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DXによる企業変革の進め方【耕して肥やす】

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記事「DXを成功させる3つの鍵」を踏まえて、ここでは、DXによる企業変革の進め方について、以下の観点で解説します。

  • DXによって企業が目指すべき姿
  • DXによる企業変革の進め方

DXによって企業が目指すべき姿

「DXを成功させる3つの鍵」では、DXを成功させるためには次の3つを実現する必要があると説明しました。

  • 仮説検証の仕組み
  • 変化に強い構造
  • 価値創出の企業文化


ここでは、この3つを実現する企業の構造を次のように表します。

最下層にエンタープライズアーキテクチャ(以下、EA)があり、その上に企業基盤があり、企業基盤の上でさまざまなビジネスが展開されています。
企業基盤の構成ですが、次のようになります。

  • IT基盤
    アプリケーションやデータを支える部分で、ハードウェア、ネットワーク、OS、ミドルウェア(DBMSなど)から構成されます。
  • データ基盤
    まず、データストアとしては、
    構造化データであるトランザクションデータ、マスターデータ、参照データと、そのリポジトリ(貯蔵庫)としてのDWH(データウェアハウス)、
    動画、画像、音声など非構造化データや半構造化データであるNoSQLも含めたリポジトリとしてのデータレイク
    があります。
    また、企業個別のプライベートブロックチェーンを構築する場合、あるいは、産業のコンソーシアムブロックチェーンに参画する場合、分散型台帳としてのブロックチェーンがデータ基盤に位置付けられます。
    そして、データを管理するためのデータ、メタデータがあります。
  • アプリケーション基盤
    アプリケーション基盤としては、分散型のマイクロサービス、あるいは、集中型でモノリシック(monolithic)な業務パッケージと、オンライン会議システムやメール、チャットのような企業全体の共通アプリケーションがあります。
  • 事業基盤
    事業基盤としては、各種ビジネスの共通サービスとしてのシェアドサービスと、コミュニケーション基盤があります。

さて、このうち、事業基盤(ビジネスプラットフォーム)の中の「コミュニケーション基盤」が、DXを成功させる3つの鍵の一つ「仮説検証の仕組み」を実現します。
次に、企業基盤を構成する残りの要素が、DXを成功させる3つの鍵の「変化に強い構造」を実現します。
そして、最下層にあるEAが、DXを成功させる3つの鍵の「価値創出の企業文化」を実現します。

DXによって企業を、表面的ではなく、抜本的に変革するためには、企業をこのような構造に再構築する必要があります。
一つ一つ見ていきましょう。

仮説検証の仕組み

事業基盤の中のコミュニケーション基盤によって仮説検証の仕組みを実現します。
コミュニケーション基盤は、次のような構造になっています。

コミュニケーション基盤では、確立された思考法と表記法の上で仮説検証プロセスが働きます。
まず、思考法ですが、これは、ビジネスを行う上で必要な基本的な考え方で主に次の3つから構成されます。

  • デザイン思考
  • システム思考
  • ロジカル思考

ロジカル思考の一つである帰納法の応用として統計やデータサイエンスも含まれます。
次に、表記法ですが、これは、頭の中の概念を表現する手法で、UMLやマインドマップ、データ表現手法などがあります。
最後に、企業全体で統一された思考法や表記法をベースに仮説検証プロセスが実行されます。
仮説検証プロセスでは、社員の気づきからアイデアを起こし、仮説を立案し、実験計画を組み立てて実験を行い、検証結果から学びを得るというサイクルを繰り返すことで体系的に組織ナレッジを蓄積していき、ビジネスの成功の確率を上げていきます。

なお、コミュニケーション基盤は、アプリケーション基盤の共通アプリであるオンライン会議システムやメール、チャット、BIツールなどをコミュニケーションツールとして活用します。

変化に強い構造

DXを成功させる3つの鍵の「変化に強い構造」を実現するのが企業基盤(エンタープライズプラットフォーム)です。
企業基盤は、次にような構造になっています。

企業基盤は、各種ビジネスに共通のビジネスプロセス(シェアドサービス)で構成された事業基盤(ビジネスプラットフォーム)、アプリケーション基盤、データ基盤、IT基盤がインターフェースを介して疎結合することで、相手の内部状態が変わっても影響を受けないという保守性の高い仕組になっています。
また、新規ビジネスを開発するときは、事業基盤のシェアドサービスやアプリケーション基盤のマイクロサービスを再利用することができるという生産性の高い仕組になっています。
企業基盤は、業務やシステムの生産性、保守性を高め変化に強い構造を実現するのです。

価値創出の企業文化

業務やシステムの仕組みは整っていても、それを運用する人が動かなければ絵に描いたもちで終わってしまいます。
仮説検証の仕組みができていても、社員の気づきやアイデアが次から次へでてこなければサイクルが回転しません。
企業の構造や仕組み(身体)は、魂を吹き込んで初めて動き始めるのです。
ここでは、社員のモチベーションの源泉は、

