから、ビジネスプロセスを考えるときは、マネジメントサイクル、つまり、PDCA(Plan-Do-Check-Act)を意識する必要があります。

PDCAは、仮説の立案、仮説の実行、仮説の検証、仮説の改善という科学的アプローチとして考える必要があります。
これを仮説検証プロセスといいます。
仮説は、状況を詳しく観察することで立案されます。
仮説を実行するときは、実験計画を立てて、実験し、その結果を検証するサイクルを繰り返します。
実験計画が全て遂行されたら、その結果を検証します。
仮説を改善するときは、学習したことを組織ナレッジとして蓄積し、その上で、次の仮説を検討します(改善)。
なお、データを有効活用して仮説を立案するアプローチがデータサイエンスです。
それでは、Pelotonの例で見ていきましょう。
Pelotonのバリューチェーンは主要活動のビジネスプロセスから構成されています。

この中の「製品の組立・配送」プロセスのアクティビティフローを、UMLのアクティビティ図で描くと以下のようになります。

また、仮説検証プロセスを意識した業務フローは以下のようになります。

組立、配送プロセスの部分が「仮説の実行」になっていることがわかります。

業務構造の設計

次に、各ビジネスプロセスを資産同士の相互関係である業務構造として表します。
資産構造は、上記ザックマンフレームワークの「何を(What)」の部分に位置付けられます。
ビジネスプロセスが動的な順序関係に対し、業務構造は静的な相互関係になります。
Pelotonの「製品の組立・配送」プロセスの業務構造を、UMLのクラス図で描くと以下のようになります。

ビジョンの設定

ここから、ビジネスの実例の設計に入ります。
まず、ビジョンですが、これは、
経営理念に基づき、ある時点までに「こうなっていたい」と考える到達点で、
経営理念の具体的な実例になります。

経営理念が、企業が事業を行う究極の「目的(Purpose)」とすると、ビジョンは、その一理塚となる「目標(Goal)」という位置付けです。
例えば、ソフトバンクグループでは
情報革命で人々を幸せにする
という経営理念の具体的な到達点として
世界の人々から最も必要とされる企業グループを目指す
という新30年ビジョンを掲げています。

経営戦略の策定

次に、経営戦略ですが、
事業ドメインを構成する資産や活動がビジョンをどのように実現すべきかを定めたもの
です。
経営戦略には、全社レベルの全社戦略と、事業ごとの事業戦略があります。

なお、経営環境を分析して、より実情にあった経営戦略を立てる方法にSWOT分析があります。
SWOT分析について知りたい方は、以下の動画をご覧ください。

全社戦略

事業ドメインの実例を、事業単位(Business Unit:BU)といいますが、
全社戦略は、企業を構成する事業単位に対する資産と活動の配分を考えることで、企業の方向づけをおこないます(事業の最適化)。

全社戦略には、大きく以下の2つがあります。

  • 新規事業の創出(Creation)
  • 既存事業の変革(Innovation)

新規事業の創出(Creation)

新規事業を創出するとき、商品×市場(顧客)で、事業創出の方向性を考えるフレームワークに「アンゾフの成長マトリクス」があります。

成長マトリクスでは、事業創出の方向性、つまり、成長の方向性を以下の4つの戦略で分類します。

  • 市場浸透戦略
    既存製品を既存市場に浸透させる戦略。
  • 製品開発戦略
    既存市場に新規製品を投入する戦略。
  • 市場開拓戦略
    既存製品を新規市場に投入する戦略。
  • 多角化戦略
    新規製品を新規市場に投入する戦略。

Pelotonの場合で考えてみましょう。
ランニングマシンの製造販売は、既存市場に新規製品を投入する製品開発戦略になります。

企業が複数の事業を持つ場合、共通の経営資源を共有することで経済的な事業運営が可能になることを「範囲の経済(economies of scope)」といいます。

フィットネスバイクの製造販売もランニングマシンの製造販売もライブ映像制作は行うので、その能力を持つ映像ディレクターは共有できます。
さらに、映像ディレクターの持つライブ映像制作ノウハウを、組織ナレッジという知的資産として蓄積することによって、映像ディレクターを育成することができるようになります。
映像ディレクターは、限りのある資源なので、ライブ映像制作ノウハウを、知的資産という形で蓄積していくことはとても大事なことだと思います。

既存事業の変革(Innovation)

