ここでは、記事「DXはどう進めればよいか」で示した4つのフェーズのうち「方向づけフェーズ」で企業情報基盤の論理基盤をどうつくればよいかについて、こちらで想像した俺のフレンチのケースを例にして、次の順で説明します。
- 目的を明確にする【パーパスの再確認】
- ビジネスを概観する【現行ビジネスモデルの分析】
- 価値創造プロセス(戦略の本質)を設計する【戦略マップの作成】
- あるべきビジネスを設計する【将来ビジネスモデルの設計】
- ビジネスの評価指標を決める【KPIの定義】
- どこに向かうか定める【ビジョンの設定】
- 戦略を具体化する【事業戦略の策定】
- 目標を定める【BSCの作成】
- 規模を見積もる【投資計画の策定】
- 手順を決める【マスタープランの策定】
目的を明確にする【パーパスの再確認】
企業情報基盤の論理基盤は、企業のパーパスを起点としたビジネスモデルを設計し、それを具体的な事業戦略に展開することで創ります。
なので、まず、
- どのうような考えで事業するのか(企業の価値観:Value)
- 何のために事業をするのか(事業の目的:Purpose)
を明確にする必要があります。
企業の価値観は、企業のメンバーが「どのように行動すればよいか」という拠り所、行動基準を表します。
企業のパーパスは、「誰に何の価値を提供するか」という観点で考えます。
価値を提供する相手は、顧客やメンバー、株主などのステークホルダーになります。
俺のフレンチの事業パーパスの場合、
- お客様に、安くてい美味しい高級フレンチを提供する
- 一流シェフに、高級食材を使って自由に「俺のフレンチ」をつくる機会を提供する
になります。
ただ、最も大事なのは、なぜ、事業を始めようと考えたのかという創業の「想い」です。
俺のフレンチの想い
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)
最近、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)という言葉をよく聞きます。
それぞれ次のように定義することができます。
- ミッション(Mission)
企業の使命で、企業が何のために存在しているのか(Why:存在理由)を表します。 - ビジョン(Vision)
企業の未来像で、企業がどんな未来を実現したいのか(What)を表します。 - バリュー(Value)
企業の価値観で、企業に所属するメンバーがどのように考え、行動することでミッションやビジョンを実現するのか(How)を表します。
さて、ミッションとパーパスですが、どちらも企業の目的、存在意義を表すものです。
ただ、ミッションは、言葉の通り宗教的な意味合いを含んでおり、パーパスをさらに強めたニュアンスになります。
それから、バリューは、企業のメンバーが「どのように行動すればよいか」という拠り所、行動基準になり、通常、経営理念として表されます。
ここでは、パーパスは、事業(企業)のライフサイクル全体を通して変わらない目的、存在意義を表し、それをある時点の具体的な内容にしたものがビジョン、パーパスやビジョンを実現するための考え方や行動基準など企業の価値観を表すものをバリューと考えます。
参考記事
記事「ビジネスアーキテクチャの設計」・事業パーパスの定義
【関連動画】
ビジネスを概観する【現行ビジネスモデルの分析】
ビジネスは、メンバーが、パートナーと協力して、特定の場所にある情報資産や財務資産を使いながら、ジョブを遂行して製品という価値を創出し、それを顧客に届けるプロセスです。
なので、まず、ビジネスを構成する一つ一つの要素を明確にする必要があります。
さて、ビジネスモデルを考える場合、重要なのが資産と活動です。
詳細は、記事「資産と活動」を参照してください。
顧客の定義
詳細は、記事「ビジネスモデルの設計」・事業成長モデルの設計を参照してください。
製品の定義
詳細は、記事「ビジネスモデルの設計」・事業成長モデルの設計を参照してください。
メンバーの定義
詳細は、記事「ビジネスモデルの設計」・事業成長モデルの設計を参照してください。
パートナーの定義
詳細は、記事「ビジネスモデルの設計」・事業成長モデルの設計を参照してください。
場所の定義
次に、ビジネスを遂行する場所を定義します。
