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【実践!DX】顧客の創造とイノベーション【創造と変革】

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記事「【実践!DX】論理基盤の創出【会社をメタ認知する】」

では、記事「DXはどう進めればよいか」で示した4つのフェーズのうち「方向づけフェーズ」で企業情報基盤の論理基盤を構築する方法について説明しました。
また、記事「【実践!DX】資産と活動」では、企業の論理基盤、特に、ビジネスモデルを考える上で資産と活動が重要な要素であることを説明しました。
ここでは、資産と活動のうち、資産をどう創出するかにフォーカスを当てて次の観点で説明します。

顧客の創造

P.ドラッカーは、ドラッカー「マネジメント」エッセンシャル版という本の中で、
企業の目的は、
顧客の創造
であるとし、それは、
顧客が何を求めているのか(ニーズ)理解し、製品とサービスを、それに合わせて、自ずから売れるようにする(デマンド)こと
だと説明しました。
さらに、製品やサービスが手に入るようになるまで、顧客が自身のニーズを気づいていない場合があるとし、企業に必要な機能は、未だない新しい満足を生み出すイノベーションだと説いています。
自動車会社フォード・モーターの創設者、ヘンリー・フォードが言った
「顧客に何が欲しいかと尋ねたら、もっと早い馬が欲しいという答えが返ってきただろう」
という言葉は有名です。

イノベーションとは

ここで、イノベーションとは何か見ていきましょう。
オーストリアの経済学者シュンペーターは、「経済発展の理論」という書籍の中で、イノベーションについて、次のように説明しています。

  • 同質をいくら重ねても現状の改善レベルの変化にしか至らず、産業発展は飽和してしまう。
  • そこで異質な新しいものを導入し、既存の産業構造を「創造的に破壊する」ことによって、飛躍的な産業発展が実現される。
  • この異質な新しいものを導入することを新結合と呼び、
  • 新結合を実行することをイノベーション(Innovation)と呼ぶ。
    イノベーション(Innovation)は、ラテン語の”Innovare”(イノベア:内に新しい発想を導入し、新しくする)に、実行するという意味をかけて、シュンペーターが造った言葉だそうです。

そこで、先程のドラッカーの顧客の創造とイノベーションを組み合わせると次のようになります。

異質の新しいもの(技術・ノウハウや素材など)を導入することで、イノベーション(Innovation)を起こし、ニーズをデマンドに変えて顧客を創造(Creation)する。
なお、ここでは、異質の新しいものを、「イノベーションを起こす素」という意味でシーズという言葉で表しています。
つまり、シーズとニーズの新結合によってイノベーションが起こり、新しい市場が創出されるのです。
そこで、次に、ニーズとシーズについて深掘っていきましょう。

ニーズとは

ニーズとは、人間の心身の欲求のことです。
人間の心身の欲求を満たす性質が価値です。
さらに、貨幣による交換など経済的犠牲を伴う価値を経済価値といいます。
例えば、空気には人間の生理的欲求を満たすための価値がありますが、今のところ経済的な犠牲は伴いません。
ただ、近い将来、空気も経済的犠牲を伴う経済価値になるかもしれません。
さて、この人間の欲求を階層化したものに、マズローの欲求5段階説があります。
マズローの欲求5段階説で考えると、SNSは、「いいね!」ボタンによって、人間の承認欲求という潜在的ニーズを顕在化したビジネスと考えることができます。

また、スターバックスは、「第三の空間」を提供することで、社会的欲求という潜在的ニーズを顕在化したビジネスと考えることができます。

それから、2015年9月25日に国連総会で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)、略称、SDGs(エスディージーズ))は、人類の安全欲求を満たすための開発目標だと考えることができます。