企業を構成する既存事業の組み合わせを事業ポートフォリオといい、事業単位に対する資産と活動の配分を考えるときに使います。

事業ポートフォリオでは、占有率(シェア)×成長率で事業単位を以下の4つに分類します。

  • 負け犬
    占有率も成長率も低い事業単位。
  • 問題児
    占有率は低いが成長率は高い事業単位。
  • 花形
    占有率も成長率も高い事業単位。
  • 金のなる木
    占有率は高いが成長率は低い事業単位。

この中で最もキャッシュフローを生み出すのは金のなる木です。

占有率も成長率も高い花形は、事業ライフサイクルの中で考えると成長期に該当する事業なので、売り上げは多いですが、競争に勝つためのコストが必要です。
なので、利益は、比較的多くありません。
それに対して、金のなる木は、競争がひと段落した成熟期の事業なので、競争に勝つためのコストがかからず、占有した市場から安定したキャッシュを得ることができます。
なので、金のなる木から得られるキャッシュフローを問題児に投下して次の花形を作るという戦略が取られます。
それから、負け犬から撤退し、浮いた資金を問題児や花形に投下するという戦略も考えられます。

事業戦略

事業単位の戦略が、資産や活動がビジョンをどのように実現すべきかを定めた事業戦略です。

事業戦略は、

  • 資産価値を上げることで
  • 活動課題を解決し
  • 顧客価値を向上させて
  • 収益上げる
  • 上がった収益をコアコンピタンス(競争優位性の源泉)である資産(キーリソース)の増加・強化に投下する

という因果ループで、
その事業の

  • 経済合理性
    なぜ儲かるのか。
  • 競争優位性
    なぜ勝てるのか。
  • 持続可能性
    なぜ続くのか。

を描きます。
そして、ビジョンが達成できた時の資産、活動、顧客、財務の状態をKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)の目標値として設定します。
なお、資産価値を上げる手段には以下があります。

  • 資産の量を増やす。
    例えば、販売担当者の数を増やすなど。
  • 資産の質(能力)を増やす。
    例えば、販売担当者の提案力を上げるなど。

それから、事業戦略は仮説なので、それを検証する必要があります。

仮説を検証するときは、上述した仮説検証プロセスを設計し、それをベースとしたアクションプランを実行することで行います。

Pelotonの場合で考えてみましょう。
Pelotonのバリューチェーンを構成する活動の課題は以下のようになります。

この中の「製品の組立・配送」プロセスの課題が、バイクのセットアップサービス、つまり、

  1. 配送サービスの一環としてバイクをセットアップする
  2. 顧客がバイクを使用するまでのハードルを下げる
  3. 新しいフィットネス体験の機会を増やす
  4. 顧客満足度を上げる

であれば、
それを仮説として、以下の仮説検証プロセスを実行することで、その仮説が正しいか検証します。

さて、M・E・ポーターは、事業戦略の類型として以下の3つの基本戦略があるとしています。

  • コストリーダーシップ戦略
  • 差別化戦略
  • 集中戦略

3つの基本戦略について詳しく知りたい方には、競争の戦略をお勧めします。

コストリーダーシップ戦略

低価格による優位性を狙う戦略です。
なので、コストリーダーシップ戦略の場合の顧客価値は低価格です。
そして低価格を実現するために解決すべき活動の課題には

  • 規模の経済性の追求
  • 取引コストの削減
  • 生産コストの削減

があり、課題の解決方法には、以下のような方法があります。

水平統合

水平統合とは、同一の製品やサービスを提供する企業が連携することで、これによって規模の経済によるメリットを享受できます。
規模の経済(economies of scale)とは、事業の規模が大きくなり生産量が増えれば増えるほど単位当たりの固定費が低下することで、規模の経済性による効果をスケールメリットといいます。

水平統合の場合、コアコンピタンスは、生産能力を持つ設備などの財務資産になり、これを増やすことで規模の経済による効果を得ることができます。

垂直統合

垂直統合とは、企業グループが、製品やサービスを供給するためのバリューチェーンに沿って、付加価値の源泉となる工程を取り込むことをいいます。
垂直統合をすることで、各企業間の取引コストを抑えることができます。
企画から製造、販売までを垂直統合させることでサプライチェーンのムダを省き、消費者ニーズに迅速に対応できるアパレル業界のビジネスモデルにSPA(Speciality Store Retailer of Private Label Apparel)があります。