ここでは、場所の本質的な型として、営業場所、生産場所、物流場所のように、どのような活動を行う場所なのかを定義します。
俺のフレンチの場合、店舗が販売場所になります。
活動の定義
次に、そのビジネスには、どのような活動領域があるのか明確にします。
次の図は、会社の一般的な活動領域ですが、企業が製造業でない場合、「生産」活動は必要なくなります。
俺のフレンチの活動は次のようになります。
「生産」活動と物流の活動はなく、「サービス」、「販売」、「請求」活動の部分が店舗オペレーションである「飲食サービス」です。
ジョブの定義
次に、そのビジネスには、どのようなジョブがあるのか明確にします。
俺のフレンチの例の場合、「立ち食いスタイルのお店で、一流シェフのつくる安くてい美味しい高級フレンチを食べることができる飲食サービス」という製品価値を実現するために必要な「一流シェフ」というジョブが必要になります。
情報資産の定義
次に、ビジネスのパーパスを実現するために必要な情報資産として、アプリケーションタイプ、データタイプ、ITタイプを定義します。
なお、データには、マスターデータとトランザクションデータなどデータの種類がありますが、ここでは、マスターデータ、参照データ、マネジメントデータの型を定義し、トランザクションデータの型は、ビジネスプロセスを詳細化するときに概念データモデルとして定義します。
アプリケーションタイプの定義
アプリケーションの型を表すアプリケーションタイプを定義します。
マスターデータの定義
ビジネスの資産や場所を表すデータタイプとしてマスターデータを定義します。
参照データの定義
他のデータ(トランザクションデータやマスターデータ)を特徴づけたり、データと外部組織のデータを関連づけたりするために使用されるデータタイプとして参照データを定義します。
マネジメントデータの定義
動画や音声、文書など、データの形式や内容に決まりを設けず管理される非構造化データのデータタイプとしてマネジメントデータを定義します。
ITタイプの定義
ITタイプは、アプリケーションやデータを支える情報システム基盤で、企業情報基盤のIT基盤、コミュニケーション基盤、アプリケーション基盤のアプリケーション連携基盤(EAI・ESB)、BPM基盤の構成要素になります。
ビジネスモデルとしてはITタイプを設計しますが、事業戦略の一環としてIT戦略を立案するとき、各ITタイプごとに具体的な製品としてのITカテゴリを設定します。
財務資産の定義
次に、ビジネスのパーパスを実現するために必要な財務資産を定義します。
例えば、俺のフレンチの例の場合、「立ち食いスタイルのお店で、一流シェフのつくる安くてい美味しい高級フレンチを食べることができる飲食サービス」という製品価値を実現するために必要な「立ち食いスタイルの店舗」が重要な財務資産になります。
ビジネスプロセスの定義
最後に、そのビジネスのビジネスプロセスを洗い出し、それを詳細化します。
ビジネスプロセスの洗い出し
まず、ビジネスプロセスを洗い出します。
ビジネスプロセスの詳細化
次に、ビジネスプロセスの詳細として、業務フローと概念データモデルを定義します。
業務フローには、ビジネスプロセスの本質的な流れを示すアクティビティフローと、それを構成するアクティビティをさらに詳細化したアクションフローがあります。
概念データモデルは、アクティビティフローのアクティビティをトランザクションデータの型として定義し、それらと、マスターデータの関係を構造化したものです。
価値創造プロセス(戦略の本質)を設計する【戦略マップの作成】
次に、戦略マップを描くことで、
- ビジネスによって、価値がどう創出され、どうステークホルダーに提供されるか
- ビジネスによって、持続可能なビジネスが構築できるか
検討します。
戦略マップは、会社の活動の流れでいうと、無形資産である情報資本、人的資本、組織資本に投資することで、それが関わる価値創出プロセスである顧客管理(CRM)、イノベーションの管理(PLM)と、価値提供プロセスである業務管理(SCM)を強化し、顧客により多くの価値を提供し、結果的に株主価値を増やすという考え方になります。
それでは、各視点について見ていきましょう。
財務の視点
財務の視点には、株主に対する価値を提供するための財務目標を記述します。
財務の視点の財務目標には、「収益の増大」と「生産性の向上」がありますが、俺のフレンチの例では、「収益の増大」を対象に考えていきます。
