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ビジネスアーキテクチャの設計方法

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今回は、ビジネスアーキテクチャをどう設計するのか説明します。
ビジネスアーキテクチャは、エンタープライズアーキテクチャの一番上位に位置づけられ、データアーキテクチャアプリケーションアーキテクチャを設計するための基準となります。
ビジネスプロセスマネジメントの導入プロセスにおけるビジネスアーキテクチャの設計の位置づけは次の図のようになります。

次の図は、ビジネスアーキテクチャを設計するプロセスを示しています。

※実践は、順番、点線は参照を示す線です。
今回は、このビジネスアーキテクチャ設計プロセスに従って、次の順で、ビジネスアーキテクチャの具体的な設計方法について説明します。

  1. 資産(型)の設計
  2. 場所(型)の設計
  3. ジョブの設計
  4. ビジネスプロセスの整理
  5. バリューチェーンの設計
  6. アクティビティフローの設計
  7. アクションフローの設計
  8. タスクの設計
  9. 資産(種類)の設計
  10. 場所(種類)の設計
  11. 組織の設計
  12. アクションプランの策定
  13. ビジネスアーキテクチャとデータアーキテクチャの関係
  14. ビジネスアーキテクチャとアプリケーションアーキテクチャの関係

資産(型)の設計

事業ドメインの活動領域の分析、定義を受けて、ビジネスストラクチャマトリクスの資産である顧客製品メンバーパートナー財務資産の型、顧客タイプ(不変的な顧客の本質)、製品タイプ(不変的な製品の本質)、メンバータイプ(不変的なメンバーの本質)、パートナータイプ(不変的なパートナーの本質)、財務資産タイプ(不変的な財務資産の本質)を設計します。
事業ドメインは誰に(顧客価値)、何の価値(製品価値)を提供するかという事業パーパスで定義されています。
ここでは、顧客タイプ×製品タイプで定義された事業を、経営理念(会社の価値観)と同じ価値観を持つメンバーやパートナーが実現するというビジネスの根幹を設計します。

ビジネスの原点である事業ドメインをビジネスアーキテクチャに焼き直すのです。
それから、化学工業、半導体産業、鉄道、通信、エネルギー業界など資本集約型産業は、設備などの財務資産が事業の重要な要素になります。

場所(型)の設計

ビジネスストラクチャマトリクスの場所の型、場所タイプを設計します。
販売場所や製造場所、物流場所をどう配置するかはビジネスにとって重要な戦略です。

ジョブの設計

ビジネスの機能の型である職務(ジョブ)を設計します。
ジョブは、ビジネスを行う機能であり、ビジネスプロセスの業務フローを実行する主体になります。
ジョブを設計するときは、活動領域を利用します。

ジョブは、活動領域をベースに、

  • 内部統制を働かせるためにどう職務を分掌するか
  • 戦略マップの戦略目標をどう実現するか

などの観点で設計します。
例えば、会社のジョブを次のように分類した場合を考えます。

内部統制を働かせるための職務分掌

購買管理者、入荷管理者、支払管理者の分掌

もし、購買管理者が部品の発注、入荷、代金の支払をすべて行うと、どのようなリスクが発生するでしょか。
不正などにより購買管理者が発注した部品が棚卸資産として計上されない可能性があります。
また、購買管理者に会計に知識がない場合、代金が入金されても買掛金が消し込みされない可能性があります。
これは、棚卸資産や買掛金の実在性に対するリスクになります。
なので、財務報告の信頼性リスクを統制するために、購買管理者、入荷管理者、支払管理者の職務を分掌(ぶんしょう)し、部品の発注、入荷、代金の支払の責務を分けることにします。

販売管理者、出荷管理者、請求管理者の分掌

もし、販売管理者が製品の受注、出荷、代金の請求をすべて行うと、どのようなリスクが発生するでしょか。
不正などにより販売管理者が受注した製品が棚卸資産として計上されない可能性があります。
また、販売管理者に会計に知識がない場合、代金が回収されても売掛金が消し込みされない可能性があります。
これは、棚卸資産や売掛金の実在性に対するリスクになります。
なので、財務報告の信頼性リスクを統制するために、販売管理者、出荷管理者、請求管理者の職務を分掌し、製品の受注、出荷、代金の請求の責務を分けることにします。