シーズとは

マーケティングでいうシーズ(Seeds)とは、
製品やサービス開発の素となる技術やノウハウ、特別な素材や材料
のことです。
このうち、技術やノウハウは、データ化されている場合や、職務(ジョブ)の機能である場合があります。
また、製品を開発する素となる素材や材料ですが、サービスの場合、それを構成する店舗などの物や職務(ジョブ)もサービスの素になるシーズと考えてよいと思います。
なお、シーズが、新結合を起こすものである場合、
イノベーションを起こす素となる異質の技術やノウハウ、特別な素材や材料
となります。

シーズとニーズ

以上、シーズとニーズについて見てきましたが、これらの組み合わせについて考えてみましょう。
次の図は、シーズとニーズを、それぞれ、潜在的か顕在的で分類して、それらをかけあわせたイノベーションマトリクスです。

顕在的シーズと顕在的ニーズの組み合わせは、既にある組み合わせなので「新結合」、イノベーションにはならないと思いますが、それ以外は、イノベーションの組み合わせだと考えることができます。
例えば、たまたま失敗作としてできた接着力の弱い接着剤が何か使えないかと考えていた技術開発者が、本にはさまっていた栞が落ちたのを見たときに閃いてできたのがポストイットであるという話は有名です。

サービスの場合も考えてみましょう。
「車に乗せて行ってほしい」というニーズに答えるための専用車としてのタクシーは、すでにある組み合わせですが、

家庭にある自家用車を適用すると「ライドシェア」という新結合が生まれます。

この場合、家庭にある自家用車が、稼ぐ力を持つ資産になったわけです。
また、従来からあるスポーツジムを、メインターゲットを中高年女性に絞った「女性専用のフィットネスクラブ」にすることで新しいサービが生まれます。

値段を気にせず好きな食材を使って自分独自のフレンチを作りたいという一流シェフの想いを、立ち飲みスタイルの店舗で叶えたのが「俺のフレンチ」です。

この場合、サービスにおける新結合の素(シーズ)は、一流シェフという職務(ジョブ)になります。
さて、シュンペーターは、イノベーションを次の5つに分類しています。

  1. 新しい製品/サービスの創出
    新しい財貨、新しい品質の財貨の生産。
  2. 新しい生産方式の導入
    当該産業部門において実際上 未知な生産方式の導入。
  3. 新しい市場の開拓
    当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓。
  4. 新しい資源の獲得
    原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。
  5. 新しい組織の実現
    新しい組織の実現による独占的地位の形成、あるいは独占の打破。

このうち、新しい生産方式は、技術・ノウハウというシーズになると考えることができます。
例えば、ユニクロは、素材開発から販売までの流れを一元管理するという新しいプロセスを導入することでLifeWearというアパレルの新しい分野を切り開きました。

また、新しいテクノロジーというシーズを導入したDXも新しい生産方式によるイノベーションの一つと考えることができます。

スタートアップとスモールビジネス

さて、潜在的シーズと潜在的ニーズの組み合わによる「新結合」、イノベーションを中心に例を見てきましたが、ビジネスをする場合、必ずしもイノベーションが必要なわけではありません。
ただ、シュンペーターが言うように、異質な新しいものを導入し、既存の産業構造を「創造的に破壊する」ことによって、飛躍的な産業発展が実現されるので、イノベーションを起こしてビジネスを進めるほうが飛躍的に成長します。
ここでは、イノベーションを伴う起業をスタートアップ、イノベーションを伴わない事業をスモールビジネスと分類します。

スモールビジネスは、既にある産業なので一定の成長を示すだけですが、スタートアップの場合、新しい産業を起こすことになるので飛躍的に成長します。
スタートアップが一旦マイナスになり、キャズムを超えた時点から急激に成長するJカーブを描くのは、新しい事業を開発し、市場に展開し、新しい需要を喚起させるためのキャッシュフローが必要だからです。

資産の創出

さて、ここで、イノベーションと、価値を生み出す源泉である「資産」の関係を考えてみましょう。
まず、顧客は、人的資産になります。
新しい製品やサービスをつくる素になる技術やノウハウがデータ化されていれば、それは情報資産になりますし、新素材や物は、財務資産になります。
また、職務(ジョブ)は、それを実行するメンバーやパートナーなど人的資産が必要です。
そして、シーズとニーズが結合して製品やサービスという知的資産が生まれます。