顧客の視点
には、「顧客は何によって心身の欲求を満たされるのか」という価値観(顧客価値)を記述します。
上述した顧客の定義で言及したように、俺のフレンチの場合「安くてい美味しい高級フレンチが食べたい」という価値観を持つ顧客を対象にしています。
なので、顧客の視点の戦略マップは次のようになります。
つまり、「安くてい美味しい高級フレンチが食べたい」という顧客を増やすことで収益を増大させるという戦略です。
內部プロセスの視点
には、內部のビジネスプロセスに求められる戦略目標と課題を記述します。
- 戦略目標
顧客価値を実現するため、あるいは、生産性を上げるための內部プロセスの目標。 - 戦略課題
戦略目標を達成するための業務課題。
俺のフレンチの場合「安くてい美味しい高級フレンチが食べたい」という顧客価値を満たすための戦略目標として「美味しい高級フレンチの提供」と「安いフレンチの提供」の2つを設定します。
次に、戦略目標を達成するための戦略課題を次のように設定します。
まず、「美味しい高級フレンチの提供」という戦略目標を達成するための課題として次を設定します。
- 「食材の品質が高い」こと。
- そのためには「品質の高い食材を提供する仕入先と良好な関係を築く」必要があること。
- 次に、「食材の鮮度が高い」こと。
- そのためには「食材サプライチェーンの効率化」が必要であること。
- 次に、「料理の技術力が高い」ことと、
- 「料理のメニュー構成が良い」こと。
次に、「安いフレンチの提供」という戦略目標を達成するための課題として次を設定します。
- 「立ち食いスタイルの店舗」にすること。
- そのためには「効果的な店舗開発」(店舗デザイン)をすること。
- 「オペレーションコストを下げる」こと。
- 「まとめ買いによるボリュームディスカウント」。
- そのためには「効果的な店舗開発」(収益性の高い店舗)をして「好立地の店舗を増やす」こと。
- 「固定客を増やす」こと。
- そのためには「好立地の店舗を増やす」とともに「利便性を上げる」こと。
ちなみに、上記戦略課題に関係する活動は「購買」、「飲食サービス」、「設備管理」、「商品管理」、「顧客管理」です。
学習と成長の視点
には、次のことを明確に定義します。
学習と成長の視点は、ビジネスが継続的に成長するために投資すべき無形資産を明らかにします。
- 人的資本
内部プロセスを支援し、業務課題を解決するためには、どんな職務が重要で、その職務に必要な能力(コンピテンシー)やナレッジは何か。- 人的資本目標
戦略課題を解決するための人的資本の目標。
人的資本目標では、強化すべき戦略的職務(ジョブ)を明らかにします。 - 人的資本課題
人的資本目標を達成するための課題。
- 人的資本目標
- 情報資本
内部プロセスを支援し、業務課題を解決するためには、どんなデータ、アプリケーション、IT基盤が必要か。- 情報資本目標
戦略課題を解決するための情報資本の目標。
情報資本目標では、強化すべきアプリケーションを明らかにします。 - 情報資本課題
情報資本目標を達成するための課題。
情報資本課題には、情報資本目標のアプリケーションに求められる機能を記述します。
これは、情報システム開発の機能要求になります。
- 情報資本目標
- 組織資本
内部プロセスを支援し、業務課題を解決するために、組織文化、リーダシップ、チームワークはどうあるべきか。- 組織資本目標
すべての戦略目標を達成するための組織資本の目標。
例えば、「カスタマーサクセスを中心に考える」など、経営理念(会社の価値観)に組み込み組織文化として醸成すべき内容を明らかにします。 - 組織資本課題
組織資本目標を達成するための課題。
例えば、「カスタマーサクセスを中心に考える」というマインドセットを醸成するための課題を設定します。
- 組織資本目標
次の図は、学習と成長の視点まで含めた俺のフレンチの戦略マップの例です。
俺のフレンチの製品価値は、「立ち食いスタイルのお店で、一流シェフのつくる安くてい美味しい高級フレンチを食べることができる飲食サービス」なので、戦略マップでいうと、次の目標、課題がMVP(Minimum Viable Product)、つまり、初期の顧客を満足させ、将来の製品開発に役立つ有効なフィードバックや実証を得られる最小限の機能を備えた製品(この場合サービス)を構成するビジネスの骨格になります。