在庫管理者と会計管理者の分掌

物財を扱う在庫管理者が帳簿を扱うと、不正などにより正しく棚卸資産が計上されない可能性があります。
これは、棚卸資産の実在性に対するリスクになります。
なので、財務報告の信頼性リスクを統制するために、物財を扱う在庫管理者と帳簿を扱う会計管理者を分掌し、正しく棚卸資産が計上されるようにします。

戦略マップの戦略目標をどう実現するか

生産管理者と製造担当者の分掌

例えば、戦略目標に「製品/部品の安定供給および適正在庫」がある場合、それを実現するためには、在庫のムラを防ぐために、需要予測の精度上げるとともに、需要予測の結果と生産能力を考慮して生産計画を策定し適正数部品を仕込むことが重要です。
そこで、製造と生産管理の職務を分掌し生産計画の専門性を強化するようにします。

製造担当者と品質担当者の分掌

戦略目標に「製品品質の維持向上」がある場合、それを実現するために、製造と品質管理の職務を分掌し品質管理の専門性を強化します。


次にジョブのタスクを設計します。
タスクは、アクションフローのアクションが対応するので、データドリブン経営のマネジメントサイクルを構成する次のタスクをあらかじめ設計します。
例えば、販売管理者のタスクとして次のような内容を設計します。

  • 販売計画の策定
  • 提案
  • 販売の見積
  • 受注
  • 受注の変更
  • 受注の取消
  • 販売計画の検証・問題の特定
  • 販売計画の検証原因の推定
  • 販売計画の改善・課題の設定
  • 販売計画の改善・解決策の考案
  • 販売計画の改善・実験計画の策定
  • 販売計画の改善・解決策の検証
  • 販売活動の改革・改善

それから、タスクを設計するときは、ERMの観点で、戦略目標に対するリスクを統制するタスクを組み込みます。

ビジネスプロセスの整理

企業のビジネスプロセスを整理します。
ビジネスプロセスは、企業のステークホルダーに価値を提供する一連の過程です。
次の図は、企業のビジネスプロセスを活動領域別に一覧化したものです。

例えば、「販売」領域のビジネスプロセスには、

  • 販売計画の策定
  • 販売計画の検証
  • 販売計画の改善
  • 販売活動の改革・改善
  • 製品の販売
  • 製品の返品

があります。
各活動領域のビジネスプロセスには、マネジメントサイクルの計画(Plan)、実行(Do)、検証(Check)、改善(Act)のプロセスがあります。
「販売」領域のビジネスプロセスの場合、「販売計画の策定」プロセスが計画(Plan)、「製品の販売」プロセスと「製品の返品」プロセスが実行(Do)、「販売計画の検証」プロセスが検証(Check)、「販売計画の検証」プロセスと「販売活動の改革・改善」プロセスが改善(Act)です。
さらに、改善(Act)の中の販売活動の改革・改善は、ビジネスプロセスマネジメントのプロセスでビジネスプロセスを見直す(改革、改善する)プロセスです。
なので、各活動領域のビジネスプロセスによってデータドリブン経営のマネジメントサイクルが遂行されます。
それから、ビジネスプロセスは、生産方式や販売方式の違いによって分ける必要があります。
製品を製造する場合、様々な生産方式があります。

生産方式の違いによって製造プロセスだけでなく販売プロセスのフローが違ってきます。
例えば、下図の製品Aの場合、見込生産なので、受注すると出荷になりますが、製品Bの場合、受注組立生産なので、受注後、製品を組み立てて出荷になります。