そう考えると、イノベーションは、価値を生み出す源泉である「資産」を創出する活動と考えることができます。
最近、生成AIを活用して会社に眠ったビッグデータから有益なデータを抽出するという話をよく聞きます。
まさに、データを資産化して、製品やサービスをつくる素、新結合の素をつくっているわけです。

事業成長のフレームワーク

さて、記事「【実践!DX】ビジネスアーキテクチャの設計方法」事業成長モデルについて紹介しました。
資産が価値を生み出すことで事業パーパス「誰に何の価値を提供するか」を実現し、それによる対価を資産に投資するという正のフィードバックループを創ることで、ビジネスの実行可能性(Viability)、つまり、ビジネスが成長し持続可能になる度合を上げるというモデルです。
俺のフレンチの事業成長モデルを見ると、一流シェフというシーズと、立ち食いスタイルの店舗という方法をかけ合わせることで「安くて美味しい高級フレンチ」という顧客価値(顧客の欲求を満たす性質)を創り出していることがわかります。
なので、

  • 有限のリソースである一流シェフをいち早く確保すること(人的資産に対する投資)
  • 有限の空間である地域にいち早く出店して地域ドミナントを確立すること(固定資産に対する投資)

で競争優位性を確立し、ビジネスの実行可能性(Viability)を上げることができることもわかります。
ここで、俺のフレンチのモデルをよく見ていただくと、さらに、顧客が増えれば、一流シェフが「俺のフレンチをつくる機会」も増え、それがモチベーションになって、一流シェフの確保やスキル向上に拍車がかかるモデルになっていることがわかります。
つまり、顧客が増えることでシーズを生み出すメンバーやパートナーのモチベーションが上がるモデルにすることによって、事業成長モデルがより強固になるのです。

これを抽象化したものが次の事業成長のフレームワークです。

これは、シーズ・ニーズの資産から創出された知的資産が顧客価値を生み出し、顧客から得た対価を投資することで正のフィードバックループを創るというモデルです。
なお、図で表す場合、サービスであれば知的資産の部分は不要です。
これを見ると、シーズになる資産や、それをニーズと結合するための資産(シーズ・ニーズの資産)が、価値を生む源泉、稼ぐ力の源泉になることがわかります。
また、メンバーやパートナーの価値を高めモチベーションを上げることで、シーズ・ニーズの資産の獲得、創出が加速することもわかります。
なので、そこに資金と資源を投入(選択と集中)することで、ビジネスの実行可能性(Viability)を高めることができます。
新規ビジネスを考えるとき、既存ビジネスを分析するとき、

  • 俺のフレンチのモデルの一流シェフや立ち食いスタイルの店舗のような、シーズになる資産や、ニーズと結合するための資産は何か
  • シーズ・ニーズの資産を創出するメンバーやパートナーのモチベーションを高める価値は何か
  • そこに投資することで、ビジネスの実行可能性(Viability)を上げることができるか

検討していただくとよいかと思います。

ビジネスの起源

事業成長のフレームワークのようにフレームワーク化すると、どうしても頭で考えてビジネスを作ろうしがちになります。
しかし、何らかの原体験からビジネスのシーズやニーズを汲み取ってビジネスを始めるのが自然です。
俺のフレンチの例のように、一流シェフに「俺のフレンチ」を作らせてあげたいという強い想いがビジネスの起源になるではないでしょうか。
京セラの起源は、創業者の稲盛さんが、真摯に積み重ねてきたセラミック生産技術・ノウハウというビジネスの種(シーズ)です。
このような強い想いが組織文化になって、幾度の挫折にもメゲない、ビジネスの真の実行可能性(Viability)を育んでいくのではないでしょうか。

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