- 立ち食いスタイルの店舗(戦略課題)
- 技術力の高いシェフの確保(人的資本目標)
- 企画力の高いシェフの確保(人的資本目標)
なので、俺のフレンチの場合、
- 限りあるエリアにできるだけ多く出店して、その地域の顧客を総取りする(地域ドミナントの確立)
- 限りのある資源である一流シェフをできるだけ早く確保する
という戦略を取ることで、持続的な成長を可能とする競争優位性、ディフェンシビリティ(Defensibility:防御可能性)を上げることができます。
それでは、こちらで想定した「学習と成長の視点」の目標、課題について見ていきましょう。
まず、「美味しい高級フレンチを提供する」という戦略目標を実現する課題から説明します。
「料理の技術力が高い」という戦略課題を解決するための人的資本目標として「技術力の高いシェフの確保」を設定しています。
「料理のメニュー構成が良い」という戦略課題を解決するために、「企画力の高いシェフの確保」という人的資本目標と「製品管理システムの導入」という情報資本目標を設定しています。
商品管理システム(PLM)の、商品(この場合、料理メニュー)のポートフォリオを管理する機能によって、製品全体の収益の変遷を掴むことができ、料理メニューの入れ替えに活用することができます。
次に、「食材サプライチェーンの効率化」という戦略課題を解決するために「購買管理システムの導入」という情報資本目標を設定していまう。
これによって、仕入先からの食材調達を自動化するとともに、必要なときに必要な食材を調達するための支援を得ることができます。
また、購買管理システムは、過去の調達履歴から仕入先を評価することができ「品質の高い食材を提供する仕入先と良好な関係を築く」という戦略課題の解決にも貢献します。
次に、「安いフレンチを提供する」という戦略目標を実現する課題について説明します。
まず、店舗の「オペレーションコストを下げる」という戦略課題を解決するために「販売管理システムの導入」という情報資本目標を設定しています。
販売管理システムにより、料理の注文や精算を電子化することができ、店舗オペレーションを効率化することができます。
次に、「効果的な店舗開発」とうい戦略課題を解決するために「AIを活用した店舗分析システムの導入」という情報資本目標を設定しています。
好立地の店舗を増やすためには、「効果的な店舗開発」が重要です。
AIを活用することで、どのような立地に出店すると、どのようなお客様がどれだけ出店してくれそうか予想することができます。
次に、「利便性を上げる」という戦略課題をを解決するために「販売管理システムの導入」という情報資本目標を設定し、販売管理システムに求める機能として「オンライン予約」という情報資本課題を設定しています。
オンラインであらかじめ予約する機能によって、お客様の利便性を上げることができるという想定です。
最後に、「顧客との良好な関係を築く」という戦略課題を解決するために「顧客管理システムの導入」という情報資本目標を設定しています。
顧客管理システム(CRM)は、顧客のロイヤルティを高めるための様々な機能を提供します。
さて、最後に組織資本ですが、俺のフレンチの場合、「美味しい高級フレンチの提供」という戦略目標を実現するシェフになるメンバーに求めるマインドセット(価値観)は何か」を考える必要があります。
ここでは、「お客様を幸せにする俺のフレンチを追求する」というマインドを組織資本目標として設定することにします。
あるべきビジネスを設計する【将来ビジネスモデルの設計】
次に、戦略マップの結果から、主に次の観点で、あるべきビジネスモデルを設計します。
- 学習と成長の視点の組織資本目標を実現するメンバーの設計
- 学習と成長の視点の組織資本目標を実現するパートナーの設計
- 学習と成長の視点の人的資本目標を実現するジョブの設計(ジョブの構成)
- 学習と成長の視点の情報資本目標を実現する情報資産の設計
- 內部プロセスの視点の戦略課題を解決するビジネスプロセスの設計
なお、これら以外、例えば顧客や製品など現行ビジネスモデルとして定義した内容は踏襲されます。
メンバーの設計
俺のフレンチの場合、組織資本目標である「お客様を幸せにする俺のフレンチを追求する」というマインドになります。
パートナーの設計