垂直統合の場合、コアコンピタンスは、サプライチェーンを構成する生産、物流、販売能力を持つ財務資産や人的資産になり、これを集めることで取引コストを抑えるとともに、市場の変化に柔軟に適応することができるようになります。

経験曲線効果

経験曲線効果(experience curve effect)とは、製品の累積生産量が増加していくと、

  • 労働者の熟練度
  • 作業の標準化
  • 作業の改善

などにより、単位当たりの生産コストが一定の割合で低下していく経験則のことです。

経験曲線効果の場合、コアコンピタンスは、労働能力を持つ人的資産や組織ナレッジである知的資産になり、その能力や品質を上げることで単位当たりの生産コスト抑えることができます。

差別化戦略

商品の差別化による優位性を狙う戦略です。
差別化戦略は、大きく以下の3つに分けることができます。

  • 製品リーダシップ戦略
  • 顧客関係重視戦略
  • 卓越した業務戦略

これは、M.トレーシーとF.ウィアセーマがナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング (日経ビジネス人文庫)で示したものです。

製品リーダシップ戦略

最新で顧客にとって価値の高い商品を提供し続けることで競争優位性を保つ戦略です。
製品リーダシップ戦略の場合の顧客価値は製品の機能です。
最新で顧客にとって価値の高い製品を提供し続けるためには研究開発が欠かせません。
なので、製品リーダシップ戦略の場合、コアコンピタンスは、製品である知的資産になり、活動領域の中で重要なのは商品管理、特に商品の開発、改良です。

顧客関係重視戦略

顧客ロイヤルティを築き上げることに焦点をあてた戦略で、顧客との親密さを強化し、販売力を高めるとともに、顧客からのフィードバックを改善に活かすことで競争優位性を保つ戦略です。
顧客関係重視戦略の場合の顧客価値は顧客関係やブランドで、
コアコンピタンスは、顧客やパートナーである人的資産になり、活動領域の中で重要なのは顧客管理やパートナー管理になります。
顧客関係重視戦略の一つに、顧客やパートナー同士のインタラクションの基盤を提供するプラットフォーム戦略があリます。
例えば、広告で収益を上げるSNSの場合、ネットワークに参加する人(ビジネスのパートナーという位置付けと考えています)の数が増えれば、増えるほど、多くの参加者と繋がることができるので、ネットワークの参加者が増えます。
それによって、広告対象者が増え、広告主の収入が増加し、事業の収益も増加します。
儲けた収益を、コアコンピタンスであるネットワーク設備の増強、アプリ機能の改良、ネットワーク参加者を獲得するために投資することで、ますます、競争優位性や持続可能性が高くなります。
利用者が増えれば増えるほど繋がりの数が増え、ネットワークの価値が上がることをネットワーク効果、あるいは、ネットワーク外部性といいます。

iOSやWindowsなどのOSも、利用者が増えれば増えるほど互換性のある成果物の数が増えることを狙ったプラットフォーム戦略です。
プラットフォーム戦略をとることによって、新規参入者や競合の脅威の下げるとともに、利用者のスイッチングコスト(他に乗り換えるためのコスト)を上げることができます。

卓越した業務戦略

生産方法や販売方法の改革・改善を目指すことで、スピードやコスト優位性により競合他社との差別化を図る戦略です。
卓越した業務戦略の場合の顧客価値は品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)で、
コアコンピタンスは、販売設備、生産設備、物流設備などの財務資産になり、活動領域の中で重要なのは営業活動になります。
一つ例をあげましょう。
有限な資源(地域、土地、人、権利、電波など)を先に押さえることによって競合の入る余地を無くす「リソース先制」という方法があります。
例えば、コンビニなどは、ある地域に高密度に出店し、その地域の顧客の総取りする「地域の先制」という戦略をとっています。
地域を先制することで、共食いにより1店舗あたりの売上や利益が減ることになりますが、地域全体で見ると、競合がいなくなるだけでなく、配送効率や在庫効率(店舗間融通)などオペレーション効率も上がり売上や利益が上がります。
また、顧客の視点で考えると、購買機会が増えるので利便性(どこでも、いつでも買える)が高くなります。
さらに、儲けた収益を、コアコンピタンスである店舗に投資することで、ますます、競争優位性や持続可能性が高くなります。