  • 会社と共に成長できるという成長の喜び
  • 会社の目的に貢献できるという貢献の喜び

ではないかと考えます。
社員が貢献と成長の喜びを得られる企業文化を構築するためにどうすればよいか。
そのためには、経営や評価をオープンにしガラス張りにする必要があるのではないかと考えます(ホワイトボックス経営)。
社員の行動の動機となる価値観である事業目的(パーパス)
事業目的を実現するためのビジネスモデル
会社が向かうべき先としてのビジョン
ビジョンを実現するための事業戦略
が社員に共有されており、
自分の作業が事業戦略のどの部分を担っているか把握できる
ことで、社員は、会社の目的に貢献できるという貢献の喜びを得ることができます。

これは、業務とシステムを構成する要素を5W1H(モジュール)×抽象度(レイヤ)で企業の構造を表したEAのフレームワークです。
これを見ると、なぜ(Why?)である事業のパーパスやビジョンをベースに、どのように(How?)であるビジネスプロセスやアクションプランが組み立てられることがわかります。
一人一人の社員は、アクションプランの作業を実行するわけですが、EAを設計することによって、自分の今の作業は「何のために」「どこにいくために」行っているのかを把握することができます。
また、EAでは、ビジネスプロセスの一環として事業を変革・創出するための仮説検証プロセスも設計するので、社員が、仮説検証によって蓄積されるナレッジを活用することで会社と共に成長することができます。

以上より、DXによって企業を表面的ではなく抜本的に変革するためには、EAをベースに企業基盤を構築し、その上で各種ビジネスが展開される構造に企業をトランスフォームする必要があるのです。

DXによる企業変革の進め方

それでは、DXによる企業変革どのように進めればよいでしょうか。
ここでは、既存の事業を運営しながら、
企業基盤の構築
事業の深化と探索
という、2つのプロセスを並行させて企業を再構築する方法を紹介します。

企業基盤の構築は、先に紹介した企業基盤を構築するプロセスで、収益を上げるための土壌をつくるCultivation(耕す)プロセスです。
事業の深化と探索は、企業基盤という土壌の上で、既存事業を深化させたり、新規事業を探索しながら収益を上げ、企業をさらに拡大していくNourishment(肥やす)プロセスです。
事業の深化と探索の詳細については、記事「DXを成功させる3つの鍵」を参照してください。
さて、企業基盤の構築プロセスと事業の深化と探索プロセスは、それぞれ、
設計フェーズ
構築フェーズ
運用フェーズ
に分けて進めます。
まず、設計フェーズでは、企業全体の基本構造であるEAを設計します。
次に、構築フェーズでは、EAに従って企業基盤を構築します。
その際、構築された企業基盤を段階的に適用しながら事業の深化と探索プロセスを進め、その妥当性を検証します。
最後に、構築された企業基盤を活用して、事業の深化と探索を進めます。
事業の深化の場合、既存事業の業務改善・改革プロセスという形で進め、事業の探索の場合、既存事業の変革や新規事業の創出プロセスという形で進めます。
なお、企業基盤の構築プロセスは、

  • ITサービスマネジメント導入プロセス
  • データマネジメント導入プロセス
  • シェアドサービス導入プロセス
  • コミュニケーション基盤構築プロセス

に分解することができ、
事業の深化と探索プロセスは、

  • 業務改善・革新プロセス
  • 事業変革・創出プロセス

に分解することができます。
業務改善・革新プロセスは、事業の深化に対応するプロセスで、事業変革・創出プロセスは、事業の探索に対応するプロセスです。
各ビジネプロセスは、それぞれ設計フェーズ、構築フェーズ、運用フェーズに分けて進められますが、互いに関連するので、設計フェーズを統合して最初に企業全体のEAを設計します。

EAの設計は次のような手順で進めます。

  1. 事業構成の明確化
    まず、企業を構成している事業を明確にします。
  2. パーパス・ビジョンの再定義
    次に、企業のパーパスと行動指針を再定義します。
    企業のパーパスと行動指針は、社員の行動の動機となる価値観になり、企業文化を構築します。
    次に、各事業の事業ドメイン(事業領域)を再定義します。
    事業ドメインのパーパスは、対象顧客の価値観と課題、それに対する解決策を明確にし、「誰に何の価値を提供するか」という観点で定義します。
    さらに、具体的な事業単位のターゲット顧客や製品の機能を明確にし、「いつまでにどこに向かうか」という観点で事業のビジョンを定義します。
  3. バリューチェーン分析
    パーパスとビジョンが定まったら、価値を生み出すバリューチェーンを明確にします。
    バリューチェーンは、各事業の主要活動と、それを支える支援活動に分けて、それぞれ、それを構成する活動領域を明確にします。
  4. 業務分析
    次に、バリューチェーンを構成する活量領域ごとに、関連する組織・場所・情報・財務・活動(誰が・どこで・何を使って・どうするか)を分析し、ビジネスアーキテクチャ、データアーキテクチャ、アプリケーションアーキテクチャとして表します。
  5. 事業戦略の可視化
    最後に、全社戦略として事業ポートフォリオ、各事業単位の個別戦略として戦略マップ、および、アクションプランを明確にします。
    また、全社戦略から全社IT戦略を導きテクノロジーアーキテクチャを設計します。