俺のフレンチの場合、主要なパートナーは仕入先になります。
ここでは、仕入先に求めるマインドセットを、組織資本目標に合わせて、「お客様を幸せにする食材を追求する」にします。
ジョブの設計
上述した俺のフレンチの活動を踏まえてジョブを次のように設計します。
情報資産の設計
情報資本ポートフォリオ
情報資本目標を踏まえて、俺のフレンチの情報資本ポートフォリオを次のように設計します。
マスターデータ
次に、俺のフレンチのマスターデータですが、代表的なデータは次のようになります。
マスターデータはマスター共有ハブで一元管理します。
- 製品管理システムが主幹システムとなる品目マスター。
レシピも管理したいので作業も含めたBOM(部品表)にします。 - 顧客管理システムが主幹システムとなる顧客マスター。
- 購買管理システムが主幹システムとなる仕入先マスター。
- 店舗管理システムが主幹システムとなる店舗マスター。
- コードマスター。
柔軟にコードを追加、変更できるようコードマスターを設け、すべてのマスターデータが参照できるようにします。
アプリケーションアーキテクチャ
俺のフレンチは、次のような設計思想でアプリケーションアーキテクチャを設計しました。
- 各システムをマイクロサービスアーキテクチャに基づいてEAIを介して連携する。
- その上で、フロントエンドアプリケーションが各マイクロサービスを利用することで、システム開発の生産性と保守性を上げる。
- 顧客マスターや品目マスターなどマスターデータはデータ基盤の一つであるマスター共有ハブで共有することでデータ品質を上げる。
- 店舗分析システムなど分析システムの分析データはデータ基盤の一つであるでDWHに蓄積し共有する。
ビジネスプロセスの設計
次に俺のフレンチのビジネスプロセスですが、戦略課題を解決する必要のある次のプロセスについて見ていきましょう。
- 飲食サービスの提供
「オペレーションコストを下げる」という戦略課題を解決する必要があります。 - 食材の調達
「食材サプライチェーンの効率化」という戦略課題を解決する必要があります。 - 商品の開発
「料理のメニュー構成が良い」という戦略課題を解決する必要があります。 - 店舗の開発
「効果的な店舗開発」という戦略課題を解決する必要があります。
飲食サービスの提供
飲食サービスを提供する業務フローは通常次のようになります。
俺のフレンチでは、「オペレーションコストを下げる」という戦略課題を解決するために販売管理システムを導入することで次のような業務フローを設計しました。
- オンライン予約により、空き時間を利用して、販売管理者は、あらかじめ来客の準備をすることができる
- 顧客は、オンラインで注文や支払をすることができる
ことにより、販売管理者の仕事を限定することができ、販売管理者の数を削減することができます。
食材の調達
俺のフレンチでは、「食材サプライチェーンの効率化」という戦略課題を解決するために購買管理システムを導入することで次のような業務フローを設計しました。
- 仕入先は、新鮮な食材を購買管理システムに登録することができる
- シェフは、登録された食材と、製品管理システムに登録されているレシピを見ながらメニューを検討することができる
- 購買管理システムを通して食材の発注と検品ができる
なお、蓄積された検品結果は、定期的な「仕入先の評価」プロセスで活用されます。
ことで、新鮮な食材を効率よく仕入れることができます。
商品の開発
俺のフレンチでは、「料理のメニュー構成が良い」という戦略課題を解決するために商品管理システムを導入することで次のような業務フローを設計しました。
- 顧客管理システムでAIを活用した顧客アンケート分析ができる
- 商品ポートフォリオ分析で製品全体の収益の変遷を見ることで人気商品の傾向を掴むことができる
ことで、顧客の好みにあった料理のメニューを考えることができます。
店舗の開発
俺のフレンチでは、「効果的な店舗開発」という戦略課題を解決するために店舗分析システムを導入することで次のような業務フローを設計しました。
- 店舗管理者は、エリア情報や店舗情報から出店した場合の収益性を予測することができる
- 店舗管理者は、AIを活用した店舗デザインができる
ことで、効果的な店舗開発をすることができます。
システムの機能要件