次の販売方式ですが、商品が物財かサービスによって販売プロセスの流れが異なる可能性があります。
物財の場合、在庫持つので受注して出荷という販売プロセスの流れになりますが、サービスの場合、在庫持たないのでサービスの契約という販売プロセスの流れになります。
また、直接販売か間接販売によってステークホルダーが変わるので販売プロセスが異なる可能性があります。
直接販売の場合、販売先が顧客になりますが、間接販売の場合、販売先が代理店になります。

このように販売方式の違いによって販売プロセスの流れが異なる場合、ビジネスプロセスを分ける必要があります。
一通り、主要なビジネスプロセスの洗い出しが終了したら、各主要なビジネスプロセスに対してどのようなケースが考えられるか分析します。
次の図は、UMLのユースケース図を使って、「製品の販売」プロセスを分析した例です。

この場合、「製品の販売」プロセスは、製品の見積後、注文を受けてから製品が出荷される前までの一連の流れになります。
また、「製品の返品」プロセスは、納品後、なんらかの理由で製品が返品されるときの一連の流れになります。
この図を見ると「製品の販売」プロセスは「受注内容の変更」プロセスと、「受注の取消」プロセスに派生している(物事が枝分かれして生じている)ことがわかります。
これは、製品の注文を受けてから、製品が出荷されるまでの間に、「受注内容の変更」や「受注の取消」が発生するケースがあることを表しています。
さらに、「注文内容の変更」プロセスの具体的な内容には、「受注数量の変更」や「注文製品の変更」などがあることがわかります。
このように、具体的なケースをできるだけ多くあげることでビジネスプロセスをより深く整理することができます。
「アクションフローの設計」では、例えば、製品が既に出荷されている場合は、受注内容の変更や取消ができないなど、業務フローの条件分岐を分析します。

バリューチェーンの設計

戦略マップの内部プロセスの視点のバリューチェーンの主要な活動、

  • 価値を創る活動(Innovation)
  • 価値を伝える活動(Communication)
  • 価値を届ける活動(Operation)

でビジネスプロセスを分類することでバリューチェーンを設計します。
次の図は、産業機械メーカーの3つの活動のバリューチェーンを設計した例です。

一つひとつのホームベースアイコンは、バリューチェーンを構成する活動領域になります。
さらに、次の図は、会社のビジネスプロセスをバリューチェーンの3つの主要活動に当てはめたものです。

一つひとつのホームベースアイコンは、活動領域を構成するビジネスプロセスになります。

アクティビティフローの設計

バリューチェーンに割り当てた各ビジネスプロセスのアクティビティフローを分析します。
アクティビティフローは、業務フローのうちビジネスプロセスの本質的(環境の変化によらない不変的)な流れを示すものです。
アクティビティフロー設計の目的は、業務の本質的活動と流れを明確にすることです。
次の図は、UMLのアクティビティ図で、「製品の出荷」プロセスのアクティビティフローを描いた例です。

それから、例えば、受注から出荷、納品までなど、アクティビティフロー全体の流れを監視し、どのアクティビティが全体のスループットやリードタイムに影響を与えているかをリアルタイムで分析したい場合は、BAMの導入を検討します。

アクションフローの設計

次に、アクティビティフローのアクティビティのうち業務改善できそうなアクティビティをアクションフローに展開します。
アクションフローのアクションは、ジョブのタスクを参照して定義します。
次の図は、UMLのアクティビティ図で、製品の出荷」プロセスのアクティビティフローの中の「製品の出荷指示」アクティビティの流れをアクションフローとして描いた例です。

アクションフローは次の観点で設計します。

  • データドリブン経営の実現
    例えば、次のようなデータドリブン経営のタスクが反映されるように設計します。

    • 販売計画の検証・問題の特定
    • 販売計画の検証・原因の推定
    • 販売計画の改善・課題の設定
    • 販売計画の改善・解決策の考案
    • 販売計画の改善・実験計画の策定
    • 販売計画の改善・解決策の検証
    • 販売活動の改革・改善
  • 付加価値分析と業務改善
    ビジネスプロセスが価値を提供するステークホルダーに対して