次に、EAに基づいて、企業基盤を構築します。
データ基盤、および、アプリケーション基盤によって、各事業単位のアプリケーションが遂行されるイメージは次のようになります。

この例では、事業単位のアプリケーションがESBを介して機能別のマイクロサービスを共有しています。
また、アプリ基盤のマイクロサービスは、データ基盤のDAO(データアクセスオブジェクト)を介してデータにアクセスします。
データ構造をDAOによってラップすることで、データ構造の変更によるリスクを局所化することができます。

企業基盤が構築されたら、それを活用して、
事業変革・創出
業務改善・改革
を遂行していきます。
まず、事業変革・創出ですが以下のように進めます。

価値仮説検証プロセス

事業ライフサイクルの導入期に以下の手順で進めます。

  1. パーパスの定義
    顧客の価値観と課題、それに対する解決策を明確にし、「誰に何の価値を提供するか」という観点で事業のパーパスを定義します。
    ここでは、顧客が本当に求めているもの、真の欲求(Desirability)を価値仮説として設定します。
  2. ビジネスモデルの設計
    次に、事業がどのようにして収益を上げ、成長し続けるか(持続可能か)をビジネスモデルとして描きます。
    ここでは、事業が本当に生き残っていけるか(Viability)を成長仮説として設定します。
  3. マネジメントチームの構築
    ビジネスを実現するメンバーを集めマネジメントチームを構築します。
    マネジメントチームは、協業者だけでなく、専門家、投資家、製品ユーザーなど様々な人材で構成します。
  4. ソリューションの設計・構築
    チームが構築できたら、顧客の課題を解決するソリューションとしての製品(Product)を設計、構築します。
    ここでは、製品はなぜ価値を提供できるのか、製品の実現可能性(Feasibility)を検証します。

価値仮説検証プロセスは、仮説検証プロセスです。
想定した顧客タイプごとのアクションプラン(実計画)を策定し、仮説検証を繰り返し、価値仮説の妥当性を検証します。

成長仮説検証プロセス

価値仮説の妥当性が確認できたら、価値仮説検証プロセスで設計した成長仮説の妥当性を検証します。
これは、事業ライフサイクルの成長期(前半)に以下の手順で進めます。

  1. ビジネスアーキテクチャの設計
    まず、ビジネスの土台となる、組織・場所・情報・財務・活動(誰が・どこで・何を使って・どうするか)をビジネスアーキテクチャとして設計します。
  2. ビジョンの設定
    続いて、いつまでにどこに向かうのかという観点で、事業のビジョンを設定します。
  3. 事業戦略の策定
    次に、先に設計したビジネスモデルをベースに、ビジョンをどのように実現するか事業戦略を策定します。
  4. 組織の構築
    事業戦略が定まったら、それを実現する人材を集め組織を構築します。
  5. 事業戦略の検証
    最後に、組織のメンバー全員で事業戦略の妥当性を検証します。

成長仮説検証プロセスも、仮説検証プロセスです。
事業戦略として想定した顧客カテゴリごとのアクションプラン(実計画)を策定し、仮説検証を繰り返し、成長仮説の妥当性を検証します。

次に、業務改善・改革ですが、次のように進めます。

全社戦略から導出された全社IT戦略は、事業単位の戦略アプリ、全社アプリケーション基盤、全社データ基盤間の優先順位、および、戦略アプリ間の優先順位、全社アプリケーション基盤のマイクロサービス間の優先順位、全社データ基盤のデータストレージ間の優先順位を考えIT資源の配分を明確にします。
戦略アプリ間の優先順位は、事業ポートフォリオをベースに考え、マイクロサービス間の優先順位やデータストレージ間の優先順位は要素間の依存関係を考慮して考えます。
業務改善・改革は、事業戦略を実現するための業務課題を起点に進めます。
業務課題は業務要件として定義され、それを実現するためのビジネスプロセスや、それを構成する活動を設計します。
業務要件を実現する手段としてアプリケーションが必要な場合、その機能要件、および、非機能要件を定義します。
アプリケーションの非機能要件を満たすためのIT資源は、全社IT戦略を考慮して配分されます。
アプリケーションの機能要件は、システムの機能(ユースケース)として定義されます。
システムの機能は、ビジネスプロセスの活動を実現する手段になります。
システム機能が定義されたら、それを実現するドメインモデルを設計し、開発を進めます。

以上、今回は、DXによる企業変革の概要について解説しました。

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