さて、上述した各業務フローのシステムのレーンのアクションをシステムのユースケースにすることで各システムに求められる機能要件を定義することができます。
販売管理システム
購買管理システム
商品管理システム
店舗分析システム
顧客管理システム
ビジネスの評価指標を決める【KPIの定義】
次に戦略マップの実現度合いを測るKPIを定義します。
次の図は、俺のフレンチのBSCのKPI構成例です。
LTVは、顧客の生涯価値(Lifetime value)で、次の式で表すことができます。
LTV=(顧客単価×粗利率×購買頻度×取引期間)-(顧客の獲得コスト+顧客維持コスト)。
なお、顧客の獲得コストは、CPA(Cost Per Acquisition)といいます。
俺のフレンチの場合、「安くてい美味しい高級フレンチが食べたい」という顧客を増やすことで収益を増大させるという戦略なので、LTVを上げることで売上高を上げるという関係にしています。
また、俺のフレンチの場合、
- 限りあるエリアにできるだけ多く出店して、その地域の顧客を総取りする(地域ドミナントの確立)
- 限りのある資源である一流シェフをできるだけ早く確保する
という戦略を取ることで、持続的な成長を可能とする競争優位性、ディフェンシビリティ(Defensibility:防御可能性)を上げることができるので、エリア別出店数とシェフの採用数は重要な指標になります。
さて、內部プロセスの視点のKPIは、店舗軸と商品軸に分かれています。
店舗軸の場合、店舗単位のユニット・エコノミクス(単位当たり経済性)を測ることを重視しています。
また、商品軸の場合、商品の部品である食材の品質や鮮度の評価、商品そのものの評価、商品の構成の評価を測る内容になっています。
最後に、システムに関する機能適合性ですが、これは、
- ユーザーの機能要求とシステムの仕様(要件)はどの程度合致しているか(仕様適合性)
- システムが顧客を満足させるものになっているか(妥当性)
を測る指標です。
戦略マップの情報資本課題は、ユーザーの機能要求になるので、それがどの程度実現されているかを測るように設定されています。
検証フェーズで、ERPパッケージのフィットアンドギャップ分析などを行い、検証段階で機能適合性をしっかりチェックすることが寛容です。
どこに向かうか定める【ビジョンの設定】
ビジネスモデルは、ビジネスのライフサイクルを通した不変的な型ですが、それをある時点の具体的な内容にしたものが事業戦略です。
ビジネスモデルでは、事業の不変的な目的(パーパス)を設定し、事業戦略では、それをある時点の具体的な内容にしたビジョンを設定します。
事業のビジョンを考えるとき重要なのが事業のライフサイクルです。
今、その事業はどのステージにいて、次にどのステージを目指すのか考えます。
そして、次のステージでは、戦略マップの中のどの目標や課題を実現するかという観点でビジョンを具体化します。
次の図は、スタートアップの成長段階を表したものです。
今現在、その事業が立っているステージによってビジョンと戦略は変わってきます。
例えば、事業がシードステージにいるのであれば、顧客の価値観に製品価値がどれだけ適合(フィット)するか、つまり、PMF(Product Market Fit)を検証して事業自体成り立ことを確証できている状態を目指します。
PMFを測る一般的な指標(KPI)は、
- マーケティングをせずにどれだけ成長するか
- ユーザーの良質な口コミはどれだけ発生するか
- ユーザーからの積極的な機能改善要望はあるか
- 製品・サービス導入後のアクティブ率はどの程度か
など、価値を届けたい特定の顧客(ペルソナ)がその製品やサービスにどの程度「熱狂」しているかを測るものになります。
俺のフレンチの場合、シードステージであれば、「立ち食いでもよいから安くてい美味しい高級フレンチが食べたいという顧客が実際に相当数いる」ということが確証されている状態を目指すと思います。
俺のフレンチの戦略マップでいうと、シードステージは、
- 「立ち食いスタイルの店舗」によって「安いフレンチを提供」するとともに、
- 「技術力の高いシェフの確保」することで「美味しい高級フレンチを提供」し、
- 「安くて美味しい高級フレンチが食べたい」という顧客価値を実現する
というビジョンが実証された状態を目指すということになります。