    • 本当に価値を生み出すアクションは何か
    • 価値を生み出していないアクションは何か
    • 価値を生み出すアクションをもっと効果的に行うにはどうすべきか
    • 価値を生み出していないアクションはどうするか、削除、あるいは、削減するか、フローを変えるか、代替する手段はないか

    などの観点で、各アクションを分析し、業務改善の方法を考えます。
    業務改善方法の一環として、アプリケーションや、BPM基盤のワークフローシステムRPAの導入を検討します。
    ワークフローシステムは、アクションフロー全体を自動化するときに適用し、RPAは、アクションフローを構成するアクションを自動化するときに適用します。
    また、アクションフロー(例えば、注文が受け付けられてから在庫が引当てられるまで)のリードタイムやサイクルタイムをリアルタイムで監視し、目標からの乖離を監視したり、在庫引当などアクションの詳細なプロセス(例えば、システムが在庫を確認し、引当てを完了するまでの処理時間)を追跡し、処理の遅延やエラーをリアルタイムで検出したい場合は、BAMの導入を検討します。

  • AIの活用
    生成AIなどAIを活用してアクションが実現できないか検討します。

タスクの設計

アクションフローを構成する各アクションのうち、それを実行する主体であるジョブのタスクとして定義されていないものがあれば、タスクとして定義します。
例えば、上記「製品の出荷指示」アクティビティのアクションフローの「製品の出荷指示書の作成」と「製品の出荷指示書の送付」アクションは、出荷管理担当者(ジョブ)のタスクとして定義されます。

資産(種類)の設計

事業単位の設計を受けて、ビジネスストラクチャマトリクスの資産である顧客、製品、メンバー、パートナー、財務資産の種類、顧客カテゴリ、製品カテゴリ、メンバーカテゴリ、パートナーカテゴリ、財務資産カテゴリを設計します。
顧客カテゴリは、顧客タイプ(不変的な顧客の本質)を、例えば、年代、性別、地域など顧客分類基準によって分類した概念です。
製品カテゴリは、製品タイプ(不変的な製品の本質)を、例えば、デザイン、色、サイズなど製品分類基準によって分類した概念です。
そして、顧客カテゴリ×製品カテゴリで市場セグメントを形成します。
これは、マーケティング戦略のSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)のセグメンテーションに他なりません。
また、メンバーカテゴリは、メンバータイプ(不変的なメンバーの本質)を、例えば、雇用形態、職務(ジョブ)、職位(ポジション)などメンバー分類基準で分類した概念です。
メンバーカテゴリは、人事戦略によって策定される等級(グレード)などメンバーのセグメントを表します。

場所(種類)の設計

ビジネスストラクチャマトリクスの場所の種類、場所カテゴリを設計します。
例えば、製品Aの販売場所、製品Bの販売場所など製品カテゴリによって分類された場所などが考えられます。

組織の設計

ビジネスの機能の種類ある部門から構成される業務組織を設計します。
ジョブを市場×製品、つまり、事業単位別に分類したものが部門になります。
組織の設計は、組織戦略の策定に他なりません。

アクションプランの策定

事業戦略を実現するためのアクションプランを、設計フェーズで設計されたビジネスプロセスをベースに策定します。

ビジネスアーキテクチャとデータアーキテクチャの関係

次の図は、ビジネスアーキテクチャとデータアーキテクチャの関係を示しています。

※実践は、順番、点線は参照を示す線です。
これを見ると次のことがわかります。

ビジネスアーキテクチャとアプリケーションアーキテクチャの関係

次の図は、ビジネスアーキテクチャとアプリケーションアーキテクチャャの関係を示しています。

※実践は、順番、点線は参照を示す線です。
これを見ると次のことがわかります。

  • データアーキテクチャとしてアプリケーションポートフォリオを設計するときは、ビジネスアーキテクチャのジョブを参照する
  • データアーキテクチャとしてユースケースを抽出するときは、ビジネスアーキテクチャのアクションフローを参照する

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