ブルーオーシャン戦略

業界が提供する顧客価値を

  • 追加
  • 削除
  • 増加
  • 削減

することで新しい市場空間を創出戦略をブルーオーシャン戦略といいます。
ブルーオーシャン戦略は、W・チャン・キムとレネ・モボルニュが[新版]ブルー・オーシャン戦略―――競争のない世界を創造する (Harvard Business Review Press)で示した戦略です。

ブルーオーシャン戦略は、

  • 最新で顧客にとって価値の高い商品の創出(製品リーダシップ戦略)
  • 顧客ロイヤルティの構築(顧客関係重視戦略)
  • 商品の高品質(Quality)、低コスト(Cost)、短納期(Delivery)の実現(卓越した業務戦略)

を実現するためのフレームワークとして使うことができます。
例えば、ヘアサロン業界の場合、顧客価値として、価格、予約担当者の有無、ヘアカットやヘアトリートメントの品質、各種サービスの多さ、サービスまでの待ち時間の短さ、ヘアカット時間の短さ、衛生さなどが考えられます。
そこで、品質はそこそこでよいので、早くて安いサービスを求める顧客をターゲットにした場合、各種サービスをなくすことでサービスメニューを絞り、経験がない美容師でもできるようにし、エアーウォッシャーという特殊な機械を導入することで、サービスにかかる時間をより短くし、かつ、安くサービスを提供でき、しかも、採算が得られる市場空間を創出することができます。
横軸に顧客価値(競争要因)、縦軸に顧客価値の強弱(大小)を取り、市場空間を見える化した図を「戦略キャンバス」といいます。
戦略キャンバスを構成する顧客価値について

  1. 新しい顧客価値を加える
  2. 既存の顧客価値を除く
  3. 既存の顧客価値を増やす
  4. 既存の顧客価値を減らす

という4つのアクションを考えることによって新しい市場空間を創出するのです。
ところで、このヘアサロンは実在します。
そうです、QBハウス、ご存知ですよね。

QBハウスの場合、ブルーオーシャン戦略によって早くて安いサービスを実現した「卓越した業務戦略」の例になります。

アウトソーシング

バリューチェーン上で付加価値を生まない活動をアウトソーシング(外部委託)することで、付加価値の高い活動に資産を集中させることができます。
競争優位性を生む活動に資産を集中させることで、さらなる差別化を図ることができます。

集中戦略

特定の市場セグメントに集中する戦略。
そして、集中戦略は、以下のように分類することができます。

  • 集中コストリーダシップ戦略
    特定の市場セグメントでコストリーダシップ戦略を行う。
  • 集中差別化戦略
    特定の市場セグメントで差別化戦略を行う。

Pelotonの事業戦略

Pelotonのフィットネスバイク事業の事業戦略を見てみましょう。

  • キーリソースであるインストラクターが出演する動画を映像ディレクターが制作し、フィットネスバイクに配信する。
  • それによって、顧客の「楽しみながら継続的にフィットネスしたい」という要求が満たされて収益が上がる。
    ここに経済合理性があります。
  • 儲けた収益を、限りのあるリソースであるインストラクターや映像ディレクターを確保するのに使う。
    これによって競争優位性が生まれます。
  • この因果ループを繰り返すことで、持続可能性が高くなる。

という因果関係になります。
なお、Pelotonの場合、リソース先制による顧客関係重視戦略になります。
リソース先制の別の例には、
美味しいフレンチを安く食べたいという顧客に
一流シェフの作った美味しいフレンチを立ち食いスタイルで提供することで
収益を上げ、
儲かった収益を、一流シェフの囲み込みや地域ドミナント(支配)に投下することで競合優位性や持続可能性を高くする
俺のフレンチの例があります。

アクションプランの策定

最後に、アクションプランですが、これは、
業務構造やビジネスプロセスに従って経営戦略をどのように実行するかを定めたもの
です。

アクションプランは、その型である業務フローの活動からアクションを設定し、その期間や作業者を定めることで作成します。

-DX, ビジネス

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  1. […] ビジネスアーキテクチャ(Business Architecture) ビジネスの設計思想、および、基本構造を表します。 略してBAといいます。 […]

  2. […] アプリケーションシステムは、ビジネスアーキテクチャ(BA)の業務構造をベースに考えることができます。 […]

  3. […] ンの魅力度(Desirability)を検証します。 次に、事業のビジネスモデルを、活動の順序関係(バリューチェーン)、資産の相互関係(バリューストラクチャ)、課題の因果関係(事業戦略 […]

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