そして、検証フェーズで、仮説検証を繰り返しながらPMFを検証します。
PMFが確立した、つまり、事業が成立することが確証できたアーリーステージであれば、俺のフレンチの場合、
- 「販売管理システムの導入」することで、「オペレーションコストを下げ」、
- 「好立地の店舗を増やす」することで「固定客を増やす」
という次のビジョンを設定し、それを実証するのではないでしょうか。
この場合、販売管理システムの開発や店舗の増設という投資が発生するので必要に応じて資金調達をします。
さらに、ミドルステージになると、出店数を増やすことで地域ドミナントを確立し、限られた資源である一流シェフをたくさん雇用することでMOAT(城壁)を築き競争優位性を確立することになると思います。
この段階になると、購買管理システムや商品管理システム、店舗分析システムの開発など多くの投資をすることでビジネスをより盤石にしていきます。
戦略を具体化する【事業戦略の策定】
次に、ビジョンをどう実現するのか、その方向性を示す事業戦略を策定します。
ここでは、ビジネスの型(ビジネスモデル)を具体的な事業戦略に展開します。
記事「変化に強いビジネスを創る」で説明した、ビジネスを縦軸に構成要素(目的・資産・場所・機能・活動)、横軸にレイヤ構造で分けた図でいうと次の図の型を分類する過程になります。
方向づけフェーズでいうと「事業戦略の策定」プロセスになります。
それでは、具体的に見ていきましょう。
まず、顧客カテゴリと製品カテゴリを定義することで、マーケティング戦略でいうSTPを考えます。
STPとは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の略で、市場を細分化し、ターゲット市場を選定し、その中における製品のポジション(位置づけ)を考えるということです。
顧客の分類
ここでは、ビジネスモデルで定義した顧客の型(顧客タイプ)を分類し、ターゲットとなる市場セグメント(顧客カテゴリ)を定義します。
市場をセグメンテーションするとき、よく使われるのがフィリップ・コトラーのセグメンテーション基準です。
コトラーのセグメンテーション基準は、次の4つの分析軸で市場を分類します。
- 地理的変数
地域、都市規模、人口密度、気候など - 人口統計的変数
年齢、性別、家族数、所得、職業、学歴、国籍など - 心理的変数
ライフスタイル、性格など - 行動的変数
追究利益(ベネフィット)、使用頻度、ロイヤルティ、製品への態度など
俺のフレンチの場合、都心部のサラリーマン、あるいは、郊外に住む家族などが考えられます。
検証フェーズで、顧客カテゴリ×製品カテゴリ×メンバーカテゴリ×場所カテゴリ×部門×アクションプランの組み合わせによる仮説検証を通して、複数の顧客カテゴリのうちどれを選択するか決めます。
製品の分類
ここでは、ビジネスモデルで定義した製品の型(製品タイプ)を分類し、そのポジション(製品カテゴリ)を定義します。
製品をポジショニングするとき、よく使われるのがパーセプションマップです。
パーセプションマップとは、あるブランドや製品に対して、顧客が認識するイメージを2軸で表したものです。
次の図は、塾のポジションを示したしたパーセプションマップの例です。
「授業料の価格」と「講師やサポートの質」の2軸で製品を分類して、自社の製品のポジションを示していることがわかります。
また、ブルーオーシャン戦略の戦略キャンバスも製品をポジショニングするとき使えます。
戦略キャンバスは、横軸に競争要因、縦軸にその度合をとって、製品のポジションを明確にします。
次の例は、QBハウスのポジションを示した戦略キャンバスの例です。
この例の場合、一般的な理髪店の競争要因を削除、あるいは、削減することでコスト優位性を上げるとともに、一般的な理髪店にはない競争要因を追加、増加することで差別化し、競争優位性を上げています。
検証フェーズで、顧客カテゴリ×製品カテゴリ×メンバーカテゴリ×場所カテゴリ×部門×アクションプランの組み合わせによる仮説検証を通して、複数の製品カテゴリのうちどれを選択するか決めます。
メンバーの分類
ここでは、ビジネスモデルで定義したメンバーの型(メンバータイプ)を分類し、ターゲットとなるメンバーカテゴリを定義します。
年齢や性別などの人口統計的変数で分類し、どのセグメントをターゲットにするのか考えます。
検証フェーズで、顧客カテゴリ×製品カテゴリ×メンバーカテゴリ×場所カテゴリ×部門×アクションプランの組み合わせによる仮説検証を通して、複数のメンバーカテゴリのうちどれを選択するか決めます。
パートナーの分類
ここでは、ビジネスモデルで定義したパートナーの型(パートナータイプ)を分類し、ターゲットとなるパートナーカテゴリを定義します。
業種や企業規模、国でパートナーを分類し、どのセグメントをターゲットにするのか考えます。
場所の分類
ここでは、ビジネスモデルで定義した場所の型(場所タイプ)を分類し、ターゲットとなる場所カテゴリを定義します。
地域で場所を分類し、どのセグメントをターゲットにするのか考えます。
俺のフレンチの場合、出店するエリアとして、商業地域、あるいは、郊外などが考えられます。
検証フェーズで、顧客カテゴリ×製品カテゴリ×メンバーカテゴリ×場所カテゴリ×部門×アクションプランの組み合わせによる仮説検証を通して、複数の場所カテゴリのうちどれを選択するか決めます。
ジョブの分類
ここでは、ビジネスモデルで定義したジョブを事業(市場×製品)単位に分類することで部門を定義し、組織戦略を策定します。
情報資産の分類
アプリケーションの分類
ここでは、ビジネスモデルで定義したアプリケーションの型(アプリケーションタイプ)を具体的な製品として分類します。
例えば、販売管理システムであれば、ERPパッケージで実現する具体的な販売管理システムやスクラッチ開発で実現する具体的な販売管理システムに分類します。
データの分類
ここでは、ビジネスモデルで定義した概念レベルのデータの型(データタイプ)を論理レベルのデータの種類に分類します。
例えば、ビジネスプロセスの詳細化で作成した概念データモデルを論理データモデルにします。
ITの分類
ここでは、ビジネスモデルで定義したITの型(ITタイプ)を具体的な製品として分類します。
例えば、クラウドであれば、AWSのEC2など具体的な製品として定義します。販売管理システムやスクラッチ開発で実現する具体的な販売管理システムに分類します。
財務資産の分類
ここでは、ビジネスモデルで定義した財務資産の型(財務資産タイプ)を財務資産の特徴で分類し、ターゲットとなる財務資産カテゴリを定義します。
ビジネスプロセスの分類
ここでは、ビジネスモデルで定義したビジネスプロセスを事業(市場×製品)単位に分類することでアクションプランを定義します。
ビジネスプロセスの構成要素はタスクですが、アクションプランを構成する要素はアクションになります。
アクションは、タスク(課業)を、時間軸も含めて具体化した活動で、実行可能な単位です。
検証フェーズで、顧客カテゴリ×製品カテゴリ×メンバーカテゴリ×場所カテゴリ×部門×アクションプランの組み合わせによる仮説検証を通して、複数のアクションプランのうちどれを選択するか決めます。
目標を定める【BSCの作成】
次にビジョンと事業戦略の実現度合いをBSCとして設定します。
具体的には、上述したBSCを構成するKPIの目標値を設定します。
BSCですが、事業のステージとビジョン、戦略によってKPIの目標値は変遷します。
規模を見積もる【投資計画の策定】
次に、事業戦略に従ってビジネスシステムを構築し、それを運用するための投資計画とマスタープランを策定します。
詳細は、記事「情報資本ポートフォリオとDX投資」を参照してください。
なお、実際のビジネスシステムの実現は、検証フェーズ、構築フェーズ、移行フェーズを通して行います。
次の図は、俺のフレンチのミドルステージのDX投資計画の例です。
手順を決める【マスタープランの策定】
次の図は、俺のフレンチのミドルステージのDX投資計画に対するDXマスタープランの例です。
次のような計画になっていることがわかります。
- 検証フェーズを設けて、全体的な機能検証と技術検証を行う。
- トランザクション処理アプリケーションを導入後、分析システムを導入している。
- 各アプリケーション導入時に、アプリケーション間のデータ連携部分を開発する必要があるので、それに合わせてEAIの構築を行っている。
- トランザクション処理アプリケーションを導入時に、マスター共有ハブの構築を行っている。
- 分析システム構築時に、DWHの構築を行っている。
[…] ;決する、あるべきビジネスプロセスの業務フローを設計することがで& […]